緊急事態宣言でサブカルに強まる逆風

やはりと云うべきか。この記事を書いている時点で東京と周辺3県への緊急事態宣言の発令が事実上決定した形だ。正しくは政府が躊躇しているため完全に決定しているワケではないが、最早時間の問題と見て間違い無い。
2021年、年明け早々ネガティブなニュースばかり並ぶが、これが既に今年も先行き不透明な1年になる暗示だと読んでいる。特に、同人やコスプレと云うオタク向けのサブカルに関しては、完全に暴風雨のど真ん中に立たされている。

さて、緊急事態宣言でサブカルがどうなるのか。昨年何度も書いてきたが、ここで改めて緊急寄稿として書いてみようか。

2020年はまさしく、同人やコスプレのイベント業界にとっては呪われた、失われた1年となった。早くも2月の時点でイベントが軒並み潰れ、自身も全ての新幹線と航空券のキャンセル手続きの必要に迫られた。JR東海と全日空から連続で来たキャンセル手続き完了の通知は、非情以外の何者でもない。尤も、それで浮いた金を欲しかったキャリーバッグに充てて、それで11月に遠征したのは何と云う皮肉と云うか巡り合わせと云うか。

イベントだけでなくスタジオもアウト、屋外ロケも社会的に認められない…容赦なく叩かれ晒される…と云う、少なくともこの業界16年目の自身にとって前代未聞の状態に陥った。後に緊急事態宣言は解除されたが、イベントを開いても心理的不安と人数制限によって始まる前から赤字決定。

かと言って、オンラインイベントはその代替としてはあまりにも弱い。名古屋の大型イベント、世界コスプレサミット…略称コスサミ…もリアルイベントの代わりに生配信主体のオンラインイベントを開いたが盛り上がりを欠き、エアコミケなどのオンライン同人イベント…エアイベントと呼ばれるが…も、各サークルの売上の補完としては弱かった上にイベント自体に売上は立たず、単にイベントが無いことへの溜飲を下げるための苦肉の策でしかなかったことが判る。

イベントの可否、そのどちらに転ぼうと、明るいビジョンを持つことができない中で、各団体は難しい経営を強いられることとなった。中でも、コスサミやシェアスタジオ大手でイベントのアコスタを手掛けるハコスタジアム、大手同人イベントのコミティアが挙って事業存続のためにクラウドファンディングに手を出すと云う事態となった。それは、自社の内部留保ではどうにもならず、ファンに支援金を求めることでしか延命できないことを意味していた。それは経費も大きい業界大手故の宿命なのかもしれない。

現に同人イベントの代名詞となっているコミケ…コミックマーケットも、イベントをキャンセルした後で既に印刷したカタログを販売し、次回以降のために買って応援の協力を呼び掛けた。これ自体、当落発表の時点で既にキャンセルは時間の問題だったため、あまりにも姑息な手段でしかなかったが、それでも従順なオタクは伝説のコミケのカタログだと有り難がった。

しかし、そうしたところでイベントの復活は遠い。緊急事態宣言が発令された以上、解除まで時間が掛かる上、解除後もイベントの制限の緩和には更なる時間を要する上、引き締め強化の速度だけは速い。そして、緩和されなければイベントは採算面で保たない。イベントが無くてもサークルにはネット通販は有るが、その売れ行きがサークルの補完になることはない、とは先に述べた。また、オンライン即売会を開くプラットフォームも有るが、それも未だ認知途上の段階だ。

コスプレも、自宅でコスプレする宅コスが主流にならざるを得ない。元は衣装の試着やウィッグなどとのバランスを確認するテストの意味合いが強いが、今は自宅コスの自撮りと、その写真をテンプレートなどでコラージュしたエア合わせで、溜飲を下げている状態だ。だからこそ、人と会わないことを善しとする中で渇望される、「動いて喋る」様への需要が高まり、それがコスプレイヤー間でツイキャスや動画SNSのTikTokが流行っている一因にもなっている。

同人やコスプレはイベントのみならず業界そのものが、社会情勢に生殺与奪の権を握られている。メディアへの露出もなまじ多く、一種の市民権を得ている反面、今でも「社会不適合者の現実逃避の駆け込み寺」や「犯罪者予備軍の巣窟」、また成人向け作品を指して「性犯罪の温床」と云う偏見も根強い。いくらそれに経済効果や献血需要への社会貢献を唱えたところで、改心するワケでもない。つまり、サブカルこそ不要不急でケシカランと云う見方を翻すことは不可能で、イベント規制緩和などに関しても最後まで後回しになるだろう。

尤も、イベントの特性として全員頭の向きがバラバラの上に、密接は避けられないため、いくらハード面で対策してもリスキーではあるが。

緊急事態宣言解除後、緩やかな足取りながら…それでも延期やキャンセルも止まらないが…イベントは復活するようになってきた。そして、先行きが明るいワケではないが2021年は社会が落ち着いてまた昔のように賑わいを取り戻す…それだけが願いだと、希望の光を見出そうとした。しかし、それも完全に振り出し…どころかマイナスポジションまでの後退を余儀なくされ、そして出鼻を完全に挫かれるどころかへし折られた。

緊急事態宣言は何時まで続くのか疑問だが、現状では更なる延長も相次ぐことが容易に想像できる。何度も書いたが、2020年は明けない夜も有る、止まない雨も有るのだと思い知らされた。そして今は風雨を凌ぐ傘も無ければ、道を灯す灯火も燃料が尽きている状態だ。

諸行無常とはよく言ったものだが、それで片付けるにはあまりにも救いようの無さが半端なく、流石に不憫に思えてくる。年末年始の社会情勢があんな形だっただけに、新年ぐらい少しはポジティブなファクターを書きたいものだが、どうやらそれは認められないらしい。

今回は首都圏だけの話だが、これが中部や関西の大都市圏に波及し、やがて地方にも飛び火する可能性が高い。これからが、業界にとって真の正念場だ。…一体何度、真の正念場を迎えればよいのか。その答えは、誰も知らない。ただ、なるようにしかならないのだ。

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