見出し画像

溺愛パンの向こう側

「これ、焼き立てです」

そう柔らかな声を響かせながら、深めのバスケットに熱々のパンたちを乗せて、店員さんはそっと私の傍から離れていった。

このパン屋さんは、自家製天然酵母が使われているライ麦のハードパンが多く揃っている。そんなこだわり満点な品揃えがお気に入り。

それ以上に好きなのは、いつでも店員さんが温かいこと。忙しなさもなく、時がとても穏やかに流れている空気が心地いい。

「いらっしゃいませ」の言葉も、「ありがとうございます」の言葉も、やっつけみたいな雑さはそこにない。柔らかい声かけからは「買わせてやろう」という圧が全くない。

しかしパンの扱い方、陳列の並び方、包み方、全てが丁寧で、全ての商品に愛情がこもっていることが分かるから、何かを発していなくても買いたくなっちゃう、そんな魅力に溢れている。

だからこそ、10時の開店なのにお昼を過ぎたらほとんどのパンが売り切れてしまうのも頷ける。

ゆっくり、じっくり自分のペースで選ぶことができて、全てに愛情がこもっていて、そしてこだわりのパンは、とっても美味しい。

だから、大好き。

そんなパン屋さんに、懐かしい記憶を引き出してもらった。

ここから先は

941字

かみつれ

¥400 / 月 初月無料

忘れたくない小さな心の動きと無常な日常の記録。言葉で心がつながる瞬間がひとつでもあると嬉しいです。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

525,870件

ZINEの制作費や、表現を続けるためのお金として使わせて頂きます🌱