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人的サービスはA3用紙1枚で「サービス設計書」をつくるべしという話

人事系の仕事の方にとっては、腑に落ちる考え方かと思います。

私がこれまで、赤ペン先生の採用・研修・評価制度を担当していたときも、キャリア教育コーディネーターの育成・認定のしくみを設計していたときも、同じフレームが頭の中にありました。各施策を考えるベースであり、全体像が俯瞰できる「設計書」。これはA3用紙1枚でした。設計書で明らかにするのは、そのサービスの提供価値の定義、品質の評価基準、業務設計、人材要件です。この設計書があると、人事系の仕事のうち、以下の施策の指針が明確になります。

・人材の募集要件
・採用基準
・業務マニュアル企画
・人材育成計画

そして、このA3用紙1枚のフレームは、コンサル・カウンセラーなどの人的サービス、もしかしたら介護系の仕事も、同じフレームでサービスの設計ができるのではないかと考えています。

↓フレームはこちら↓

設計書

こうしてみると、あたりまえのことしか書いてませんが、A3用紙1枚でっていうところがポイントです。何枚もにも渡る「企画書」だと、めくらないと全体像が把握できないですし、それぞれのページの相関関係も把握がしずらくなります。1枚で俯瞰できる状態にしておくと、例えば、社会環境の変化にあわせてサービス内容の改訂を行うとしたら、それにあわせて採用やトレーニングをどう変えたらいいか、道筋を明確にすることができます。すべての施策の戻りどころなのです。

では、それぞれの項目について解説していきます。ただし、枠を埋める・記入するだけになっては全く意味がありません。提供するサービスの本質について議論し、言語化するプロセスとして考えていただく方がよいのではないかと考えています。


●提供価値

採用や研修の話なのにサービス内容?と意外に思われるかもしれませんが、採用も研修もすべてはサービス内容とむすびついています。というか、しっかりとむすびつけて考えるべきものです。あきらかにするのは、そのサービスのお客様は誰で、その人がどんな状態にすることをめざすのか、「めざす状態」です。どんな「満足の声」をもらえたらいいのか、具体的なお客様の姿をイメージしておくといいと思います。サービス=事業内容という会社の場合は、ここが企業理念やクレドのようなものになってくるのではないでしょうか。

●サービス基準

提供価値で定義した「めざす状態」を実現するために、どんなサービスを提供するのか、サービスの内容をあきらかにする部分です。「〇〇が提供されている(実現されている)」というような文言になります。「サービス基準」としているのは、提供するサービスにもいくつかの段階(レベル)があるからです。フレーム内では、「MUST」と「BETTER」の大きく2段階にしています。「MUST」は、誰がそのサービスを実行しても絶対に実現するレベルのもの。「MUST」の中には、サービス内容によっては、前提として「これがないとなんらかのリスクがある」というレベルも含まれるかもしれません。コンプライアンスに関わることや誰かを傷つけたり危害を加える可能性があるもの、不満につながるものがあれば区別しておきましょう。また、その上にある「BETTER」は、あったらさらに満足度が高まるもの。サービスを提供する人の個性や顧客との関係のあり方によって変化することもあり、クオリティに上限がなく青天井になるレベルです。これを「誰が実行しても絶対に実現するレベル」に設定してしまうとサービスの再現性が担保できなくなりますので、区別して考えたいところです。

●業務設計・行動設計

サービス基準で整理した提供サービスの内容を実現するために、どんな行動をする必要があるのかを整理する部分です。業務フローのように時間軸・手順で整理しておくと良いと思います。どこにどれくらいの時間がかかっているかがわかってくると、提供価値に対して適切なパワー・コストのかけかたができているかどうかも判断できるようになってきます。価値を高めるために削ってはいけないコストもあります。どこを効率化し、どんな部分にしっかりパワーを割くべきか、サービスの価値を高めるための業務設計を考えましょう。また、その業務にかかる時間を見積もり、さらに時間単価をかければ、コストの試算・価格設定の根拠にもなります。
*インフラやシステムなど、提供価値を満たすために必要だがサービス提供者の業務ではないものがあれば、ここで整理しておくとよいです。(例えば、添削指導サービスの場合だと、出題や答案の提出・返送のしくみなど、サービスの価値や満足度に影響があるものが該当します。)

●必要な知識

業務・行動を行うにあたって、必要な知識を洗い出しておく部分です。「〇〇についての知識を持っている」「〇〇について理解している」などの文言になります。ここでは、それぞれの業務・行動に対応するように考えることがポイントです。これは以降の「スキル」「資質」についても同様です。

●必要なスキル

業務・行動を行うにあたって必要なスキル・技能を洗い出す部分です。「〇〇できる」という文言になります。ここでの注意点は、「コミュニケーション能力」のような聞こえのいいキーワードにまとめてしまわないことです。コミュニケーション能力といっても人によって思い浮かべることが違いますし、業務のシーンによって求められる内容が違うこともあるでしょう。ですから、どんなことができることなのか、できるだけ具体的なシーンを思い浮かべながら洗い出す方がよいです。

●資質

業務・行動を行うにあたって持つべき資質やあり方についてです。業務内容によっては「向き・不向き」といったものもあると思います。それらをあきらかにする部分です。募集・採用のシーンではここが基準になってくる可能性があります。

●最後に・・・施策を整理してみる

「必要な知識」「必要なスキル」「資質」に関して、「募集・採用の基準にするべきこと」「OFF-JTで身につけること」「OJTで身につけること」に3つで整理をしておくと、採用のための施策、入社時の研修の企画、長期的な育成計画を検討する指針になります。どの部分にどれくらいのパワーとコストをかけるべきか、施策の優先順位を決める判断基準にもつながるはずです。

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弊社で開講しているキャリア教育コーディネーター養成講座も、このA3用紙1枚の設計書があります。これをそのまま公開することはしていませんが、パーツごとにWEBなどで提示しています(キャリア教育コーディネーターとは何をする人なのか=提供価値/学習領域=どんな知識が必要なのか/到達目標=どんなスキルが必要なのか)。また、講座を開講する上でも、必ず受講生と共有するようにしています。受講者自身もゴールを意識しながら学ぶことが、学習効果を高めることにつながるからです。これもメタ認知ですね。

というわけで、そろそろ今年度のキャリア教育コーディネーター養成講座の設計見直しをせねばならないタイミングでした(←未着手。今回の記事のオチはここでした・・・)設計見直しが終わり次第、こちらのサイトで受講者募集を行います。乞うご期待。


松倉由紀
キャリア教育コーディネーター・教育研修プランナー。1975年長野県上田市生まれ。静岡大学人文学部卒業。地元での就職に失敗(4か月めで退職届!)ののち、大手通信教育会社、人材派遣会社、コンサルティングファームを経て現職。キャリア教育の領域で教育プログラム開発と「しくみ作り」をする「企画屋」「クリエイター」であり「風呂敷たたみ屋」。2016年4月個人事業主から法人成り(株)ax-factory(https://ax-factory.wixsite.com/corporate)を設立。2020年京都造形芸術大学通信教育部(グラフィックデザイン)を卒業。デザインで学びをおもしろくします。
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