【後編】建築学生・若手設計者向けイベント「建築って大変だけど、面白い!(A.talk vol.2)」を開催しました
こんにちは。
建築設計者のための求人サイト A-worker運営スタッフの大塚です。
2022年10月7日に建築学生・若手設計者向けイベント「建築って大変だけど、面白い!(A.talk vol.2)」をYouTubeライブ配信にて開催しました。
当日の動画をご視聴されたい方はコチラから(YouTubeに移動します)。
テキストをご希望の方は以下からご覧下さい。
当レポートは、前編と後編に分かれています。第1部の内容は前編をご覧ください。
■設計プロセスから考える、京菓匠「笹屋伊織 別邸」
第2部がスタート。「これね、企業秘密なんです。今日はバラまいちゃいます」と話し始める松村氏。
配信会場である、京菓匠「笹屋伊織 別邸」は、カクオ・アーキテクト・オフィスが設計・デザインされました。京菓子の老舗、創業から300年の歴史がある笹屋伊織さんとのプロジェクトは、63坪という大きな面積の店舗設計を約5か月でグランドオープンさせるというハードなものでした。
「カクオちゃん!時間もコストも厳しいけど、一緒に走ってくれる?」
松村氏に呼びかけたのは、笹屋伊織の十代目 田丸みゆき女将。
「女将の夢がいっぱい詰まった企画書を見て、僕たちは決めたわけです。これはやるしかないと」
まず「この店舗をつくる目的」から考え始めたという松村氏。「提供するサービスのワンランク上のデザイン・空間」をつくると決め、ターゲット層は「所得がちょっと高めの方」とされました。
ここから私たちは怒濤の松村イズム、仕事への姿勢を見せつけられることになります。
「同業他社、そして他店舗の違いを調査しました。京都だけでなく、東京・大阪も。気になる和菓子屋さんはすべて訪れ、食べてきました。頼まれてないですけど(笑)」
「この店舗をフラッグシップモデルとして、関東圏にも展開させたい」という女将の展望をも見越し、京都の方だけでなく、関東の方が訪れたときに満足してもらえるデザインはどのようなものか、そして将来このブランドはどうなったら良いのかというブランディング視点で徹底的に考えられたそうです。
モデレーターの「そこまで入り込むのですね!」という感嘆の言葉に「社員のつもりでいますから」と笑って返す松村氏。
「そこが定まらないとデザインできない。施主の心の声、声にならない声を察し、具現化できるかということなのです」
お菓子で人を幸せにしたい。感動してもらいたい。技術を継承したい。老舗の良さ、信頼、こだわりを表現したい。新しい試みやチャレンジを伝えたい……。スライドにズラっと並ぶ「想い」。松村氏が女将の心を想像し、紡がれた言葉たち。そのどこまでも寄り添う姿勢に、思わずグッときます。
■デザインの思考過程
「なかなか公開するものではないのですが……今回は特別に」と仰り、見せてくださったのはエスキス/平面スケッチ。
「僕はやっぱり手で考えます。まず、頭の中で思っていることをふにゃふにゃと書く。手を動かしていると、そのうちイメージが固まってくる。それに定規を使って書き込むとこのようになります。書いたり消したりしながら、いまだにトレーシングペーパーを使っています」
1~2週間ほどかけて、1日の売り上げなども考えながらシミュレーションしていくそう。
「右脳で感じて、左脳で整理する。感覚から入るのが僕の特徴かなと思っています」とも話されます。建築学生が寄せてくださった質問「設計演習で手が止まって落ち込んでしまう」に対しては「いろんなことを考えすぎなんですよ。人からどう見られるか、先生に怒られるんじゃないかとか。自分は何を感じたのかを知り、整理する。しかも素早く短時間で」とアドバイスをしてくださいました。
続いて映し出されたのは、イメージコラージュ。店舗に置く行燈や格子のデザイン、壁の素材などのアイデアをストックされています。松村氏は自ら写真を撮りに行ったり、Pinterestでアイデアを集めたりもされるそうです。
「たくさんのアイデアから決めることが大事です。頭の中につくりたいイメージを置いておいた上で、たくさん見るんですね。そうするとバチっと合う瞬間がある。手が止まっちゃう人は、間違いなくインプットが足りない。とにかく動く。気になるものを見る。その上で『解像度を深める』。これは何?とか、誰がどこで、どんな材料で?などと落とし込んでいく。するとヒントが出てきて、やりたいこととマッチングしていく瞬間がある。そういうこともデザインとして面白いですよ」
