2021年のサブカルイベントを占う

2020年最後のイベントは、大晦日に終了したエアコミケだった。リアルイベントのコミケ…コミックマーケットが開かれないことを受けて、その代替として組まれたのがオンラインイベントであるエアコミケ。しかし、このエアコミケはコミケの名を冠したあくまで別物で、代替や補完にはならない。イベントのポータルページのアクセス数や、登録サークルはネット通販と紐付けているがその売上も、半分にも満たないのだ。
そう云う茶を濁す程度のものであっても、同人業界にとっては必要だった。

2020年3月、5月の夏コミ…本来は8月だが東京オリパラの影響で5月に前倒しされた…見送りの最終決定が下ったのは来場客向けのリストバンド販売の告知デッドラインギリギリだった。そして調整していた12月末予定の冬コミは、7月に既に見送りを決定した。サークル応募セットの販売開始の告知のデッドラインギリギリで、だ。現に、冬コミは直近の情勢からして不可能だったため、結果論になるが判断としては正しかったと言える。
コミケが同人イベントとしては世界最大だと言われるが、その一方で財政的には常に厳しい。2019年から東京オリパラの準備の影響を受ける形で会期を延期し、その分のコスト増を来場客用のリストバンドを販売して補填しようと云うものだった。それでも利益を出すには至らないが、しかしリストバンドを売らなければコミケは終わっていた…潰れていたと云う意味だろう…との発言が、スタッフ向けの拡大集会で有ったことがスタッフの日記で明らかとなっている。

つまり、儲かっていないからこそ、一度でもイベントがなくなればイベント団体として終わる。だから他のイベントが軒並み潰れる中でも通常通りを目指していた。途中で規模などを修正しなければならない可能性に言及したが、その時点では既にイベントキャンセルの発表は時間の問題だった。誰もが、通常通りとはならないと思っていた。

それからのことは大まかに前述した通りだし、詳細は以前書いた記事群を読むと早い。
そして、それによってもたらされたイベントの存続危機は、コミケに限らない。他の同人イベントやコスプレイベントと云った、オタク向けのサブカルチャーイベント全体が、イベントを開けない、開いたとしても人数制限で赤字必至と云う逆境に立たされることとなった。
その後、夏以降少しずつイベントは復活したが、ここにきて再度キャンセルや延期あを余儀なくされている。再度強化されたが人数制限の上でのイベントも、サブカルイベントにとっては恩恵を受けない。それは、観客と演者の間に間隔が有り、観客は全員同じ方向を向いている観劇と違い、頭の方向がランダムで、且つ2メートルの間隔確保は非常に困難だ。それでも対策はハード面で行っているが、日本のマスク・アンド・ディスタンス及び人と会わない方針では、結局リアルイベントを捨てオンラインに特化することが最も安全となり、リアルイベントへの逆風は止むことは無い。

しかし、同人のオンライン通販は売れ行きが悪い一方、業界は同人文化存続のためにあの手この手で印刷案件を獲得しようと積極的な発注で協力を呼び掛けると云う事態で、リアルイベントが無ければ業界が回らないと云うジレンマに陥っている。また、オンラインイベントはネット通販とSNSを連動させた宣伝で展開することが可能なため、オンラインイベントのサークルページに設置される、十数年前の個人サイトに有ったWEB拍手…今で言うとFacebookの「いいね!」になるだろうか…で応援されると云うものを求めなければ、オンラインイベントに登録する理由は無い。

コスプレも、これまでのイベントは不可能になり、ツイキャスなどでの生配信やエアギャザリング…もしくはリモートギャザリングと呼ぶ…が増えるだろう。エアギャザリングとはフォロワーを中心にメンバーを募集し、宅コス…自宅コスプレの意味…の自撮り写真をフォトレタッチアプリのコラージュ機能で合成し、ギャザリング気分を味わうと云うものだ。また、セキュリティ上の懸念云々と言われつつもオンラインMTGのデファクトスタンダード、zoomのMTG機能を活用したリモートギャザリングと云う名のオンラインMTGも有る。
そう云ったものは、クローズドな環境になりがちではあるが、一応のフレキシビリティに対応できていることになる。フェイス・トゥ・フェイスからカメラ・トゥ・ディスプレイへ、それはサブカル全体にとっても一種のDX…デジタルトランスフォーメーション…になるだろう。
カメラマンからすれば、オンラインでは撮影の必要が無いため…生配信のスクリーンショットも一種の撮影だがそれとは全くの別物だ…そろそろお役御免となるだろうが、それも時代の流れか。今後はリアルの撮影も、感染リスクが低い屋外で少人数と云ったところで、可否が場所によって問われる上に自身にそれだけの需要は無い。

従来のイベントがその賑わいを取り戻すことは、2021年中は不可能だと思っている。既に大規模イベントの一つ、3月の大阪のストフェスこと日本橋ストリートフェスタが早々に見送りを決め、2022年に3年ぶりの復活を目指す意向を示した。これもストフェスの存在意義からすれば危ういものだと思っているが、それ以外にも2月の千葉のワンフェスことワンダーフェスティバルもその可否を近日中に発表するらしい。
そしてコミケは規模を縮小しながら17ヶ月ぶりの復活を目指すが、前途多難だ。

繰り返すが、オタク向けのサブカルはオンラインイベントでは盛り上がりに欠ける。個人的には、目と耳だけで臨場感や没入感を体験し、満足感を得る必要が有り、これまで以上に特に視覚に対して感度を上げ、脳を視覚と聴覚の情報に麻痺させる必要が有る。
脳の仕事量や負担は増えるが、そこまでしなければリアルイベントで得られるエクスペリエンスには近付けない。しかし、それがオンラインイベントには求められるが、同時に同人やコスプレにそれができるだけのポテンシャルが有るかと問われれば否だ。業界は未だ、それだけのパラダイムシフトに順応できていない。尤も、同人イベントは売買の場であり、難しい部分も有るのだが。

2021年はサブカルイベントにとって、試練が続く。この試練を乗り越えれば強くなる、みたいな少年向けコミックのような展開になるとは思っていない。ただイベントと団体としての消耗戦が続き、やがて淘汰と再編が起きる。選ばれるイベントと選ばれないイベントに分かれるが、選ばれる…生き残っても前途は社会情勢に左右される部分が大きく、それは決して明るくない。
さて、2021年初日にサブカルイベントの将来について語ってみたが、この予想を裏切るほどの復活を期待したいのが本音だ。それは自身の活動にも直結するためだ。
ただ、如何せんそれが叶うとは思わないほど、社会情勢は日に日に厳しさを増している。少しはポジティブな展望を持てるほどのニュースが欲しいところだが、それは何時になるのか。

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