見出し画像

アクセントとイントネーションの高低

先日、
「ネイティブブラジル人の方の発音の高低を、ギターのチューナーで計測してみた」
というなんとも興味深い実験をなさった生徒さんがいました。笑
発想が素晴らしすぎてしばらく笑い転げていましたが、
その時に思ったことを解説していきます。

アクセント

アクセントとは、
単語を音節(日本語だと1文字に対してでしょうか)に分けたときの音の変化のことで、
日本語は高低、ポルトガル語は強弱でアクセントを表現します。
これはいつも私が話していることであり、
レッスンの一番最初に話すことでもあります。

日本人は「高低」しか知らないため、
「強弱」で発音されているポルトガル語のアクセントが
「高低」に聞こえてしまいます。

なので、同じように発音しているはずなのに、なんだか違う音に聞こえてしまうのです。

例)はし
橋 は↓ し↑
箸 は↑し↓

例)かき
柿    か↓ き↑  
牡蠣  か↑ き↓

東京アクセントを基準にしています。
「東と西で音が逆になる」という現象が起こりますが、
これが「方言」と呼ばれるものになります。
また、このように矢印で音を表現でき、文字でも伝えられることからも、
日本語は「高低アクセント」と言えます。

もしこれらをポルトガル語風に発音するとしたら、

橋 ハーシ
(「シ」はsの音が聞こえるくらいで、iの音ははっきり言わないかもしれません)
箸 ハシー
柿 カキー
(ポルトガル語で柿はcaqui [ ka ́ki] です。日本移民者が植えて広まったのだと思われます)
牡蠣  カーッキ

少し大袈裟な表記かもしれませんが、
ブラジル人は「高低アクセント」ができないので、
伸ばし棒「ー」や促音「ッ」を入れたようなアクセント
=強弱アクセントで発音すると思います。

では、ポルトガル語を「高低アクセント」で捉えるとどうなるでしょう。

例)vida
ヴィー↑ ダ↓
息の勢いが必要なく、胸式呼吸でも足りてしまいます。
喉(息の通り道)は開かなくても声が出せるため、労力を少なくするために細い喉のまま発音してしまいます。
声の出し方が日本語的でも、問題なく発音できてしまいます。
しかしこれだと、音色も日本語的になってしまいます。

ヴィー(強)  ダ(弱)
腹式呼吸を使って、勢いよく息を出します。
息の量が多くなるので、喉の開きが太くなります。
顔や胸のあたりの空間や骨に声が響き渡っている感覚がします。

このように認識すると、よりポルトガル語っぽい発音に近づけるでしょう。

イントネーション

「アクセント」は単語に対する音色でしたが、
「イントネーション」は文章全体に対する音色です。
イントネーション(文章全体の音の高低)によって、
感情、疑問や質問、肯定や否定を表現します。

例)
「楽しかった!」「辛かった…」
これらを声に出して言うとき、「楽しかった」は上向きの音に、「辛かった」は下向きの音になります。
「辛かった!」と、楽しそうな音で言うことはできません。

例)
「食べてもいいです」「食べてもいいですか」
「食べてもいいです」は、文章末が下に落ちていって
「食べてもいいですか」は文章末が上がり、疑問の言葉になります。

(文章の最後に疑問の「か」がある場合は、「か」自体が疑問の意味になるので、音を上げなくても通じます。「?」の記号も輸入品(笑)なので、本来の日本語にはつけません。)

英語の疑問文はAre you japanese?のように、動詞を先に持ってきますが、
ポルトガル語は、平叙文と疑問文の単語の入れ替えは行われません。
そこで何を以て平叙文と疑問文を見分けるのかと言ったら、イントネーションです。
(文章は最後に「?」記号を付けるだけでいいです。)

ポルトガル語の場合、
「文の最後の単語のアクセントのある音節が、他の単語のアクセントのある音節より高いか低いか」
で疑問文かどうかを見分けます。

Você é brasileiro.
最後の単語:bra-si-lei-ro

leiにアクセントがあります。
他の単語のアクセント(例えばéにしてみましょう)とleiは、アクセントの音の高さは同じです。

Você é brasileiro?
疑問文の場合、éよりもleiが高くないと疑問文にの音にはなりません。
どちらもアクセントは「強」で読みますが、イントネーションの音は「高低」で区別します。

じゃあポルトガル語には音の高低はないの?

