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ボール

そこにいることは始めから分かっていた。

でも、偶然のふりして向かう私。


アドレス帳から削除して数ヶ月。

しばらく連絡を取っていない。

そのことに気付かぬよう過ごしてきた。


会いたくなったわけじゃない。 

触れたくなったわけじゃない。

ただ、声が聞きたくなった。

それだけ。


薄暗い照明。騒がしい店内。度の強いお酒。

開けてはいけない扉を再び開けてしまうんじゃないか

そんな不安を、そんな理性を持ちながらも

あの人を探してた。


テーブルの下で合わせる膝と膝。

周りの誰も気付かない。

会わなかった数ヶ月の距離が一気に消える。


帰り道。

一人になると鳴る着信音。

あの人からの何気ないメッセージ。


その何気ないメッセージは2人の間だけで意味を持つ。


キャッチボールのボールは渡され

受け止めるかどうかは私に委ねられる。


あの人のズルさで

あの人の優しさで

あの人の弱さ。


そして

そのボールを抱きしめてしまう

弱い私が

そこにいる。






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