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オマールのスフレとカシス@39V Paris フランスの週刊フードニュース 2022.09.21

今週のひとこと

シャンゼリゼ大通りから角地にあるルイ・ヴィトンの大きなブティックをセーヌ川方向に入った、ジョルジュ・サンク通りにあるレストラン、フレデリック・ヴァルドンが指揮するレストラン「39V」に久々に行ってきました。

39番地のゴールデン・トライアングルにある建物の最上階、フランスでいう6階。真ん中の中庭を囲うように建つ建物のフロアすべてがレストランスペースとなっているという贅沢な作りです。ドーナッツ状で360度にフロアがあるといった言い方のほうがわかりやすいかもしれません。一角はキッチンでその隣のスペースはシェフズテーブル。受付、バースペース、レストランスペースがあり、中庭に吊るされたテラスも憩いの場。バカンス地を彷彿とさせるソファーが出ています。

フレデリック・ヴァルドンは1967年生まれで、フランス料理界のビジネスを下支えしてきたシェフ。どちらかというと裏方で活躍してきた方でした。アラン・デュカスのレストラン展開を手がけた右腕の一人で、例えば日本にもオープンした「スプーン」の世界展開やドルチェスターグループの展開、あるいは東京のブノワなどにも一役買ってきました。ちなみに、アラン・デュカス時代のプラザ・アテネのメインダイニングで一躍スポットライトの当たったパティシエールJessica Préalpatはヴァルドンに見出された人物。その後、プラザ・アテネに引き抜かれたことで、人生が激変。例えば、2019年のワールド50で、今年の最高パティシエ賞にも選ばれています。そんな彼女は人生を振り返るとき、必ずこの「39V」で修行した時代のことを語ります。ヴァルドンのもとで働いたことが自分にとっての人生での大切な時期だったと。

「39V」はこのコロナ禍の間に、インテリアをリニューアルしていました。以前は時代を感じる皮のソファーや、冷たい感じのするホワイトの机などでしたが、今回は、木やガラス、テキスタイルを上手に組み合わせたアーティストとアルティザンの結晶。空の上を思わせるサプライズ溢れるデザインでもあり、今の時代に求められる空気感を漂わせて、さすが、レストランのプロデュースに長けてきた人の余裕を感じるような内装でした。料理も、もちろん、今の時代に求められる持続可能な漁業による魚や、シェフの出身地ノルマンディ地方の果樹園のりんご、長年の付き合いのある農家の野菜やヴォライユ、牛肉などを、クラシックな手法をベースにしながら、ピュアなジュ、華やかな花、季節のフルーツをあしらうなどで、軽やかに仕上げていました。小手先ではない、安心感のある料理といったらいいか。キッチンも客席も、スタッフはみな生き生きと働いていて、この人材不足の時代、メディアを騒がすような最先端の店ではないのにも関わらず、25名の若いスタッフ(平均年齢25歳)がいるということには、それなりの意味があるのだと、納得しました。

「このコロナ禍で、仕事をできるだけしたくないという人が増えてしまったというのは、ゆゆしきことだ。しかし、来年1月からは電気やガスの料金がものすごく跳ね上がるという発表もあった。働かないでどうやって生きていく? それに仕事は人生に学びをもたらしてくれるものだと思わないか?」と、開口一番に語るヴァルドン。

メニューには、取引のある生産者の名前だけではなく、全てのスタッフの名前が記されていました。責任を持って、育て、サービスをし、料理界のあるいはフランスの未来を作る。目の前を働くサーヴィスの人たちを見ながら、「私はもうそろそろ引退だが、次を引き継いでくれるのは、彼らなんだよ」。

時代を築いてきた一人の料理人の使命感が、新しくリニューアルした「39V」に込められているのだと感じました。


今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。食の現場から政治まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、毎週フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。今週のトピックス【A】ジャガイモがコンセプトのファーストフード。【B】UMIHホテル・飲食業組合のパリ代表、ステファン・マニゴーの新レストラン。【C】ニューヨークの超高層タワー「ワン・ヴァンダービルト・アベニュー」の新ビジネスはスシ。【D】タコスとスシのハイブリッド料理が誕生。

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