キャリア教育コーディネーターとキャリアコンサルタント、どう違う?
私もキャリア教育コーディネーターと国家資格キャリアコンサルタントと、両方の資格を持っていますが、両者がどう違うのかについては、「キャリア」に興味のある方からよくいただく質問なので、あらためて、次の4つの視点から整理してみたいと思います。
●定義
●業務内容
●資格の取り方
●向いている人
●定義
まず、それぞれがどのように定義されているかについて確認したいと思います。
こちらはキャリア教育コーディネーターネットワーク協議会が認定する民間資格です。2008-2011年度経済産業省事業においてその仕組みが開発され、2011年度から自立化し民間で運営しています。
こちらは、現在は国家資格になっています。上記の出典からもわかるように、管轄は厚生労働省のキャリア形成支援室です。
●業務内容
業務の内容に関しては、定義から読み取れる部分も多いですね。キャリアコンサルタントが「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行う専門家」であるのに対し、キャリア教育コーディネーターは「地域社会が持つ教育資源と学校を結びつけ、児童・生徒等の多様な能力を活用する場を提供することを通じ、キャリア教育の支援を行う専門家」とあります。
まず業務の対象(誰がお客様なのか)が違うといえます。
キャリアコンサルタントは「労働者」とあり、働く人ひとりひとりが対象ということができると思います。どこで活動するキャリアコンサルタントかによって、例えば「働いている人」だったり、学生を含む求職者といった「これから働こうとする人」「働きたい人」が、直接的なお客様ということになります。間接的な意味では、企業や大学・学校といった組織がお客様になることもあります。
一方でキャリア教育コーディネーターにとってのお客様は、上記の定義からは読み取りづらいのですが、私は3つの異なるお客様がいると考えています。ひとつは、子どもたち。これは最終的に価値をお届けすべき対象なのですが、そのために直接的にやりとりをする相手としては、学校・教員、そして、地域住民や企業などの産業界が主な対象となります。
次に、その対象(お客様)にどのような価値を提供する存在なのか。
キャリアコンサルタントは、定義からみると「職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談・助言・指導」ということができそうです。私もキャリアカウンセリング業務を行うことがありますが、大事な提供価値は、具体的な助言や指導よりも(もちろんこの部分も専門職として大事な部分ですが)、話を聴くことを通して、相手が自分では気づかない本音や価値観・強みに気づける「鏡」のような役割を果たすことなんじゃないかと思っています。
一方でキャリア教育コーディネーター。こちらも定義からみると「地域社会が持つ教育資源と学校を結びつけ、児童・生徒等の多様な能力を活用する場を提供する」というところが提供価値になります。「場」というのは、注釈にもあるように、授業や体験活動など様々な学びの場を指しています。具体的な活動としては、学校外の人材を呼ぶ授業を企画したり(教育資源と学校を結びつける)、外部の教育資源を活用した授業や体験活動をつくったり(これが場の提供)、こうしたプロジェクトの一連の業務をすべて行います。
キャリアコンサルタントが直接ひとりひとりの対象者と関わりながらそのキャリアを支援するのに対し、キャリア教育コーディネーターは裏方であることが多く、学校・教員、地域の人や産業界という全く価値観の違う人たちを「つなぐ」ことで学ぶ場をつくることになります。
私個人としては、キャリアコンサルタントという「個別施策」と、キャリア教育コーディネーターのような授業づくり・場づくりという「マス施策」と、その両方が有機的に連携していることが必要だと考えています。ただし、どちらの施策を行うのが得意かは、人によって大きく違います。この点に関しては、「向いている人」で整理してみたいと思います。(ちなみに私は両方の資格を持っていますが、「マス施策」の方が圧倒的に得意なのです。)
●資格の取り方
資格の取り方に関しては、その仕組みは似ていると思います。なぜなら、2008年-2010年度の経済産業省事業でキャリア教育コーディネーターの認定制度を開発した際(ここには私もディープに関わっていました)、先行していたキャリアコンサルタントの育成・認定の仕組みも参考にしましたので‥(笑)
キャリア教育コーディネーターの育成のしくみは、このようになっています。
キャリアコンサルタントは、以下のページを見ていただくのがいいでしょう。
いずれも、定められた講習課程を修了した後、試験を受けるという流れになっています。講習内容や試験の詳細はそれぞれのページを見ていただくのがいいと思いますが、ここでは、それぞれについて、私の目からみた特徴を簡単にご紹介しておきます。
