ナニワ研磨工業の岩下貴志さん@atelier DOMA Paris フランスの週刊フードニュース 2022.10.10
今週のひとこと
1941年10月10日に創業した大阪市の「ナニワ研磨工業」さん。ナニワさんの営業を長年されている岩下貴志さんが、パリ12区の弊社で砥石に関する講義をしてくださいました。2019年の5月に弊社に来てくださってからの、久々の再会でした。
講義に参加してくださったのは、調理器具店として知られる「Culinarion」ブザンソン(スイスと隣り合うドゥー県の県庁所在地)店からいらしたお二人。今までも砥石による庖丁研ぎに非常に興味を持っており、弊社の包丁専門家マリナが教えに何度かうかがっていたことから、良好な関係を築いています。
砥石といっても、その粒度はもちろん、主原料に研磨剤を接合させるため、さまざまな素材があります。ヴィトリファイドというのは、陶器と同じ原理で、研磨材とセラミック質結合剤を調合して、高圧で固めて高温で焼成して仕上げたもの。セメント(マグネシア)系は、研磨材とセメント系の結合剤を調合して、練り固め乾燥させて仕上げたもの。樹脂系は、研磨材とフェノール樹脂などの結合剤を調合して、低温で焼き固めて仕上げたもの。同じ粒度によっても、研ぎの仕上がりが異なるのは当然です。
岩下貴志さんが、懇切丁寧に、こうした素材の違いや、ナニワさんの砥石の今を教えてくださったのは、非常に勉強になりました。「Culinarion」の若手ナタンさんは、またパリに出向いて、実際にマリナのもとでしっかり研ぎを学びたいということ。実際に砥石の違いを試しながら、「Culinarion」のお客様にもお伝えしてくださると思うと、ありがたく感じています。
最近よく感じることですが、文化の継承に大切なのは、こうして体で覚えてくださること。体験と実践。素材の切れ味を確かめながら、無心で自分と向き合う、素材と向き合う、ひいてはお客様(食べていただく方)を思うという精進の心がフランスの方に無意識的に根付きはじめていることに、思うところのある今日この頃です。
また、私はジャーナリストとして、様々な方法で情報を集め、文章で伝えるという仕事をしていますが、いかに話を聞き出すか、隠れた事柄を探すかということを、もっと体で覚えていかなくてはならないなと、反省もします。点と点を結んで線にして立体化する。その点を増やしていく作業は、身を以て体験しなくてはわからない。庖丁にちょっとした刃こぼれがあるのは、素材を切ってみないとわからないことでもあるのです。
庖丁を研ぐ時に、「庖丁に石を当てる」という言葉が好きです。鋭い視点を持ちながらも、優しさを持って対峙していくことから始めたい。
今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。食の現場から政治まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、毎週フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。今週のトピックス【A】パティスリーYann Couvreurの伸長。【B】「アントワーヌ・アレノ協会」。【C】ギネス世界一「最も長いテーブル」。【D】宇宙事業サミット@スペイン・マルベージャ。
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