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きわときわの価値観がくっつくとき

旦那さんと出会ったのは、国会議事堂図書館でマルクスの「社会論」を手にとろうとしたとき、お互いの手が偶然本に同時に触れて、はっとなって「どうぞどうぞ」とお互いに会釈したのが始まり。

という設定になっている。まさか大好きな夏木マリさんがCMしているからという理由だけで何気なく登録したマッチングアプリで偶然マッチングしてそもそも信ぴょう性が低いと疑いながらやりとりが始まり、まあいっか、と正直てきとーに会ってみた唯一最初で最後の人が旦那さんだった、とはさすがに結婚式でも言えなかった。

そういえば、ふと思い出した。いちばーん最初に初めて対面で会うデートに旦那さんは10分以上遅れてきたんだ。今でもそれを問い詰めようものなら、「いやあれは5分くらいだった」と巨大なゾウの物差しで時間を語るから驚愕する。よくよく考えたら、第一印象から最悪だった。だって、初回のデートで10分以上遅れてくるってセッカチが服を着て歩いている私にとってはあり得ない。机を人差し指でトントン、時計を何度も見て、もう帰ってやる、と何度思ったことか。そもそも、我々セッカチ族はセッカチゆえに、集合場所にぴったりに来るなんてことがあり得ない。ぴったりに来ようと思っていても、なぜかわからないけれど、いつも10分前くらいには到着してしまう。その上、初対面のデートにさすがに遅れられないという意識も働いて、15分前くらいについてしまってたりする。だから、相手に10分遅れられただけで、こちとら25分お待ち申し上げることになる。25分ってほぼ30分なわけで、もう15分待ったらもう45分なわけで、それはもうほぼ1時間なわけで。1日24時間しかない人生において、寝ている時間が10時間として、活動できる時間は14時間しかない。しかも1日1時間はご飯を食べているとすると、活動できる時間は11時間。お風呂に入って1時間。掃除をして1時間。この時点ですでにもう9時間しか残されていない。なーのに、貴重ななけなしの9時間のうち、さらに1時間を相手を待つことに時間を棒にふるうなんてそんなことがあっていいわけがない。時間泥棒め!と思って堪忍袋の緒がキレて立ち上がるか、いやいや大人げないと、衝動を抑えて立ち上がるまいか、の絶妙なタイミングで駆け込みセーフといわんばかりに入ってきた旦那さん。カラフルチェックのシャツに赤いセーターを着ていた。黒縁眼鏡をかけて。ふーん、そのセンスは悪くないな。しかも身長がめちゃ高くて本当にゾウだかキリンだかとそっくり。
柄シャツ家族に色派手靴下族のもとで愛情たっぷりに育った私は、カラフルチェックを着こなす人に悪い人はいない!と思っている節があるので、怒りを抑え満面の笑みを張り付けて初対面のご挨拶をした。遅れてごめんなさいの一言もあったし、息も切らしているからまあいいか。と心穏やかに食事をしたのを今でも覚えている。

ただ、書いていたらだんだん思い出してきた。初回のデートの日になる前、会おうよとなってから段取りを引いたのは全部私だった。そもそも、「会えたらいいね~」で終わる旦那さんに「なんじゃい、こいつ」と思った。会うのか会わないのか、てんでわからない。生まれてこのかた、世の中は白か黒しかないと思ってきたもので、「会う」は、「会う」か「会わないか」しかない。「会えたらいいね~」って会うの会わないのどっちなの?!ドリカムの大阪ラバーが大音量で頭の中を流れる。「そやなぁ」って行くの?行かないの?

で、結局会うのか会わないのかをやんわり問い詰め、会おうてなったのにそこから話が全く進まない。これって時間ドロボーじゃないですか?タスクが全く完了しなくてセッカチさんがこんにちは。ムズムズムズ。

「何食べたいですか?」
「うーん、ご希望ありますか?」
「・・中華以外で例えばイタリアンか和食はどうでしょう?」
「えーどっちがいいかなぁ。迷っちゃいますね。」
「・・・」

「お店の件、どうしますか?」
「イタリアンか和食ですよね。どちらが好きですか?!」
「どちらも好きです。好き嫌いとか苦手な食材ありますか?」
「なんでも食べます!」
「・・・」

