あなたの苦しみと悩みの種。
ひよこは、生まれて初めて見たものを自分の親だと思う。
この事を、刷り込みという。
ヒヨコは、生きる叡智を一体何から学ぶだろうか。
ヘレンケラーという、狼に育てられた少女の話がある。
狼に育てられた少女は、読み書きも出来なければ、
発見された当時は、二足歩行で歩く事すら出来なかったという。
少女は、生きる叡智を一体何から学んだのだろう。
同い年の子どもの誰よりも上手に、4足歩行で走れたそうだ。
あなたの悩みと苦しみの原因の殆どが、そこから来ていると言ったら、あなたは驚くだろうか。
生きていくための術を殆ど持たない赤ちゃんは、
自分を育ててくれる相手から、生きる叡智を学ぶ。
どんな事に怒ると良いのか。
どんな事に悲しむべきなのか。
どんな事が喜ばしい事なのか。
どんな事に価値があるのか。
育ててくれた相手の価値観を学んで、育つ。
4足歩行が当たり前の相手からは、当然4足歩行を学ぶ。
あなたが今、悩み苦しんでいる事。
もしかしたら、あなたを育ててくれた相手も、あなたと同じ悩みを抱えて生きてきたんじゃないだろうか。
もしそうであるならば、あなたの悩みは、本当はあなたのものではないかもしれない。
そして、あなたを育ててくれた人の悩みも、本当はその人の悩みではないかもしれない。
昔、『巨人の星』という漫画があった。
主人公の飛雄馬は、プロ野球選手になるための英才教育を父の一徹から受けるのだが、その内容が真冬にギプスを装着して、寒い中雪の上でうさぎ飛びをする様な過酷なもので。
まあ、プロ野球選手になる前に、身体の機能を壊して、下手したら死ぬよね。
プロ野球選手に至上の価値を置いていた父親は、息子の笑顔を守る事や、息子に楽しい思いをさせることなんて眼中になかった。
プロ野球選手になる事こそが、息子に幸せを与える事だと信じ込んでいたからだ。
リアルタイムに見ていた世代の人たちも、当時はつらさを乗り越えて頑張る飛雄馬に、勇気を貰っていた。
いま冷静に見れば、児童虐待で通報保護逮捕案件だけども。
あなたが今、悩み苦しんでいる事は、毒親のせいでもないし、勿論あなたのせいでもない。
憎いアイツのせいでもない。
本当は、人が苦しくつらくなるような価値観を、一徹のように信じ込んでしまう人を量産する何かのせい。
そう。
人はそれを、時代の風潮って呼ぶ。
時代が。
社会が。
何を主張し、何を広めているのかを見ていれば、あなたの悩みや苦しみは、本当は悩む事でも、苦しまなければならない事でもないんだって、分かってくる。
背が高いことが良くて、低いことが悪いなんてバカげている。でもそんな風潮がある。
色が白い事が良くて黒い事が悪いなんてバカげている。でも、やっぱりそんな風潮はある。
痩せている事が良くて、ふくよかな事が悪いなんてバカげている。でも今はそんな風潮がある。浮世絵の時代は真逆だったよね。
あなたを追い詰めた親も、あなたを追い詰めた上司も、あなたを追い詰めた周囲の人も、ただ幼少期にギプスをつけてうさぎ飛びをさせられていただけだった。
それが正しいと信じて、それがいい事だと信じて、ただそれを、息を吸うみたいな自動反射であなたにもさせようとしているだけなんだ。
本当は、そこに悪意なんて一欠片もない。
そこには、あなたと同じ悩みと苦しみと、自分と同じ目に合っているあなたを作り出してしまった、自分自身に対する悲しみだけが存在している。
この苦しみや悲しみが、実は自分のものではなかったと気がついたとき。
あなたの苦しみは、春の雪のように溶けているのだ。