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13歳の少女に声をかけるポルシェ男 〜 女性の在り方とは

『公園まで散歩に行かない?』と近所の子が娘を誘いに来た。アメリカでは9月から新学期が始まったが、未だ続いているオンライン授業で家に籠もりがちな子供達にとって、こうした近所繋がりは本当にありがたい。

出かけて間もなく、2人は息を切らしながら戻って来た。彼女ら曰く、歩いていると急に黒のポルシェに乗った男性が『可愛いねぇ。2人はお友達?』とニヤニヤ声をかけて来て、気味が悪かったので走って逃げて来たという。走りながら振り返ると、近くの医療関係のオフィスが入っているビルにそのポルシェが入って行くのを見たそうだ。

一般的にアメリカでは日本の様に子供達だけで出かける機会が少ない。スポーツや習い事へは親が車で連れていく。登下校もスクールバスか親の送迎だ。なので身も知らずの男性に、今まで経験したことの無い”変な”対応をされて恐ろしく思ったに違いない。

悲しいかな、こうして少女達は男性が自分を見る”奇妙な視線”を経験し、社会が自分達を置こうとする”位置”を知らされていく。

どう対応しようか考えていると、腹が立って来たのか娘は『どこのビルに入ったかわかったから、念の為ナンバープレートの写メを撮ってくる!』と言ってまた出て行き、ポルシェの写真を撮って帰って来た。

この小さな出来事は実はもっと大きな社会のシステムだと言うことをまだ娘に上手く説明出来ないでいる。

丁度2年前、上院司法委員会を前に、トランプが指名した米国最高裁判官候補のブレッド カバノーに対し、Dr. クリスティーン フォードが高校生の時に彼から受けたという性的暴行について、告発している中継を祈る思いで見ていた。感情を露わに、あまりにも幼稚な受け答え方をするカバノーの様子を見ながら、まさかこの人がアメリカ最高裁判事という司法の頂点の立場に選ばれる事はないだろう、と思った。

Dr.フォードの渾身の訴えは、トランプ当選の次の日に勃発したWomen's March(アメリカ史上最大のデモ行進。写真↓は著者が参加したAustinでのデモ)に続き、#MeeToo運動を世界に広めるきっかけになった元映画プロデューサーのハービー ワインスタインの何十件にも渡るセクハラ事件を経て、憤慨したアメリカ人達がこの国の公平であるべき司法システムがどう対処するのかを見守っていたものだった。

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プライバシーもプライドも捨て、公平な最高裁判事選出のために告発を思い切ったDr.フォードは結局、大統領であるトランプに記者達の前でふざけた物真似までされる始末だった。一方ブレッド カバノーはアメリカ最高裁判事へと最高の昇格を遂げた。

それでも私たちにはまだRuth Bader Ginsburg (RBG)が残っていた。幾度のガンと戦いながらもトランプが大統領でいる限りは死ねない、と本人も闘病しながら歯を食いしばっていただろう。大切な最高裁のガーディアンエンジェルとして多くの人がRBGを頼りにしていた。彼女の生き様が映画にもなったが、現在の女性達に男性と同じ権利があるのは、30年近く最高裁判事として努めた彼女が女性には閉ざされていたドアをどんどん開けて来てくれたお陰でもある。

丁度2週間前、9月18日に彼女が他界したニュースが流れた瞬間、彼女を支持するアメリカ中の人々が同時に”f*ck!"と嘆いた様だった。ここではアメリカの選挙システムについては説明しないが、RBGが他界したことで、トランプと共和党多数の上院は11月3日の大統領選までに、孟ダッシュでRBGの代わりの裁判官を決定するに違いないからだ。代わりに指名された裁判官候補はRBGとは反対の保守的思考者で、女性やLGBTQの権利を守って来た前例を片端から覆しにやってくる事が予想されている。このカードを使ってトランプは、トランプアメリカを疑問に思っていた敬虔なクリスチャン層にも強力なアピールができる。自由の国アメリカは今まさに崖っぷちにある。

RBGもDr. フォードも『それはおかしい!』と感じた物事に対して真っ向から向かい合い『これは不公平だから正さないといけない』と公表し行動した女性たちだ。それによって多くの人々に勇気を与え、少しずつ社会の意識が変えていく。この『それはおかしい』と感じる心のざわつきは誰もが経験した事があるだろう。ただ多くの場合私たちは、周囲の目を気にし波風立てない方が楽だからと黙っている。それが正しい女性らしさ、ともいつの間にか勘違いする様になった。こうして『おかしい』と感じるセンサーまで鈍り、女性達はCritical thinking能力を奪われていくのではないだろうか。

2020年先進国である日本では、いまだに女性は仕事でお茶汲みをさせられ、男性に気に入られる事に大人になっても多大な価値を置く。アイドル崇拝文化の日本は、女性が男性社会からの価値観から解放され、自分らしく生きれる社会になるには遠い道のりに見える。

このポルシェ男の行動の最大の問題は、少女達が尊敬に値する大人に成長していくイメージの欠如にある

この大の大人の男は、自分が必要以上のスペースをこの社会で主張することになんの疑いも持たず今まで生きて来たのだろう。前述した様に、女性のほとんどがこう言った言動(もっとタチが悪いものが多いが)を当たり前の様に受け入れて来た。男だからしょうがない、男はそんなもんだ、と女達の間では暗黙の了解だ。

『これはおかしい!』の心のバロメーターを侮ってはいけない。このざわつきは自分の本来の位置を開拓し、公平なより良い社会へとアップデートする原動力になる。

RBGが生前のインタビューで答えた内容を思い出す。

『女性だからといって、贔屓してと言っているのではない。男性の皆にお願いしたいのは、私たちの首根っこを押さえつけているその足を外して欲しいだけ。』

黒のポルシェは同じビルに毎日停車されている。そこに勤務しているのであろう。さあ、どう思い知らせてやろうか。。。👻


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