その他、壁面に使われた砂糖菓子の図版柄について、そしてしなやかな曲線が女将のイメージに合うと採用された椅子、竹林の小道をイメージした壁紙のお話などを通して「設計者にはコストとのバランス感覚が求められる」ということを教えてくださりました。
「ここは譲る」「ここは譲られへん」そんな矛盾の中でも、最大限の「オモロイ」を実現するためにバランスを取る、それが設計者の仕事の1つでもあります。
■CGプレゼンテーション準備
空間のアイデアが大体固まると、プレゼンテーションの準備を行います。
松村氏のスケッチをもとに、CGの画面を見ながら「丸パイプをあと5ミリ小さく」「照明はここから」など、細かく話し合いをしながらつくっていくそうです。
「窓の表現もすごく大事。木や光の感じ。ちゃんと表現できていないと困るので、余すところなくリアルにつくってもらいました。ただし、リアルに近ければ近いほど良いというわけでもなく、イメージの部分を残すのが最初のCGのポイント。見ている人に広がりが出ると思うんです」
「天井には、空調やダウンライト、消防のセンサーなど、たくさんの設備が付く。それをすべて一直線に揃えます。それだけで美しい空間ができる。途中で妥協したくなりますが、うちは徹底してやります。だからこの綺麗な空間が生まれる。時間がかかってしょうがないですね(笑)」
ここでまた1つ松村イズムが詰まったエピソードが語られました。
ホテルエミオン京都の外観。メインエントランスの上には「笹屋伊織」と書かれた電飾で光る大きな看板があります。
「このホテルは京都の七条通に面していて、たくさん車が行き来しているのですが『車から見たときにどう見えるか』ということを考えました。これを付けると、このホテルが『笹屋伊織』のホテルに見えるっていうね。なんともお得感!」
女将もそのカラクリに気づき「これ、うちのホテルに見えるな」と話しておられたそう。
「コストが限られているのに電飾を入れるのは矛盾している。でも、他を削ってでも入れたことで、この看板が夜間も含めて24時間アピールしてくれる。『ここに笹屋伊織さんができたのね』と。美しくもあるので、写真を撮ってSNSにも投稿してもらえる。そういうスポットをデザインの中でたくさん仕込んでいます」
特に夜景は女将もお気に入りで「将来、大人のスイーツバーをやりたい!」とイメージを膨らませているそう。「そういう風につないでいくことを大事にしています。どんどん拡がっていく」と感慨深そうに話す松村氏が印象的でした。
■基本設計・実施設計
基本設計の後に行われる実施設計では「イオリカフェ 大丸京都店」厨房のロジックが用いられました。
「厨房の担当が完璧な方。調理器具の種類、並び順、すべてにロジックがあります。それを読み解きながら、新しいお店はどうするかという打合せを行います」
「学生さんは見たことがないと思いますが、こんな細かい図面を描きます。
設備、厨房、天井伏せ図、展開図、どんな素材をどんな寸法で構成するのかということをすべて二次元に落とし込まないと、工務店さんは施工ができない。コンセントの位置も考えないと大失敗しますので、お施主さんも交えて決めていきます」
■「笹屋伊織の300年の歴史を変えたな」
そうして出来上がったプロモーション用CG動画。作成されたのはカクオ・アーキテクト・オフィスの3年目社員、河野さん。彼が持つCGの才能に加え、音楽好きという個性の合わせ技で完成した作品を見たオーナーは「カクオさんは笹屋伊織の300年の歴史を変えたな。もう泣きそう!」とコメントしてくれたそう。「こんなに嬉しいコメントはない」と破顔した松村氏は話す。
その後、現場監理についてもお伺いしました。
和装+ヘルメットという出で立ちで建設現場に入られた女将。初めての現場ということでとても喜んでくれたそうです。
笹屋伊織 別邸には、壁面に、可愛らしい和菓子のレリーフが設置されています。これは、松村氏が本社ギャラリーで見つけた菓子型からつくられたものです。なんと、江戸時代の職人が彫り込んだ木型だそう。YouTube動画を参考に、ガンダムのプラモデルで使われている技術を用いて自宅の台所で試作をされたエピソードなどを伺いつつ、Q&Aに移りました。
■Q&A:建築との出会い
