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読書メモ - 異なる人と「対話」する 本気のダイバーシティ経営 野村浩子著

会話ではなく継続的な対話

企業でダイバーシティを推進する上で、必要なのは同意を確認する「会話」ではなく、立場や意見の差異などを許容する「対話」とする著者。

また「効果的なコミュニケーションとは、一回限りの事象ではなく、絶え間なく続く交渉のプロセス」として企業の中で幹部から全社員へのメッセージ、管理職とチームのコミュニケーション、自発的なコミュニティーによる活動や研修などの好事例を紹介しています。

そのうち、印象に残った箇所をいくつか挙げると以下です。

健康・家族・個人の成長という対話軸

パンデミックの中で、多くの人が仕事とは何か、自分にとって大事なものとは、と考える中、部下に寄り添う気持ちで「健康」「家族」「個人の成長」という新たな対話軸を考えた管理職が紹介されていました。

自らの共働き夫婦ならではの両立の難しさ、つらさなどの経験を踏まえ、メンバーの不安を取り除いて、やる気スイッチを入れるには「仕事より家庭、仕事より健康」という言葉が必要だと考え、一人一人との面談である1 on 1での声がけを

「家族との時間は、ちゃんととれていますか」
「(仕事をする上で)家族の理解を得られていますか」
「健康に投資をしていますか」

といったものに変えたという管理職の例は、特に今子育てをしている世代には広く受け入れられるものだろうと感じました。

このような声がけをすることで、チームで心理的安全性が確保され、仕事が上手くいっていない場合などの相談なども早くなったとのこと。チーム全体を統括する管理職にとってとても重要で助かることだと思います。

男性育休もお互い様の気持ちで

男性育休については、2021年段階でもまだ3割の同僚は自分の男性同僚が育休を取ることに抵抗感を覚えるという調査結果が紹介されていました。ジェンダーステレオタイプの障壁は、なかなか厳しいですね。

男性育休は女性と違って期間が短いことが多いので、代用要員なども雇いにくく、現場の負担が増えるというイメージのようですが、介護など含め誰がいつどんな理由で休暇が必要か分からない現代、

お互い様の気持ち

でチームで仕事ができる環境を普段から整えてゆくことが必要で、また男性が育休を取得することで個人が成長するなどの利点を発信してゆくことも必要と著者は指摘しています。

シニア世代の男性部下のナラティブ

また「シニア世代の男性部下のナラティブを理解する」では、

耳を傾けるなかで、新しい仕事に挑戦しようとしないシニアの男性社員には、ある共通するナラティブがあることがわかってきました。高校生や大学の子どもが 2人ほどいて、住宅ローンを抱えています。「(大黒柱として)稼がなければいけない」という家計の責任を負うために、仕事から外されないように、不本意な職場に飛ばされないように、守りの姿勢に入っているのです。仕事に多くを期待するのはやめようと、上司に対しては「(希望することは)何もありません」とシャッターを閉じてしまいがちです。なかには「上司は(自分の力を)わかっていない」と他者を恨むことで、自分と向き合うことから逃げてしまう人もいます。  人によっては、家庭はやすらぎの場ではなく、愚痴をこぼして癒やしてもらう場はスナックでした。それもコロナ下ではままならず、ストレスがたまるばかりです。

という事例が紹介されていました。
ナラティブとは、その人が語る言葉の背景にある物語で、シニア世代は子育て世代とはずいぶん違うと分かります。なぜ新しいことに挑戦しようとしないのかとか、相手を理解し難いと感じる時ほど、「ナラティブ」の理解は重要だと感じました。

外国人との文化的価値観の違い

外国人との相互理解では、国民文化の価値観を分析した、ホフステードの「6次元モデル」というのが紹介されており、参考になりました。
私の場合、Yes / Noのはっきりした直接的なフィードバックに抵抗が無いので、欧米文化圏の人とのコミュニケーションにはあまり問題が無さそうですが、アジア圏の人とお話しする時にはより人間関係に配慮して間接的に話すことも時には必要そうだなと感じました。

ホフステードのようなモデルの利用は、それがステレオタイプに繋がらないような留意をしながら、企業の中で理解を広めるには役に立つものと思います。

マジョリティによるマイノリティ体験をメッセージに

前述の自分の育児経験も踏まえてチーム一人一人への声がけを変えた管理職の例もありましたが、自身がLGBTQで、英国人のパートナーと一緒に日本に移住するにあたって大変な困難を経験されたという社長が自分のパーソナルなストーリーも交えて社員にコミュニケーションしている例も紹介されていました。男性管理職や男性経営者のような一見マジョリティに思われる人たちが、個人の思いも込めて伝えるメッセージというのは多くの人に響くようです。

異なる相手に怒りは禁物

最後に紹介されていたルース・べイダー・ギンズバーグの活動や言葉は印象的でした。自分と異なる相手に対する怒りは禁物なんですね。心したいと思います。

感情を抑えた静かな語り口も、ルースの特徴のひとつです。
社会改革を訴えるルースの弁論には、しばしば判事から皮肉たっぷりの言葉が投げかけられました。こうした挑発に対して、ルースは「怒れば自滅する」と常に冷静に相対します。
「小学校の先生になったつもりで臨みました……要は教育ですね。私が訴えかけている相手は、自分とは違う立場の人間の暮らしがどのようなものか理解していないのだから、理解できるように手助けしよう、という捉え方です」

今世界に最も必要なのは「他人の声に耳を傾けること」

同じくルース・べイダー・ギンズバーグ86歳を迎えての思いも印象的でした。
「今世界で、最も必要なことは何か」と問われての回答です。

ひと言で表すとしたら、「他人の声に耳を傾けること」でしょうね。そう、きちんと聞くことです。現代人は、同じ考えの人としか話をしない傾向があります。ソーシャルメディアも、その傾向を増長していると思います。
いま私は、先日亡くなった最高裁判事の先輩、ジョン・ポール・スティーブンスを思いだしています。本当に聞き上手な方で、他人の話に耳を傾けることでいかに学んできたか、よく話していました。自分とは違う見解の判事の話を聞く、ということですね。  
この点、現代は深刻な問題を抱えています。  
人々は、自分とは違う考えの人の話を聞こうとしない。信条を同じくする人同士で、固まるだけです。けれど、アメリカを偉大な国にしてきた要因のひとつは、多種多様な国民性です。実に多種多様な人種と文化的背景と宗教が集まっている。その違いを容認するだけでなく、すばらしいと称賛し、長きにわたって手を取り合うべきです。アメリカのモットーは、「エ・プルリブス・ウヌム」。(ラテン語で)「多くからひとつへ」です。


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