ロボット公務員が、人生の師の言葉によって、「自分の人生」を取り戻した日
今から10年前のことです。
公務員として精神保健福祉の担当をしていた、ある夏の日。
その日は、40度近くの気温の中、ゴミ屋敷に一人で暮らすご年配の方を
精神科病院に移送する日でした。
三列シートのワンボックスカーのハンドルを握り、車を走らせながら考えていたのは、
「こんな暑い日のゴミ屋敷の匂いって?」
「倒れてはらへんかな?」
「包丁や刃物が飛んでこうへんかな?」
表情には出さなかったのですが、「落ち着いて話を聞いてくれはるやろか」と葛藤したり、不安でした。
とにかく自信がなかったのです。自信がないから常に指示待ちにもなります。
相棒の同い年の男性のベテランの精神保健福祉士のKさんが口を開きます。
「家の中に入らせてもらったらとにかく刃物や瓶があったら注意しような!あ、そこの道を右に曲がって!真っ直ぐ進んだら駐車場があるねん。そこに心配してはるご親族の方が待ってくれてはるから!」
駐車場に着くと、、、
「このたびは、本当にありがとうございます!暑くなってきたし、もうほっとけなくてね…病院に行こういうても聞いてくれへんから…!」
と親族の方が話かけてくれました。
そこで、相棒が次のように答えます。
「いえいえ!ぼくらの仕事ですから!病院には受け入れをお願いしてます。
お忙しい中来ていただいてありがとうございます!それでは、ご本人さんと
お話させてもらえますか?」
ピンポーン…
ピンポーン…
親族の方が
インターホンを押した後、
「役所の方が心配してきてくれたよー」
と声をかけてくれます。
すると、痩せたご年配の方が出てきてくれました。
「何よ。どしたん?」
相棒「ご親族の方から心配やっていうことで訪問させていただいたんです。ゴミが家の中に溢れてるので困ってはりませんか?」
滝のような汗が背中に流れるのを感じながら説得すること30分。車に乗ってもらい病院へ行き、診察に立ち会ったところ入院が決定しました。
家の戸締まりをして片付けを済ませたご親族の方も病院に到着され、玄関に入ってこられた瞬間、、、
「本当にありがとうございました!」
ぼく
「病院の手続きや聞き取りなど
あると思いますがよろしくお願いします。
おつかれさまでした」
そうあいさつをし、車に乗って相棒と一緒に役所に戻ります。
その帰りに飲んだ缶の冷たいブラックコーヒーの味は忘れられません。
役所に戻ると、上司のNさんが、
「おぅ!お疲れさん!
えらい遅くなってもうたな!もう7時やなぁ・・・暑いし、一杯飲みに行くか?どや?」
と声をかけてくれました。
こうして、奈良のある居酒屋でNさんに今日の出来事を報告すると、次のようにビールを片手に会話が始まりました。
Nさん
「そうか、お礼をいうてもろたんか。ええ仕事やんか、そう思わへんか?」
ぼく
「そうかもしれませんけど」
Nさん
「あのな…ええか!?ハッキリ言うといたるわ。お前が自分の仕事をええ仕事やと理解してないことが、1番の問題や!せやから自分に自信が持てへんねん!」
そして、次の言葉で、
ぼくの人生が変わります。
Nさん
「ええことやってんねんから胸張れ!」
この言葉が胸に突き刺さったのです。
「たしかにそうや!自分の仕事をええことなんやと思えてないことが1番の問題なんや!今日もお礼を言ってもらえてたのにしっかり受け入れられてなかった!」
それから、ぼくは自分の仕事の価値を受け入れていきました。
自分の母親がメンタルを病んだり自殺をしたこともあり、
「そういった世の中を変えたい」
「辛い経験をした自分にやからこそできることがあるはず」
と、思えるようになったのです。
自分の在り方がわかると「言われたことだけ」をロボットのようにする仕事のやり方を卒業でき、指示待ちではなく、自分から動けるようにもなれました。つまり、人生を他人任せではなく取り戻せたのです。
その頃からNさんのことをぼくの中で最高の上司であり、人生の師匠と思っています。
その日から10年が経ち、師匠は60歳になり、この3月末をもって奈良県庁を定年退職。
先日、コロナ禍ではありますが仲間たち5人とこじんまりとソーシャルディスタンス(心は密着!)で定年退職のお祝いをさせていただきました。
あの時から10年が経ちましたが、師匠の在り方はいい意味で変わりません。
さっそく新しい組織で地域のために勤務スタートされています。
お身体を大事にして生涯現役でいてください。
本当にお疲れ様でした。
この言葉を忘れずにこれからも活動していきます。
ハル
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