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[小説]夏の犬たち

13
全13回。頭を洗わない女子大学生のよもぎは今日も男の体を眺めていた。
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#恋愛小説部門

[小説]夏の犬たち(1/13)– 視線

[小説]夏の犬たち(1/13)– 視線

 もっと透けないか。そう念じながら、よもぎは白いシャツの背中を見つめていた。

 一列とんで前の席に座る男子学生の、初夏の陽気に汗ばんだ背中に貼りついているシャツは、その下の肌の色や筋肉の張りを伝えそうで、あと少し及ばない。目を凝らせばなんとかなる気がして眉間に一層のしわを刻む。重たいまぶたの下、研ぎ澄まされた陽炎を思わせるよもぎの眼光は、この大講義室の教員を含めた誰よりもおそらく鋭い。

 視覚

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