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枠にハマらない男

機械の中の女曰く
背筋を壁につけてください。
椅子に深くこしかけます。
画面の赤丸の中に頭髪の先端と顎の先端が入るように、
椅子の高さを調節してください。

What?

お受験の度に証明写真を取らなくてはいけない。
証明写真の有効期限は確か6ヶ月。
つまり1年に2回ほどあの箱に入らなくてはいけない。

それにしてもあの箱が嫌いだ。
いつも言われるあのフレーズ。
赤丸の中に顔面を収めろのフレーズ。

ミスターセンクスに足りないのは
椅子の高さじゃなく、
赤丸に収まるための距離である。

顔がでかく頭髪もボンバっているミスターセンクスは、
生まれてこのかた、
あの赤丸に収まったことがない。
憎き赤丸よ。
私をそんな枠にハメようなんぞ、
1000万年早いのである。
ハメハメするなら美女にしろって話である。

とはいえ、
ハメないことで何かしらのペナルティがあるかもしれない。
こちらは800円という経済価値を払っているのである。
写真から飛び出してしまったらこれは証明写真とはいえず、
ただの珍写真なのである。
そうなるのであれば、
チンの証明写真を撮ったほうがましだ。
ミスターセンクスのチンであれば、
容易にあの赤丸に収まるであろう。

なんとかハメようと努力する。
しかし背中にピタッと密着した後ろの壁があり、
どうやってもカメラから自分の顔を離すことができない。
もぞもぞ格闘しても無駄な努力だ。

こうなったら
この後ろの壁を破壊するか、
時空を歪ませる魔法を使うかの2択である。

しかしその時のミスターセンクスは
どちらの能力も持ち合わせていなかった。

800円を無駄にする思いで
ええい!と決定ボタンを押す。
間抜けなシャッター音がなり、
1分もしないうちに
間抜けな面の男の写真が出てくる。

結果的にミスターセンクスの顔面は、
全て写真の中に収まっていた。

ではあの赤丸はなんなのだろう。
私のあの努力はなんだったのだろうか。

この現象を結論付ければ、
ミスターセンクスは
枠にハマらなくても
なんとかなるということである。

生きることに自信を持った今日のできごとであった。

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