緊急寄稿コミケクライシス

 やはりと云うべきか。大型連休にスケジューリングされていた日本最大の同人イベント、コミケことコミックマーケット、1年ぶりの復活は延期と云う文言を使いながらも事実上潰えた。
 イベントまで約2ヶ月のこのタイミングは、1月上旬に応募を締め切ったサークル出展の当落発表の直前だった。これについては、流石に学習したな、と思う。2020年3月末、既に当落通知を終え、次のアナウンス……入場証となる紙製リストバンドの販売告知のデッドラインで、2020年5月予定だったイベントのキャンセルを発表し、結果主に遠征組の混乱を招いたのだ。
 余談だが、自身も遠征組だったが、2月の時点から金銭的なダメージを最小限に抑える為のオプションを用意していたため、キャンセルに伴う手出しは数百円に留まった。その段階では全てのキャンセル費用が無料と云う特別対応の「との字」も出ていなかっただけに、これが正解だったのだ。

 さて、コミケである。今回はキャンセルではなく延期と発表されている。事実上のキャンセルなのだが、文面をバカ正直に読むと、つまりは今後リスケジュールされることになる。次回は恐らく2021年12月、今回が予定通りならば100回目の大台に乗る予定だった冬コミだ。そして、100回目は最短でも当初の予定より1年遅れた2022年8月となる。
 ご存知の通り、日本政府は東京オリパラ……オリンピックとパラリンピックに……向けて超強気の姿勢だ。キャンセルに伴う莫大な違約金を回避すべく、国際オリンピック委員会がストップを掛けるまで、完全無観客だろうが開く気でいる。尤も、開いたところで兆単位のコストに対してチケット売上がゼロ、ただ使い道に困るオリパラのレガシーをどうするのかと云う問題に直面するのは必至だが。
 話が脱線したが、そのオリパラのプレスセンターにコミケ会場でもある日本最大の展示場、東京ビッグサイトこと東京国際展示場の東館が使われている。そしてオリパラの時期とずらす必要が有るため、最短で10月。ただ、通常のペースでは夏コミと冬コミが4ヶ月のスパンだが、その半分……2ヶ月後に冬コミとは考えにくい。それは原稿の入稿のデッドラインなども含めたサークルのアジェンダも絡むが、一般的に祝日を含めて連休である必要が有る。それなら、いっそのこと冬コミとして開いてしまった方が手っ取り早い。
 ただ、そうしかできない、またそれでも大きな疑問が残る。コミケの体力面だ。

 このコラムで何度も触れたが、コミケは決して金が余っているワケではない。逆に、一度でもキャンセルになるとイベントが潰れる、とさえ言われていたほど、収支が厳しい。だから2020年の春も5月にどうにかしたいと足掻いた。結果白旗を揚げ、発表が遅いとして叩かれたが。
 それが、今回を含めて3回も消えた。特に今回はサークル数は3割減での募集だったが、来場客数もイベントでの人数規制が緩くても半減は確実視され、甘く見積もっても億単位の赤字は不可避、と云う厳しい収支予想が、簡単な計算でも出た。
 コミケは、周囲に波及する経済効果こそ目を見張る物が有るが、イベント単体では利益が出ない。一応は有限会社として登記してあるが、それは事務や各種手続きの面で法人格である必要が有るのだろう。ただ、完全なる中小企業だ。億単位の赤字は、普通ならば企業の存続に関わる。だから、コミケの危機……クライシスなのだ。
 以前も書いたと思うが、各サークルがコミケに払ったサークル費は……2020年5月分で当選していたサークルも追加料を幾分払ったとか聞いたが……、イベントの売上になる前に、預かり金……もっと云えば債務になる。その債務を売上にするにはイベントを開くと云う、サークルとイベント団体の間の契約を履行しなければならない。金が絡む以上、それはビジネスとして成立するのだ。因みに、イベントの存続と同人文化の火を絶やさないために今回のサークル代は返金せず寄付として懐に収めて欲しいと願い出る者もいたが、それは違うと思っている。

 コミケ側としては、売上として計上できないサークル代と云う債務を、既に1年以上抱えていることになる。それでいて、当然イベントが無い以上来場客もいないためにイベントそのものとしての売上はゼロと言える。しかし事業者としての固定費は発生している。
 サークルの当落通知を発送していない現状で、流石に1年前のようにカタログを印刷済みだから買って応援を呼び掛けることはしないだろう。
 オンラインイベントとしてのエアコミケも開かれたが、基本的にイベントに登録した各サークルをまとめたポータルサイトが有り、実際の売買は各サークルが契約するpictSPACEやpixivのBOOTHと云ったオンライン販売チャネル上で行う。これは完全無料だったと認識しているが、それはコミケがエアコミケのためにシステムを用意するコストだけが発生していると言える。
 ただ、仮にサークル登録もアクセスも有料にしたところで、コミケよりも格段に来場客もサークル数も少なく、リアルイベントを補完するにはあまりにも力不足過ぎる。また、サークルにとってもオンライン販売はリアルイベントより格段に売れ行きは悪く、同人誌などの商品の出回りが鈍り、それが同人印刷に特化した中小企業が多数を占めると云われる印刷業者への入稿控えを招き、印刷業者の淘汰が進む。
 そこで生活を切り詰めてでも同人文化のためにと印刷を発注するのも間違っているし、とにかくイベントが開ける程度まで社会情勢が好転することを願うしか無いのだ。尤も、好転は上半期中は絶望的ではあるが。

 クラウドファンディングをすれば、大手同人イベントのコミティアのように目標額は即日達成し、最終的には10倍以上の資金調達に成功するだろう。同人イベントの場合、同人イベントファンのオタクは甘いから、仮に社会情勢が好転せず調達資金がイベント前に尽きたから再度資金調達を試みたところで、見通しの甘さを指摘する声は封殺され、再び金を出す連中ばかりだ。
 同人オタクは、こう云う理論は「同人は文化」「全員が等しく参加者であり、お客様はいない」と云う同人イベントの理念に絶対服従であり、自身のような理論は邪道でしかなく、こうやって書く自身は厄介者にしか思っていないだろう。それでも自身は困らないのだが。ただ、イベントは金が絡む以上ビジネスであるのは間違いではなく、コミケは特にこれ以上の赤字はコミケの消滅に直結する、と云う危機に直面していると云える。
 それでも、これで強行して集団感染などの問題が起きれば、今度はコミケを持ち上げていたマスメディアからも掌を返され猛批判を受けることになる上、規模的に東京ビッグサイトでしか開けないと言われる中で東京ビッグサイトから追放されることになりかねない。そうなると、社会的制裁で満身創痍の上に場所が無いことで、それもイベント消滅に直面すると云う、どう出ようと茨道なのだ。

 今回のコミケ延期……事実上のキャンセルは、至極当然の決断だったと云えよう。自身も当初から懐疑的だった。しかし、体力面でコミケは窮地に立たされている。起死回生、一発逆転の方策が有り、復活に向けて足掻くのか、このまま白旗を揚げるのか。コスプレ撮影目的とは云え、何度も福岡と云う地方から遠征し、色々なフォロワーと知り合うきっかけになったイベントだけに、その行方に注目したい。

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