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フランスから、食関連ニュース 2020.09.23

今週のひとこと

南仏から来た、マチュー・デュピュイ・ボマルシェフが弊社DOMAに立ち寄ってくれました。ボマルシェフは数年来の知己。「ジョルジュ・サンク」などの名店を経て「トロワグロ」のシェフも経験した、ガストロノミー一直線で腕を研磨してきた実力派です。現在は南仏エクサンプロバンスのそば、ワインも生産する葡萄畑も包有する40ヘクタールもの土地を持ち、昨年にオープンした「シャトー・ドゥ・ラ・ゴード」のオーナーとのプロジェクトで、当シャトーのエグゼクティブ・シェフを務めています。シャトー内にある幾何学模様に整えられたフランス式庭園は歴史的遺産としても登録されており、5つ星ホテルで14室のあるメインの建物は17世紀の建造物。レストランは今年ミシュランの1つ星を得て、さらに高級ビストロもオープンしたばかりと、このコロナ禍において、破竹の勢いです。さらに来年の夏には高級和食店をオープンするというプロジェクトが進行中とのことで、彼からの近況報告と相談も兼ねての、久々の再会でした。

それにしても、次なる挑戦で、鮨店、和食店を手がけてみたいと思っているシェフたちがなんと多いことか。世界に名を馳せる3つ星シェフ、ヤニック・アレノ氏が、所有するシャンゼリゼ大通り沿いの「ルドワイヤン」内に高級鮨店「ラビス」を構えて、さらに今年初めにはミシュランの2つ星を獲得したあたりからその機運を感じています。南米風、あるいはアジア風のフュージョンスシなどは、もう少し前あたりから巷を賑わせてきましたが、アレノ氏にしても、ガストロノミー畑のシェフたちが関心をもつ時代。そして本物の鮨をフランスで提供したいと願っています。オンフルール2つ星「Sa Qua Na」のオーナーシェフである、アレクサンドル・ブルダ氏は、ロックダウン中にサービスを開始したスシボックスが地元の人々に人気で、カジュアル店に改変した当店のディナーでは、ワンプレートでスシも提供する意向を示していますし、ガストロノミーとビストロを融合させたビストロノミーの誕生に貢献したイヴ・カンドボルドシェフも、3店舗あるカウンター店のうちの1軒を、鮨カウンターにしたいと意気揚々です。

今週のトピックスは、今週のひとことのあとに、掲載しています。【A】ローストチキンをコンセプトに展開するユニークなファーストフード店の躍進。【B】コックコートの老舗ブランド、リサイクルを開始。【C】氷菓菓子MOFウェスマエル氏の新作、板チョコアイスクリーム。【D】パリ2つ星店、ロワール地方でパーマカルチャーの畑を開始予定。【E】非政府機関FOODWATCHフランス、過剰包装を訴えるキャンペーン開始。

こうしたシェフたちの共通点は、北海道「ミッシェル・ブラス」でシェフを務めていたブルダ氏も筆頭に、日本での経験が豊かであること。和食の味覚の体験、とくに鮨の美味しさに、五感を鷲掴みにされている。本物の鮨店を提供したいと、アレノ氏は日本から料理人を呼び寄せましたし、ボマル氏も今、腕のよい和食職人を探しています。

それにしても、当たり前のように日本の食文化がフランスの中に溶け込みつつあるのには、驚きを隠せません。例えば、フランス語辞書として権威のある『プチ・ロベール』では、この2020年度版に、食に関する新しい日本語を多く加えたことでも注目されていました。『プチ・ロベール』は、スラングなどの新語、変化するフランス語を仔細に検討して、生きた言語を記していくことを信条とする辞書。Sushiは以前から掲載されていましたが、Udon、Ramen、Soba、Azuki、Dorayakiなどが新言語として加えられたことは、フランス人の日常生活がすでに多くの和食に彩られているというあらわれでもある。人気料理番組「トップシェフ」に出場して人気者だったアフリカ・マリの血が流れるモリー・サコシェフは、パリ14区に「モスケ」をオープンしたばかりで、すでに連日満席ですが、モスケの名は弥助から命名したと言います。戦国時代、宣教師の奴隷として日本に初めて渡った黒人だが、信長に気に入られて、家臣に迎えられて、与えられた名前が弥助。その人物にオマージュを捧げているということ。子供の頃から、漫画「ドラゴンボール」を見て育ち、日本は料理と同様Ikigaiだと語る若手料理人。また、友人のエミリー・フェリックス・ゲッツは、日本で学んだ陰陽五行の栄養学を通した、彼女曰くの道場「WAYO/和洋」を一昨年創設しましたが、大グループが運営する今後の学校給食の献立に関わることに。「食事と食卓の装飾に恋をした私は、長い間、喜びと活力、精緻と調和、自由と地球への敬意を兼ね備えたバランスの取れた道を模索してきました。その答えを見つけたのがアジアで、正確に言うと日本です。予算、場所、時間を問わず、中国で生まれたこの伝統的な栄養学を通して、だれもが幸せに長生きできるでしょう。私たち一人一人が栄養学のバランスを実践できるよう、研究していきたい」というエミリー。今後の和食がフランスでどのように発展していくのか、罪深さ=快楽として、ことさら愛されてきたフランスの食の世界に、どう浸透していくのか、目が離せない時代です。

今週のトピックス

【A】ローストチキンをコンセプトに展開するユニークなファーストフード店の躍進。

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