数日経ってあまりにも話が進まないので、私の堪忍という袋がついにブッチブチ音を立て切れた。

「イタリアンだとA店とB店。和食だとC店とD店をピックアップしてみました。お店のロケーションや食材の内容、お手頃感などを考えてA店とD店のどちらかでどうでしょうか?私はどちらのお店も好きなので、どちらがいいですか?」

「わぁ、ありがとうございます。ではD店も魅力的ですが、僕イタリアンが好きなのでA店にしましょうか!」
「(イタリアン好きなんかい!)わかりました。では●月●日13:00~2名で予約したので現地集合しましょう」

として、白黒はっきりがつくまで所要時間約2週間(か1週間くらい)。もう白黒の神様やら、せっかち大魔王やらがぐちゃぐちゃ込み入ったこの1-2週間は本当に苦行の日々だった。お店1件決めるのにこんなに時間がかかるなんて生涯あっても時間がたりない。アンビリーバボー!!

初回素敵なデートの約束がこんなスタートだったので、「海外育ちで当たり前に男性が女性にたいして行うエスコートを日々目の当たりにしてきた人達」に憧れる超ドメスティック育ちな私は、日本にはまだこんな昭和みたいな人がいるもんだ、と自分を棚に上げて日本の将来を嘆いたんだった。

結局このよくわけがわからない白とも黒とも言えないグレイマジックにまんまとはまった私はその後旦那さんとの結婚を経て、たー坊先生に出会うことになった。これまたダウン症のたー坊先生のグレイ度が濃いことといったら。ほぼ黒なのかほぼグレイなのか本当によくからない。たー坊先生のその黒だか白だかはっきりしない感じに、旦那さんの波長がドはまりするのか、私だったらイライラの境地に沸点が達するところも、旦那さんにかかると10回中1回くらいのイライラに収まっていて、それはまあ2人仲良くのほほんとのんびり時間を過ごしているから本当にどっちもどっちなんだなぁと思う。

生きている時間軸が違う旦那さんが、初回のデートの時、最後にふとつぶやいた。「あやちゃんは8:2の2のきわにいて、俺は8:2の8にいる」って。「ナニヲイッテイルンダロウコノヒトハ?」と思ったけど、一緒に生活してきて何となくその意味が分かってきた。凡人でいたい彼と、突き抜けたい私。人と同じでいいなーという彼と強烈な個性をもって生きたい私。人と共調だか協調の生活をしたい彼と、自分ありきで生きたい私。そんなこともあるよねーとふわっとした彼と、世の中は白か黒にしたい私。8:2の8中で生きる彼と、2のしかもそのきわのきわにいたい私。おだやかな彼とせっかちで激昂する私(いや最後の奴は旦那さんの悪事によるところだってある)。結婚する前も驚くほどにケンカばかりだった。旦那さん曰く、こんなに人とケンカしたことないのに・・としょぼんとするくらい日々ケンカした。一番大きなケンカのあとで、私が「8:2のきわエピソード」を持ち出してきて、別れてやる!!と騒ぎ立てたとき、旦那さんがふと言った。「でもさ、8:2のそれぞれの際がくっついたら1周回って同じ世界だよね」って。
よくわからない旦那さんのロジックに丸め込まれて結婚したけれど、やっぱり日々ケンカは絶えない。「もっとこうしてほしい」「こうであってほしい」「なぜ私ばかり」「なんでこんなこともやってくれないの」「こんなにいそがしいのに」。大抵鬼の形相でこれらをぶつけるとき、となりで困った顔をするたー坊先生がちらりと視界に入る。ダウン症の子は、空気感に敏感なんだって。期待しても相手が変わるわけじゃないんだから、こちらが徳を積むしかない。穏やかな心で、ありのままを受け入れる。今あるものに感謝をして、相手に何かを望みすぎてはいけない。そう悟りをひらくように・・なんてことこんな私にできるわけない。8:2のきわときわがくっついたとき、そこに出来上がる世界はどんなだろう。

この笑顔は反則です!読んで遊んでアピール
マスクが欲しいというから一瞬貸して差し上げましたよ
この絶妙な距離感
自分の誕生日ケーキを全力でほおばるお方






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結婚式の思い出

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