同じ景色を見ることから始めてみる awai 風のたより 39
4月もあっという間に中旬に入りましたがいかがおすごしですか?
私は今月、トルコのイズミルという都市に滞在しています。
約3年間暮らしていたオランダとは全く違った文化と地形。
(オランダはビックリするくらい平らです)
見るもの全てが新しく、どこか懐かしい感じもしています。
2週間の休暇の間、オランダ人のパートナーとこれまで以上に長い時間を過ごしていますが、一緒にいるとそれだけいろんなことが起こります。
頻繁に起こるのが「何の話をしているのか分からない」ということです。
お互い母国語ではない英語で会話をしているということもありますが、話していること(contents:内容)は分かるけれども、なぜ今その話をするのか(context:文脈)が分からないということが本当によく起こる。
「言っていることは分かるけど、あなたはなぜ今その話をしたの?」ときちんと聞ければいいものの、毎回そうはいかず、話や心がすれ違って折り合わないということも実は多々あります。
同じ場所にいても目に留まるものは全然違うもので、向かい合って座っていてるとなおさら違うものを見ていて…だから相手が話し始めたことが何についての話なのかよく分からない。
そして、話の文脈が分かったとしても、ある物事について完全に同じ意見になるということはほとんどありません。
「この人とは一生分かり合えないんじゃないだろうか」とさえ思ったりもします。
そう思うと少し悲しくなることもあるけど、よく考えるとそれは当たり前のことなんですね。
全く違う文化や慣習の中で生きてきているから。
全く違う経験をしてきているから。
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ある日、ほぼ毎朝のように通うようになった近くのパン屋さんで注文を終え、テラスの席に座ろうとしたときいつもは向かいに座る彼が横並びの席に腰掛けました。
前日に私が「横並びで同じ景色を見ながら話をするのが好き」と言ったのを覚えていたのだと思います。
運ばれてきたパンとサラダを食べながら、彼が「コーヒーは体質に合わないけれど、コーヒーを飲みたくなることがある。それはきっと何かにつながる感覚(belonging)を得たいのだと思う」ということを言いました。
そして斜め向かいにある、数日前に一緒に訪れたカフェを見て「コーヒーチャップリン(カフェの名前)に来る人もきっとそうなんじゃないかな」と続けました。
そこから、私たちはbelonging(所属)の感覚についてあれやこれやと話をしました。
そのときも案の定、彼と私のビューは違いの方が大きかったけれど、それでも、いつも感じる「話が並行線に終わる」のとは違うあたたかな感覚がそこにはありました。
「同じ景色を見て話をするのっていいね」
そんなことを話しながら、滞在先までの急な階段を登りました。
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私たちはいつも、違う景色を見ています。
違う景色を見ているところから、一つの結論に至ろうとします。
しかし、身を置いてきた文化や慣習、体験したことが違うと、思考のプロセスも全く違います。
たとえ同じ日本という国や同じ組織に身を置いていても、人によって思考のプロセスや価値観はそれぞれ違っています。
だから、違うところからスタートして、同じゴールに至るのは実はとても難しい。
「同じゴールに至った」と思っていても実はすれ違っていたということも多々あります。
そんなときは、同じ景色を見ることから始めてみるといいかもしれません。
いつもとは少し立つ位置や座る場所を変えて「私たちは今あれを見ているね」というところからスタートしてみる。
そうすることで、決して至ったゴールが違う場所だったとしてもお互いの感性や感覚、価値観の違いをより知ることができます。
思考や発想の違いを知ることができます。
何よりも、同じ景色を見る時間をともにすることができます。
「同じ景色を見て対話をした」という体験は私たちに生きている実感をもたらします。
「対話をすることができる関係なのだ」という認識をもたらします。
同じ感覚を感じることはできないかもしれません。
同じ意見にならないかもしれません。
それでも、「同じ景色を見る」ということから対話を始めてみると、これまでとは違った体験ができるかもしれません。
*これまで「DEEP INTEGRATION Magazine」としてお送りしてきたメールマガジンは「awai 風のたより」に名前を変更しました。今後は旅と暮らしの中から学んでいる「あわい(あいだ)」の世界について、そのときそのとき一番新鮮なものをお手紙のようにお届けできればと思っています。
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