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パリのビストロ@サンジェルマン・デプレ 食関連ニュース 2021.06.02

今週のひとこと

時代の流れに敏感な、ビストロノミーの立役者イヴ・カンドボルドはレストランの未来をどう見ているのか。昨年のロックダウン明けの夏、テラスで語らってから、ずっと会えずにいたのですが、朝一番で訪れたカフェのテラスで、久々に近況報告をしあうことができました。昨年末から続いていた緊急事態が緩和され、レストラン・カフェのテラスの営業が許された5月19日以降、イヴもオデオンの交差点にある店のテラスを解放。来週9日からは店内の営業も客席50%減で始めるそうです。

ある食の情報サイトでイヴが2024年で引退をするというニュアンスの情報がスクープされていたので、それも気になっていました。問いかけをしたところ、パリの店はできれば2024年までに売却を考えているということ。フランス南部、持ち家のある小さな村で、小さな食材店と日替わりの料理を出して、有意義な人生の最後を楽しみたいということ。2024年には60歳になる。14歳から厨房に入り、40年間休まずに仕事をしてきた。車の騒音ではなく、鳥のさえずりで目覚める日々を迎えたい。パリでは、生活のリズムが過度で、仕事のし過ぎ、行き過ぎであることにすら気づかなかった。リラックスをして、本当に大切なものに向き合ってみる時間の大切さ。パンデミックによるロックダウンで、未来を眺める余裕ができた上で、至った決断。そう語りながらも、お客様がいらっしゃれば、自ら体を動かしてサービスをするイヴ。根っからおもてなしを愛する人なのでしょう。それにしても、昨年の夏は、3軒あるカウンターがコンセプトの店のうちの1軒をスシバーにしたいと意欲的でしたが、さらに1年を経て、また異なる心持ちに導かれたようでした。

パリのバンドーム広場近くにある高級レストラン「カレ・ド・フイヤン」のオーナーシェフ、アラン・ドゥトゥルニエは74歳。店が入居している建物自体の改修工事から「カレ」の閉店を決めたが、買い手がなかなか現れない。あるいは某ビストロのオーナーは70歳手前で、このパンデミック下の店の運営に四苦八苦している。人生の余力が残っているうちに、引退すべきだとイヴは決断したのも、もっともかもしれないと思いました。

引退とはいっても、いろいろな引退の仕方がある。何を引退というのかも人それぞれでしょうし、引退する前から、選択肢を用意しておくのは、馬鹿げた考えではないと思いました。以前から、世界規模でSDG'sの実現が声高にうたわれ、地球と人体に優しい環境への関心が高まっていましたが、マテリアルを求める時代は終わりを告げ、ケアを重視する時代が、このパンデミックで一層に進んでいるからこそ、企業はもちろん、一人一人が今後できることが、より変容しているとも思えます。

虎屋パリ店の入り口を入ったところ、右の棚の上段に2つの「スギコダマ」があります。年輪が造形美を浮き立たせる、繭を彷彿とさせるような柔らかな2つの形。大分県の造形作家、有馬晋平さんの作品です。形はあっても無形の優しさが込められ、命と生命力を秘めた、この世において類稀なる美しいオブジェといってもいい。そこにある2つの「スギコダマ」は、静かに呼吸をしているようで、自然にその姿形となった苔石と対峙した時に似た、癒しとエネルギーをいただきました。

歴史、文化、伝統と息巻く時代も終え、自然と自他の体に耳を傾けて、精神性を愛でる。フランスでも、そんな時代がやってくるかもしれないと感じる今日この頃です。

バレンタインデーのイベントでは、日本でも引っ張りだことなるショコラティエのパトリック・ロジェが6区に新店をオープンしました。しかしそれは、メゾン・ド・ショコラに隣接。メゾン・ド・ショコラ8区の本店の隣にも店舗をオープンしていますから、意図的な目論見さえ感じてしまいます。あるいは、なんらかの協力体制があるのか? いずれにしましても、爆弾を仕掛けるようなやり方は今後通用しない、あるいは通用してほしくない、リスペクトする心があるブランド、あるいは人こそ、重視される時代となってほしいと、心が寂しくなった出来事でした。

今週のトピックスは今週のひとことのあとに掲載しています。【A】モナコ公国のガストロノミーの進展。【B】「Uber Eats」による、容器再利用のデポジットモデルをテスト。【C】「サロン・ド・ショコラ」オンラインショップ開設。【D】ADEMEブルターニュ、エコロジーのための37つのアクションシートガイド配布。【E】パリ・ボンマルシェそば、パトリック・ロジェの新店登場。【F】アラン・デュカス後の、飛ぶ鳥を落とす勢いのジャン・アンベール、ネスプレッソとのコラボメニュー開発。

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