見出し画像

かわいそうだと決めつけないで

会社員時代、ヨン様に似たE先輩という方がいた。
(本当に似てて、雑誌に顔写真が掲載されたくらい!)
その顔立ちにぴったりの、ゆっくりやさしい声で話す人。

当初、コールセンター勤務だったE先輩は、
怒りのクレーム電話をやんわり受け止め、穏やかに対応するうち、
お客様が先輩のファンになってしまって、
4時間、電話を切らせてくれなかったという伝説の持ち主だ。

私も社内でE先輩から、
「橘さんは、きれいな文字を書くんだね」と言われて、
ちょっと、きゅんとした覚えがある。。

そのE先輩と飲み会で同じテーブルになった時、
上司が「Eはこんなに穏やかだけど、子供の頃は大変だったんだ!」
と言い出した。
先輩はいつも通りのやわらかな口調で、そうですね、と話し始めた。

一緒に暮らしていた父親の酒乱が酷すぎて、
母親は父親と籍を入れていなかったこと。
父によく、スナックに連れて行かれたこと。
スナックのカウンターで寝たのを覚えていること。

柔和な先輩のイメージと全くそぐわない話。
上司は「なー?大変だよなあ!」と言い募っている。

籍を入れてない酒乱の父親、
だから大変だ、かわいそうだと言う上司。
嫌だな、と私は感じた。
そしたら、頭で考えたわけじゃないのに、
とっさに言葉が出た。

「E先輩のお母さんは、
よっぽど、お父さんのことが好きだったんですね。
籍を入れてないのに、一緒に暮らしてたんですから。」

先輩も上司も、ちょっと動きが止まった。

すぐに上司が「本当だ!!」と大声で言った。
先輩は「この話を聞いて、そんな風に言った人いなかった」と、
ぽつりと口にした。

E先輩のお父さんとお母さんが、
本当はどんな状態だったかは分からない。
アルコール依存症の専門用語では、
「共依存」と呼ばれる、悪循環を呼ぶ関係だった可能性も高い。

でもそんな風に言って、誰が救われるんだ?と私は思った。
いろんな側面があるだろうけど、
できれば少しでも良い面の方に、光をあてたっていいじゃないか。
それだって、一つの真実だ。


そんなこと、思った一夜でした。



いただいたサポートで、あなたに必ずお返しをします!