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柳香書院版 陰獣

■ 感想

「柳香書院版 陰獣」江戸川亂歩(東都我刊我書房)P116

横溝正史が編集長だった頃の雑誌「新青年」で復帰作として発表された「陰獣」。発表当初、甲賀三郎などに敢えてはっきりとさせなかった結末を批判されたため1935年刊行の柳香書院「柘榴」で再録した際に結末を書き改められたが、乱歩としては矢張り当初の形の方がよいと考え、1946年鎌倉文庫刊行の「鏡地獄」への再録以降は原形に戻された。

大好きな「陰獣」の書き改められた版もいつか読みたいと思っていたので、柳香書院版のテキストに沿う形で復刻され、こうして読めることがとても嬉しい。極力、旧字旧かなづかいに覆されているのも発売当初に潜り込んだような高揚感を呼び起こす。導入や結末の違いの面白さだけでなく、旧字で読むことがあまりないので旧字から言葉の成り立ちや意味の深さを知る機会になったことも大きな歓びだった。

骨が豊な身をつけて「身體:からだ」だったり、「独居」も「獨居:ひとりゐ」の方が、しっとりと仄暗い淋しさが漂う空気を纏っていて、旧字の佇まいの深さと美しさに感銘を受ける。

結末は開かれた終わりである当初の形の方が余韻深く、読者に委ねられ幾重にも広がる陰獣の方がこの作品らしい性格として収まりが良いと感じる。何パターンにも想像できる結末の、そこに行きつく過程すら読者それぞれに組み立てることができる懐深さがあるので、それぞれの「陰獣」を描く小説と漫画のアンソロジーを是非読んでみたい。

■ 漂流図書

■鏡地獄(鎌倉文庫:1946年)|江戸川乱歩

現代訳されていない乱歩が書いた文章で読める版は、体験していない時代の空気感を疑似体験するように脳内で描いていけるのも愉しい。

当時の版のままで全作品を収めた全集が刊行されることを熱望してしまう。

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