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異世界キャンプ チートはなくても美味しいものがあれば充分です

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「モンスターしか食べるものがないんだけど!」  ピクシーのリリは叫ぶ! 川雲百合、リリが人だった頃の名前だ。 ある日の仕事終わり、急に目の前がフッと真っ暗になると、魔道士に目的…
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#小説

18話、サウエム荒原(8)

「どうしたのラーナ?」
「ん? おはよう、リリ」
「朝に体を動かすでもなく、食べるわけでもないラーナを見るのは珍しいわね」
「酷いなぁ、ボクでもトレーニングをサボったり、食欲のない日はあるってことだよ」

静かに表情を変えずに答えるラーナ。
 リリはその横顔を見て、何か心配事があるのかと不安に思った。

「それは本格的に珍しいわ、雪でも降るのかしら?」

そう笑いながら、からかうリリ。

「リリが

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18話、サウエム荒原(7)

巨大ナマズが砂漠から飛び出るという、びっくりな出来事から一昼夜。
 その朝は珍しいことに、リリは朝早くに目を覚ました。

「ふぁぁーー!」

両手を伸ばし、身体と羽根のコリを取っていく。
 羽根が凝り固まるのかは分からないが、リリは凝っていると勝手に感じている。
 寝静まった馬車の荷台を眺めていると、少しづつ意識が夢から戻ってきた。

ザ――――――。

(……相変わらず雨は降ってるみたいね、とい

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18話、サウエム荒原(6)

そこには二匹のサンドワーム、そしてデザートフィッシュの大群。
 デザートフィッシュは逃げ場をなくした魚のように中心へと集まっている。

「うわー、もう入れ食いじゃない、二匹もいると凄いわね」
「しかも、あれは珍しく番じゃあないか!」
「サンドワームって雌雄の区別付くの?」
「もちろんさっ」
「この距離でわかるようなが特徴あるの!?」
「まぁね、歯の並びが違うんのさっ」

(……まったくわからんわ!

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18話、サウエム荒原(5)

「く、腐る……クリスタは腐るのですか」
「あーなるほどねぇ、それで私に聞いてきたのか」

イヴァの話しを聞いたクリスタは青ざめ、ソフィアは納得したような反応をした。

「魔法で腐りにくくなっとるとはいえ、所詮ほ死人じゃからなぁ、長期間持たせるなら、なにかせんといかん」
「イヴァ! そんな重要な事、早く言いなさいよ! 急いで対処しないといけないことじゃないの?」

アワアワと飛び回りながら、リリが叫

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18話、サウエム荒原(4)

「クリスタは知っています、城の誰よりも早く起きては剣の稽古をし、夜は誰よりも遅くまで帝王学に励む努力家であることを」
「努力なんてしてないわ、わたくしは天才なのよ!」

クラウディアの言葉をクリスタは無視して言う。

「どんなに辛いことがあっても、領民や私たち平民の前では笑顔で市政に立つ我慢強い一面をもっていることを知っています」
「そ、そんなことないですわ」

その言葉を聞き、クラウディアは恥ず

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16話、デザートプレデター(4)

「嬢ちゃん達、投げナイフは残ってるか?」

アンがラーナとクリスタに大声で問いかけた

「ボクはあと3本!」
「私は2本です」

二人の切迫した声色から、先程よりもジリジリと追い詰められてるのを感じる。
 散々攻撃をしているにも関わらず、デザートプレデターの頭数が減っていないからだ。

「そろそろ手詰まりか……」
「投げナイフだけじゃ厳しそう、上手いこと入れ替わって突撃してくるし」

アンの呟きに

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16話、デザートプレデター(3)

(急げ急げ急げ急げ)

リリは空を飛び回り、キョロキョロと空から周りを見下ろしていた。
 焦れば焦るほど視界が狭くなるのを感じる。

「まだ、まだみんなは大丈夫よね……」

人どころか動物すら見当たらない、広大な荒野で探しものなど無茶であることは分かっていた。
 時間感覚もとっくに狂っている、リリにとって永遠かとも思えるほどの時間を飛び回りながら荒野をくまなく探す

