ある異世界【短編小説】
少年はありきたりな朝を迎える。
16か17か、そこらの少年。場合によっては青年と表現しても良いやもしれない。
ただ、先ず結論から述べておくと、この少年は決してありきたりではない。
もちろん見て分かる通り、少年自体は普通の少年だし、身体や精神に特異なものがあるというわけでもない。
彼の、生い立ちというか、そういうなにかが特殊なのだが、その異変もまたつい最近起こった出来事であった。
少年は着替えを済ませて階下にあるリビングルームへ向かう。
そこには朝食が用意されていた。恐る恐る手をつける。
うん、大丈夫だ。代わりない。
こちらの世界に来て一週間かそこら経ったが、食べ物に関しては元いた世界とそう大きな違いはない様だ。もしかしたら細かい違いなどあるのやも知れないが、実際素人の味覚では感じ取れないほどの差異なのだろう。
少年は食事を続ける。
この少年、御察しの通り別の世界からこの世界へと迷い込んで来たのである。
恐らくこの異変が起きたのは一週間ほど前。
何がきっかけになったのかはさっぱりわからない。気がついたらこの世界にいたのだ。異世界、あるいは別世界線というものなのだろうか。
驚いたことにこちらの世界にも僕の家族や、友達は存在していたし、街並みも元いた世界と瓜二つである。
それでも、やはりここは元いた世界とは別物なのだ。
(もしかするとこの世界にも僕がいて、その僕と入れ替わっちゃったのかな)
だとすると、あちらの僕はうまくやって居るだろうか。
急な環境の変化に戸惑って居るかもしれない。
少年は食べ終えた皿を流しに片付け、家を出る支度をした。
こちらの世界でも学校の始まる時間は同じなのだ。残念。
少年は鞄を抱えて家を出る。
家を出てからはなるべくそちらを見ない様、駆け足で走り去った。
見たくないのだ。
この世界とあの世界の圧倒的な違い。
こちらに迷い込んでしまった事を僕に気付かせてしまったそれを。
前の世界にはなかったそれ、隣の家との間にある約三センチメートルの隙間。
少年はそれを見たくなかった。
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