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ミシュラン・ガイド仏版発表@アルザス地方ストラスブール フランスの週刊フードニュース 2023.03.07

今週のひとこと

みなさま、ご無沙汰をしてしまいました。何人かの友人からも連絡をいただいて、ご心配をおかけしてしまいました。数々の出来事やインプットを文字にまとめることは、頭の中のストックをしっかりと整理できる作業なので、できるだけ時間を割いてと思いつつも、2月はインプットが多いめまぐるしい毎日にて、いつものように筆が進まないのは辛いことでした。私の場合、料理という世界ですが、ミクロで物事を見すぎていると、マクロからの視点を失いがちになります。見地も狭まり、書きたいことも失われてしまう。心の余裕の欠如に反省しています。

さて、今年も昨年に引き続き、ミシュラン・ガイド仏版の発表に参加してきました。昨年はコニャックが舞台でしたが、今年はアルザス地方ストラスブールでのイベント開催でした。当初は2泊3日が予定されていたのですが、7日火曜日にフランス全国で大規模のストが行われることがわかり、急遽1泊のみに。発表のセレモニーは、月曜日夜から朝に繰り上げされ、皆が早々にストラスブールから引き上げるというスケジュールでした。

ミシュラン・ガイド仏版の発表の情報は、あっという間に世界中を駆け抜けますので、食関係に興味のある方は、とくに3つ星に関しての情報は、すでにご存知だと思います。この発表に関しましては、料理王国のアクチュアリティで記事にする予定ですので、私見も含めての情報はその際に執筆しようと思っています。

日本人の新星は1つ星2軒。パリの伝説的なレストラン「アストランス」が移転をするのに跡地を引き継いで、仲間とともに、昨年1月にご自分のお店「Ōrtensia/オルタンシア」をオープンされた齊藤照允さん。ちなみに移転した「Astrance/アストランス」も1つ星を獲得しました。もう1店舗は「Couleur de Shimatani/クルール・ドゥ・シマタニ」。シマタニさんご夫婦が、マルセイユから東に30キロほどのところにある地中海の港町ラ・シオタに2021年にオープンされた店。レジス・マルコン、クリストフ・バキエ、アレクサンドル・マッジアという地方の3つ星店で腕を研磨されています。シマタニさんのお店はまだ訪れたことがなく、また、セレモニーの後にお二人の姿を見失い、お声がけできなかったので、後日ご連絡差し上げる予定でいます。一方、オルタンシアには何度か訪れており、応援したい店の1つ。和食の楽しみをフレンチと上手に融合させている齊藤さん(2019年には、シェフとして就任していたパリ「ピルグリム」という店を1つ星に導いているので、この度2回目の1つ星獲得)と、ソムリエのロマン・シモンさんのコンビが素晴らしい。

ロマンさんは、お決まりのワインのサービス、あるいはお決まりのサービスをすることは皆無です。今日、今の食卓にのぼるのは、自身で探し求めたボトルばかり。チョイスをした個人的なストーリーを、そのワインの魅力とともに伝えてくれる。なぜそのワイナリーに興味を持ったか、どうやってそのミレジムに出会ったか。どんな風景が広がり、どんな人々がそこにいたか、など、個人的な感動を、惜しげなく語ってくれる。客室は、限られた空間ですが、料理のマリアージュとともに、時空を超えた体験へと運んでくれることとは、こういうことかと、感激さえします。個人の体験は、1つの財産であり、それを分かち合うことが可能であるということ。好奇心を忘れず、仔細なことにもアンテナを立てて、自身が感動できるか否か。最終的にはたくさんの方々の心を満たしてくれるという循環につながっていることを、改めて感じさせられています。ワインがお好きな方は、ぜひ、繊細な齊藤さん作の各皿に合わせた、ワインのマリアージュを楽しんでいただきたいと思います。
オルタンシアに関しましては、こちらで記事を執筆しておりますので、ご覧ください。

今年は2軒が3つ星を失いました。1軒は小林圭さんと同じ2020年に3つ星を獲得した若手のクリストファー・クッタンソーさん。圭さんよりも1歳若い1978年生まれで、父親のラファエルが2つ星とした店を2007年に引き継ぎ、2008年からそれを星ごと継承してきました。料理人であるとともに「漁師」でもあると謳って、海の環境保全に関して、数々のマニフェストを行なってきた人。近年、大西洋の健康が戻ってきたのは、彼のようなシェフたちが海の資源へのリスペクトを払ってきたことも、一助になったのではないかと感じています。わずか3年目で3つ星を奪ってしまうのは、若手のシェフの育ち始めたモチベーションにもインパクトを与えてしまうのではないかと思うと、非常に心が痛いです。

またパリのギー・サボワ さん(1953年生まれ)。2002年に3つ星を獲得したときにインタビューをしたので、その時のことも鮮明に記憶に残っています。周りの同期のシェフたちが3つ星を次々に獲得する中で、待ちに待った3つ星だったと、熱い想いを語っていらっしゃいました。2015年に立ち上がった、アルゴリズムで選ぶ世界のレストラン、ランキング1000軒の「ラ・リスト」において、当初から1位の座を守り抜いてきたサボワ さんですが、星を落としたために、今年のランキングでは王座を守れないでしょう。しかしながら、降格の発表でも、サボワ さんはうろたえることなく、来年は3つ星を奪還すると力強い発言。この言葉は、自身の店で実際に働いているスタッフへの鼓舞にもなったのではないかと思います。チームをどのように導いていくか。あるいは、自身をどのように奮い立たせるか。厳しい局面に立った時こそ、本領が発揮される。物事は、いまを切り取るのではなく、大きな流れで捉えて、毎日を行動しなくてはと反省する今日この頃です。

今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載しています。食の現場から政治まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。【A】乳酸発酵食品の衛生基準のこれから。【B】ミシュラン発表で創作された新しいコックコート。【C】若手シェフをプロモーションする、ホテルグループの挑戦。【D】エリゼ宮パティシエール、ショコラティエをオープン。

今週のトピックス

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