キャリア教育コーディネーターの講習の特徴を挙げるとしたら、学校や教育行政に関する知識(例えば「教育委員会」や「学習指導要領」など)という、社会人には馴染みがない領域についてがっつり学ぶ点と、授業のつくり方を実践的に学ぶところです。また、実践コースでは、実際に学校に協力してもらい、学校のニーズヒアリングから授業の企画・運営・ふりかえりまで、一連のコーディネート業務を経験するという「ほぼ仕事」な活動を行います。この実践コースに関しては、キャリアコンサルタントの講習のイメージで来られた方はびっくりされることが少なくありません。
※ちなみに、私の会社でも、以下のようなキャリア教育コーディネーター育成研修会を開催しており、2024年度開催に向けた説明会も予定していますので、興味のある方はぜひどうぞ。
一方でキャリアコンサルタントの講習は、私が資格取得した時代の経験にはなりますが、キャリア発達・キャリア支援に関する各種理論やその方法に関して、海外での先行事例や変遷も含めて本当にきっちり学ぶことができるという印象です。関連する労働法規や労働市場の現状なども学習領域に含まれてくるので、テキストの厚さ・ボリュームがけっこうあります。また、なかでも個別の関わり(カウンセリング実践)が最も重要なトレーニングだったと感じています。人の話を「聴く」ことがいかにむずかしいかを実感した記憶があります。
●向いている人
この比較に関しては、私の主観的な意見になることをあらかじめ明記しておきたいと思います。
はじめてキャリア教育コーディネーターという仕事に出会ったとき、それまで比較的大きな会社の中にいて、部署ごとに業務が決められていた感覚とは全く違っていて、ずいぶんとレベルの高い仕事だなと驚いたことをよく覚えています。驚いたポイントを具体的に思い出してみると、以下のような点がありました。
・全く異なる価値観のあいだでの調整能力
・多様な関係をつなぐコミュニケーション能力
・企画力とそれを実現する実行力や推進力
・常識や既存の枠にとらわれずに越境していく力
異なる価値観をそのまま受け止めて、新しいことも楽しんで前向きに取り組める人が向いていると思います。また、それまでの私の経験が活かせると思ったのは、授業づくりや教材づくり、プロジェクトをつくる「プランニング」の部分でした。おそらく、編集者、広告クリエイター、TVの番組制作などのお仕事は、親和性の高い職業だと思います。
一方で、キャリアコンサルタントは、やはり、人と向き合って、人に寄り添うことにやりがいを感じる人でないと成り立たない仕事だと思います。上記の「業務内容」でも書きましたが、ひとりひとりの人への「個別施策」の色が強いように思います。
少々余談にはなりますが、労働政策研究・研修機構の下村英雄先生の著書「社会正義のキャリア支援」では、キャリアカウンセリングには、個別クライエントへのエンパワメントだけでなく、アドボカシー・組織間の連携・情報発信も必要であることに触れられています。
ただ、そうした活動が得意な人と、人に寄り添うのが得意な人は、一致しないことの方が多いように思います。
キャリア教育コーディネーターをめざす方によくお伝えしているのですが、「ひとりですべてのことをできる必要はない」ということ。多様な人が協力して協働して、できること・できないことを組み合わせればいいのです。これはキャリア教育コーディネーターとキャリアコンサルタントにも同じことが言えると思っています。「個別施策」と「マス施策」は、有機的に組み合わさり、行ったり来たりすることでその効果が高まるはずのもの。両者の連携も、キャリア教育・キャリア支援にはもっともっと必要なのではないかと考えています。
最後になりますが、もうひとつ。
「資格取得が仕事につながりますか?」という質問もよくいただきます。
医師や弁護士のように資格=職業というものもありますが、世の中にある多くの資格はそうした性質のものではありません。キャリアコンサルタントもキャリア教育コーディネーターも同様です。
どちらの資格も、誰かの人生を応援するためであるだけでなく、その学びのプロセスでは自分自身の人生と向き合うことが必要になります。資格取得を目的とするのではなく、なりたい自分のためにこの学びをどう活かすのかを自律的に考えることがとても大事です。そうすることで、すべての学びのプロセスから得られるものが、より多くなるんじゃないかと思います。知識やスキルだけでなく、仲間や新しいネットワークができたり、見えてくる世界もきっと広がることでしょう。そんな姿勢の方は、資格をお仕事につなげていっているように思います。学ぶことは「欲張ったもん勝ち」だと思います。
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