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【あべ本#7】安冨歩『ジャパン・イズ・バック』

まさに「試練の書」

これまたすごい表紙。明らかに「反安倍」的な人しか受け付けないであろう「アベ本」。筆者の安冨さんが山本太郎氏率いる「れいわ新撰組」から参院選に出馬されるということで、ある意味タイムリーでもあるので取り上げます。

結論から言ってしまえば、「思ったより面白い」。が、面白いと思えるまで読み進むのには、数々の試練が待ち受けています。

本を開くといきなりこれ。

これは特定秘密保護法にあてつけているわけですが、13年の可決から6年弱経ってこういうものを見ると、味わい深いものがありますね。早くもここで脱落される方も多いのでは。

また、第一章では震災後話題になった「奇跡の一本松」の欺瞞を指摘しつつ、自民党の2012年の衆院選キャッチフレーズ「日本を取り戻す」が「イッポンをトレモロス」に聞こえるというネタをいじくりまわしており、よほどの安倍嫌いでないと乗り越えられない難関となっております。

しかも副題〈安倍政権に見る近代日本「立場主義」の矛盾〉にある「立場主義」が第一章から出ては来るのですが、それが一体何なのか、詳しい定義は第三章を読まなければわからないという構成になっており、「(特定秘密保護法は)『日本立場主義人民共和国』成立のための法律だ」という筆者の嘆きも、頭から順に読んでいると、どうもぼやっとしたままになってしまいます。

また、よくある安倍批判のパターン、「岸との比較」「戦争をしたがっている」は踏襲されています。

経済については「読ませる」内容

第二章の経済政策については、京大大学院で経済学を修了され、バブルのただなかで銀行にお勤めだったという安冨氏の経験がいかんなく発揮され、かなり面白い読み物となっています。

中でも、〈経済というのは極めて多数の要素の入り乱れる複雑系であって、一つの要素に注目するだけで流れが読める、と考える方が不遜〉という一文には、誠実ささえ感じるほど。

リベラル派の一部からは時に「もう経済成長を目指すな、江戸時代に帰れ」的な言説も発せられますが、安冨氏はそういう方々とは一線を画しているようです。

いい労働とは何か、について、要約すれば「与えられた仕事を黙ってこなす忍耐ではなく、いくらやっても疲れないほど幸せを感じるような労働でなければ新しい道を探った方がいい」とし、こう提案します。

政府にもしこの面で手を差し伸べる余地があるとするなら、こういう人たちが働きやすいようにサポートする金銭や制度のシステムを構築していくことだと思います。
そうすれば「生きる力」を生み出す彼らの影響によって、普通に生きている人の「生きる力」も増すでしょう。これが「成長」です。

安倍政権と同じことを言っている!?

さらには、「日本の豊かな自然と歴史遺産を、どちらも持っていない中国の人々に楽しんでもらおう」「金にうるさい河内のおっさん(私=安冨のことですが)が言うんだから間違いはありません」と言っています。

単に「楽しんでもらおう」ではなく、カネにしようと言っているわけで、安倍政権の観光政策と一緒では?

また、「日本はブランドを築き上げて生き残るべきだ」とも言っており、日本酒「獺祭」が世界中でブランドとして取引されている例を挙げています。「COOL JAPAN」の文字まで。安倍政権の「クールジャパン」政策は批判されてもいますが、少なくとも安冨氏の考える方向は、安倍政権と一致している。

もちろん、一冊を通じて安倍政権(というか「安倍なる人々」?)を批判しているわけで、憲法にしろ原発にしろ、ほとんどの政策は相容れないのだと思いますが、一致しているところもあるわけで、これはこれで「この部分は政策を支持する」とか、「もっと良くなるためにアドバイスさせてほしい」とか言ってもよかったのでは。見事議員になられたら安冨氏にはそういうことも期待したいですね。

「依存先を増やす」ことと「地球儀外交」

さて、第三章でようやく全貌が明らかになる「立場主義」ですが、これは要するに「人は共同体の中で、それぞれの持ち場で頑張ることが大事」だという幻想に固執することを指しています。そして安倍総理の思考はまさに「立場主義」にとらわれていることを、発言などから読み解いていきます。

正直、これについては判断しかねます。共同体意識なく根無し草で一人でも頑張れるという人がそんなにいますかね?

ただ、第三章で述べている「国家であれ個人であれ、依存先を増やしておけば、決定的なある一国・一人への決定的な依存は防げる」という話はいいと思いました。もちろん安倍政権の対米追従批判の流れではあるのですが、この考えには賛成だし、実際には安倍政権の「地球儀外交」なるものも、(官邸が意識しているかはどうあれ)この安冨氏の提言と結びつけることは可能なのでは? と思います。

表紙も表紙だしな……と読み始めましたが、得るものは多かったし、何より安冨さん自身の考えが、結果的に安倍政権の政策と(見かけ上であっても)一致しているところもあると分かったのは収穫でした。

なお、安冨氏は本書で「5人ぐらいが月替わりで首相を務める月番制がいい」としています。議員になったらぜひ政策提案してほしいものです。


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梶井彩子
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