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5月1日、スズランの日@パリの花店 フランスの週刊フードニュース 2023.05.01

今週のひとこと


5月1日は勤労感謝の日。であるとともに「スズランの日」でもあり、大切な人にすずらんを贈るという風習があります。公道のあちこちにスズラン売りを見る風景は、春の訪れも感じさせてくれます

私のアパートの下には名フローリストの店があり、早朝からスタッフたちが忙しく働いて、中庭にも鉢植えのスズランの花が運ばれ、次々に覆い尽くされていく。スズランの香りが満ち溢れる、まだ肌寒い空気に僥倖を感じました。今日はたくさんの家庭にスズランが送り届けられていくのでしょう。

ギリシャ神話では、芸術と詩の神アポロンが、9人のミューズが香りのついた絨毯の上を歩けるようにと、スズランを創作したと言われており、ケルト文化においては、自然の再生の象徴、豊かな収穫を期待するものだったなど、春の訪れを知らせてくれる鈴のような可憐さも相まって、ヨーロッパでは昔から愛される花だったのでしょう。

スズランの花言葉は「幸運の再来」。愛する人に贈る風習は、中世1560年にフランス王シャルル9世が10歳の時、ある騎士が母親のカトリーヌ・メディシスにスズランの花を贈ったのを気に入って、宮廷の女性たちにスズランを贈る日にしたのが始まりだったそうです。日本のバレンタインデーに重なるような行事だなとも思います。

年に一度だけ、公道で誰でもスズランの販売が許可される日であることも面白い風習だと思います。販売していい花はスズランだけで、5月1日のみ。花屋などの商店から40メートル以内にスタンドを設置することはできないなどの規制はありますが、にわかに町中が華やかにも感じます。


宮沢賢治の小説にはスズランの花がよく登場しますが、「貝の火」という短編でも、スズランが象徴的に登場しているのを思い出しました。

「風が来たので鈴蘭すずらんは、葉はや花を互たがいにぶっつけて、しゃりんしゃりんと鳴りました。」
から
「鈴蘭すずらんにみんな青い実みができたころ」

「実をとられた鈴蘭すずらんは、もう前のようにしゃりんしゃりんと葉はを鳴らしませんでした。」

「窓まどの外では霧きりが晴はれて鈴蘭すずらんの葉はがきらきら光り、つりがねそうは、「カン、カン、カンカエコ、カンコカンコカン」と朝の鐘かねを高く鳴ならしました。」

と、季節の移り変わりと登場人物(というかウサギ)に起こる事件、心の移り変わり、改心を描いています。短編なので、ぜひ読んでいただきたいと思います。

貝の火とは「オパール」。

ある日、主人公であるウサギの子のホモイが、溺れかけているヒバリの子を助けるところから話は始まります。

母親のヒバリはお礼として「貝の火」という宝珠をホモイに贈る。その持つ人の心次第でどんなにも立派になるという美しい珠。その珠を授けられることで、ホモイは初めはその心を試されていることをわかりながらも、自尊心が芽生えて、森の王者のように振る舞うようになってしまう。

その横暴な振る舞いに両親も諌めるが、貝の火はますます美しく燃え立つような色になるために、ホモイは間違っていないかもしれないと錯覚して受け入れるようになってしまう。ところが、ある時、その貝が濁り、火が消え、ただの白い石になっていることに気づく。最後には、その石がはじけて、ホモイの目に入り、目が見えなくなってしまう。

父親はホモイのせなかを静しずかにたたきながら、
「泣なくな。こんなことはどこにもあるのだ。それをよくわかったお前は、いちばんさいわいなのだ。目はきっとまたよくなる。お父さんがよくしてやるから。な。泣なくな」と言う。

人は「吉」を得れば、慢心に転ぶもの。美しい珠はさらに燃え盛って、諫めていた周りの人間さえ自分軸の判断を誤ってしまう。

「最後には凶に転じ、悔いる気持ちが、明日の清楚純情な福徳を約する」と宮澤賢治は語っているそうで、スズランは「幸運の再来」を約束してくれているのだろうと思いました。

ところで野生のスズランの香りはかなり強い。植物と香りとの関係は面白く、無論、受粉してもらうために虫を呼び寄せる心地よい香りだではなく、保身であることのほうが多いようです。スズランの天敵はカメムシ、きのこ類、歯科やウサギなどの草食動物。これらを駆逐するための毒性もある香りの化合物が、あんなにもかぐわしい香りとなるとは。

自然の共生と淘汰の中には、人間の因果応報さえ包み込み、学びと示唆を与えてくれる、様々なヒントが隠されていると感じています。


今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載しています。食の現場から政治まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。【A】2つ星シェフ、アレクサンドル・ゴティエ、海鮮店をオープン。【B】世界初のオマールの完全養殖所の開設。【C】ティエリー ・マルクス氏によるペットフード発売。【D】また巨大なフードコートが今秋にパリに登場。

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