という疑問があるかと思いますが、
実際のところはあります。
しかしそれは「アクセントの高低」ではなく、
「イントネーションの高低」です。

単語だけを言う場合、単語末は下がっていく音(低くなる音)になりますが、
これはアクセントではなく、
イントネーションなのではないかなぁと思います。
というのも、イントネーションというものは、
前後の単語の有無によって単語末の音の高さが変わるからです。
アクセント位置が変わることは絶対にありませんので、
前後の単語に何があるかなどは関係なく、
強く発音する場所はいつでも必ず同じ場所です。
そのことを考えると「アクセントがない場所は高低の低い音で発音する」とは、
やはり言えません。

casa 「家」
カー↑ ザ↓
アクセントはcaにあります。そしてcasaだけの発音になるので、caは高く、saは低く聞こえます。

casa branca 「白い家」
カー↑ ザ↑ ブラン↑カ↓
casa の後に形容詞brancaがついています。casa だけでは終わらず、まだ後ろにも単語があり、しかも名詞を修飾する形容詞なので関係性は強いです。
この場合、「まだ後ろにも単語があるよ」「後ろの単語に繋げるよ」というニュアンスが出てしまうので、saの音も高くして、次の単語に繋げます。

音自体を真似てしまう落とし穴

ポルトガル語に慣れている私などは、
どこをどのような音にすればいいのか大体分かっているので、
イントネーションが乱れることはほとんどありません。

しかしポルトガル語に慣れていない生徒さんたちは、
私の高低の「音」だけを真似ようとするので、
とても日本語っぽいポルトガル語になってしまいます。
これは、英語を勉強している方にも起こっている現象だと思います。

私は、「次にbrancaという形容詞があるからcasaのsaが上がってしまう」だけで、
saを高い音で発音しようとしているわけではありません。
勝手に上がるのです。
しかし生徒さんは「そうやって言わなくてはいけないんだ」と勘違いしてしまい、
私の「音」をそのまま真似てしまいます。
すると、無理して発音しているので、
声がうわずってしまったり、
どこまでも高いところまでいってしまって戻って来れなくなってしまいます。笑

そういう「間違った音」も先生は見逃しません。
「音を真似るのではなく、そうなってしまう言い方をしてください」とアドバイスし、
自力で私と同じような音が出せるようになるまで訓練していただきます。
スパルタです。笑

自ら「弱い音」を出しにいこうとしなくていい

「強弱アクセントだから、弱いところは弱く出さないといけない」
と思っていらっしゃる方も若干いらっしゃるので、
解説しておきます。
強く出せば、他は勝手に弱い音になるので、無理に弱くする必要はありません。

無理に弱く出そうとしている生徒さんがいました。
私はその努力に気づいていませんでした。
発音にずっと違和感があったので「どこを改善すればいいのか」を探していました。
そして話を伺ってみると「弱い部分が上手く出せない」とのことで、
頑張って「強弱」の「弱」を表現しようとしていたのです。
そこでやっと謎が解けました。
弱く出そうとしていたから音がどこかに行ってしまって脱落してしまい、
前後の単語の長さや音色のバランスが崩れていたのです。
こういう方は少なくないので、
教える側としてもきちんと伝えていかないといけないなと思いました。

どうしたって、ブラジル人はポルトガル語発音

余談です。
チューナーで日本語発音を計測するときは、
ポルトガル語が喋れない日本語話者で試してみてほしいと助言しました。

というのも、ポルトガル語を喋れる方は、
日本語を喋っていても強弱アクセントが出てしまう可能性があるのです。

私のような「日本語が母国語でポルトガル語が喋れる人」だと分かりませんが、
「ポルトガル語も日本語も喋れる」日系人の方は注意が必要です。

というのも、あるとき母が、
「天気」という字を音声認識でスマホだったか性能のいいガラケーだったかに書いてもらおうとして喋ったとき、
まず「天」だけ言ってみたのですが、
英語の10(ten)が出てきました。笑
その時は家族で大笑いしましたが、
「彼女はどうしたってポルトガル語発音しかできないんだ」と強く認識させられました。

逆に言えば、私たちはどれだけポルトガル語や英語を喋っていても、
日本語発音になってしまう音が残ってしまっている可能性があるということです。
もしかすると、ノイズ程度の音の成分が入っているかもしれません。
私も、生徒さんにアドバイスばかりしていないで、
自分の鍛錬に磨きをかけていきたいと思います。

♡ ••┈いつもご覧くださりありがとうございます┈•• ♡
私のレッスンでは、
・発音矯正
・音声学に基づいた「日本語のクセ」と「ポル語の特徴」の解説
・「ポル語グルーヴ」のブラジル音楽への落とし込み方
などを教えています。
YouTubeでミニ講座を投稿している他、オンライン無料レッスンも行っています。
ご興味がある方は是非YouTubeチャンネルHPをご覧ください.*˚✩
♡ ••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈•• ♡

✼••┈ A sua professora ┈••✼
꧁愛マリアンジェラ꧂

著書
『日常ポルトガル語会話ネイティブ表現』(出版: 語研)
※共著

電子書籍
『ブラジルとブラジル音楽とポルトガル語の話』
※Kindle Unlimited対応

HP(レッスンの詳細/お申込み)
お問い合わせ
YouTube
Instagram
Facebook
podcast (Spotify)
TikTok

所属事務所 (声優/ナレーター)
株式会社FIREWORKS

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?