建築との出会いについては「中学生のとき、油絵画家になりたかった。それで生計を立てようと思っていたら『甘い。手堅いことも考えなさい』と先生に言われ、建築学科を紹介されました。そして本屋でたまたま新建築という雑誌を見たときに、大林組や竹中工務店のキレイな建築が並んでいる最後に、白黒のページを見つけた。そこでは安藤忠雄さんの「住吉の長屋」が衝撃的に紹介されていたんですね。これはなんだ!という感動を覚えた記憶があります」とお話してくださいました。
イベントも終盤になり、これから就職する建築学生さんに向けてメッセージを、と促された松村氏。
「人生、オモロイかどうかで判断したら良いと思います。人の意見よりも、まず行動。考えを持って行動してください。そこで感じるものがすべてです。そういう発想でたくましく生き抜いてほしいなと思っています」
■感動の竣工
イベント時間が押しに押し、感動の竣工にまで話が至らなかったイベント当日。エンドロールで写真とともに少しだけエピソードを語っていただきました。
「皆で集合写真を撮りました。嬉しそうでしょ?僕たちはこのために仕事をやっているんです。5か月間、やりきりました。感動のシーンです」
皆さん、本当に良い表情!プロセスをお伺いしたからこそ、会場にいる私たちも感動をお裾分けいただき、最後に、竣工の嬉しい気持ちを味わうことができました。
■アンケートの声
ここで、参加者にいただいたアンケートの声をいくつかご紹介します。
上記の内容から、参加された方々が松村氏の話を聴いて、刺激や気づきを得られたイベントになったと実感できました。
ご参加いただいた方々、長時間にわたりご視聴くださってありがとうございました。
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今後も「A-worker」は、建築業界で働く方、業界を目指している方の不安を解消・応援するイベントを開催していきます。「こういうイベントを開催してほしい!」「この方の話を聞いてみたい!」などがありましたら、こちらの記事へのコメントまたはA-workerのSNSへ気軽にリクエストしていただけたらと思います。(SNSはプロフィール欄をご確認ください。)
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■一級建築士事務所 株式会社 カクオ・アーキテクト・オフィス 松村様からのご感想
このたびは、A.Talkでお話しする機会を頂きありがとうございます。
特にZ世代、才能を秘めた20代の皆さんにお伝えしたいテーマです。子供の頃からスマートフォン(AI)と共に過ごしている皆さんは、結果をすぐに求める傾向にあります。「タイパ」は正義のように感じますが、大切なのはバランス感覚。
世の中には「すぐに分かる事」と「すぐには分からない事」の2通りがあります。「すぐに分かる事」は、知れば達成した気分になります。
「すぐには分からない事」を、如何に分かるようにするか……そのプロセスに、人生を豊かにする大切な学びが用意されています。
チャンスは平等にあります。行動するか否か…。自分磨きを重ね、ひたすら「夢中」に取り組んで下さい。自分磨きを重ね、ひたすら「夢中」に取り組んで下さい。
「大変」を乗り越えれば、もれなく「オモロイ未来」と出逢えます。
建築家/クリエイティブ・ディレクター 松村 佳久男
■イベント開催概要
<日時>
2022年 10月 7日(金) 20時~21時30分
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<第1部> アトリエ事務所で働く面白さとは?-働き方改革と、働きがい改革-
<第2部> 建築の仕事って大変だけど、面白い!-設計プロセスから考える~笹屋伊織 別邸~-
<第3部> Q&A(事前および当日いただいた質問に対する回答)
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<配信方法>
YouTubeライブ配信(配信会場:笹屋伊織 別邸)
<参加企業、登壇者>
一級建築士事務所 株式会社 カクオ・アーキテクト・オフィス
松村 佳久男(まつむら かくお)氏
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