「……っあ!! いたー!!」

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16話、デザートプレデター(2)

「くそっジジィ達、しくじりやがったな」

ギルドでのやり取りを思い出し、アンはボヤくと馬車に飛びついてきたデザートプレデターをけん制し、オリャ! っと声を上げ大盾を大きく振り回す。
 ガゴンッと鈍い大きな音を立て、デザートプレデターは後方へと弾き飛ばされた。

「アン様、見事です」

横に控えていたクリスタはすぐさまナイフを投げる、それは見事に首元へと刺さる。
 しかしデザートプレデターは何事もな

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16話、デザートプレデター(1)

「デザートプレデターだ! 全力で街まで逃げるんだ!」

アンの怒号が響く、下では乗っている馬車の車輪がガタガタと悲鳴を上げている。
 馬車は猛スピードで走り抜けているにもかかわらず、後ろを追いかける馬と同じサイズの獣が二匹。
 牙を剝き出しにした顔のない獣は、二足歩行のまるで化け物だ。
 誰もが恐怖に慄くであろう化け物を前に、ラーナが問いかける。

「戦うのは?」

アンに聞きながらも、牽制でナイ

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15話、とてつもなく大きな鶏肉(8)

「宴の時間じゃー」

(あんたは年中、宴してるじゃない)

 心の中でつっこんだリリの目の前には大きな鶏肉の塊。
 ガランティーヌを囲むように五人と一羽は、傍から見ると異教の宗教をしているようにも見える。
 その一行は肉に齧りつき酒を煽る。
 リリも久々のまともな食材にワクワクしていた。

「リリ、美味しいよ! ちょっと生なのが面白いね!」

 ラーナの言葉に一抹の不安を覚えたリリももも肉に齧り付

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15話、とてつもなく大きな鶏肉(7)

[2,中に詰めるタネを作る]

「パンは適当にちぎって……んんっ! 硬っ……しかも、量が多いぃー…………後回し!」

 一本ちぎり終えたリリは樽の中のパンを数えるとサッと目を逸らす。

「それじゃあラーナが切っといてくれた内臓のあまりに調味料を入れよー……って、これも多いな!! ラーナが炒めてる分より多くない? あれっ? 肝臓が一番大きいんじゃ…………あー肺か! 鳥だもんねあの巨体を浮かせるんだか

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15話、とてつもなく大きな鶏肉(6)

「どう? 出来た?」
「多分ね、ほらっ」

 指さしたのは、水を張った樽、中の細切れのお肉の形がしっかりと見える。

「随分ときれいになったわね」
「ちゃんとやったからね!」
「血抜きも問題なさそうだし、作ろっか」
「オッケー!!」

 リリを追いスカイロックを登っては降り、更にはロック鳥との戦闘までした後だというのにラーナの返事はいつもと変わらない。

(ちょっとラーナってば、ハイになり過ぎてな

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15話、とてつもなく大きな鶏肉(5)

【ピクシーの生態と秘法】

 リリは知る由もないが、ピクシーの秘法と多種族に呼ばれているものには、勘違いから起きたからくりがある。
 力も弱く魔法に長けた体躯の小さなピクシー族は、自ら人里に下りてこない限り、まずみつかること自体が珍しい。
 だからこそ、生活様式は謎に包まれているのだが、一般的に知られているのは魔法主体の生活をしており、ちょっとした力仕事ですら魔法で済ませること。
 主食は木の実や

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15話、とてつもなく大きな鶏肉(4)

【内臓の下処理】

「よしっ! それじゃあラーナ、わたし達も内蔵を下ごしらえしていきましょー!」
「もっと欲しかったなぁ」
「充分でしょ!?」
「まぁいっか、それでどうしたらいいの? 切るの?」
「切るというよりかは掃除をするといった方が正しいわ、筋とか脂の塊とか臭くなりそうな所や、腐りやすい所は取り除いて欲しいの」
「あぁ下処理ね」
「その後に小さく切ったら、血を洗い流して、キレイな水に漬けて、

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