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3つの掌篇+補遺

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創世記、ディストピア、アインシュタイン、都市幻想・・・・初期作品『3つの掌篇』に同系譜の短篇を補遺として再編纂した3+3篇の作品となります。宜しければ是非ご覧ください。
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#短編小説

3つの掌篇 Ⅰ.二人の善王

Ⅰ.二人の善王  もう3000年かそれ以上昔の話です、現在中東と呼ばれる地方の一つの三角洲に集落と村が集まった王国があり、カイン王とアベル王が2代に渡って治めておりました。  二人の王は兄弟だったとも親子だったとも血縁が無かったとも言われますが、ここは伝承の通り兄弟と言う事にしておきましょう。  兄王カインはそれまでの狩猟と戦というこの地方の生業を改め、エトルリアという高原から小麦と言う穀物を取り入れ、更に進んだウル、カイロという土地から暦法と灌漑術を導入し、三角洲

3つの掌篇 Ⅱ.運が無かった男

Ⅱ.運が無かった男  男は、この世界には始まりも終わりも無く、ただ広々とした空間が広がってるだけだと思っていました。  男の最初の不運は、優れた知識と論理的思考力を持ち、更に若くして科学の世界で名誉も名声も得ていた事です。  「始めと終わりがない」という持論に辿り付いたのも、彼の並外れた合理性を考えればしょうがない事だったのでしょう。「始め」があれば「始めより前」の世界の事が議論になります、「終わり」があれば「終わりより前」の事が議論になります。物事を合理的に美しく表

3つの掌篇 Ⅲ.Friday Night Fantasy

Ⅲ.Friday Night Fantasy  刑事さん、まずは慌てずゆっくりしたらどうですかね?  週末に僕みたいな厄介な人間を取り調べるなんて事は早く済ませたい仕事だとは思いますが、慌てずとも今の世の中、時間が解決してくれる些細な問題です。どうせですから取り調べの時間は世間話でもして潰すという事を、僕としては提案したいですね。  ああそれ、僕の財布ですね。  今のご時世、現金なんて珍しいものを久々に見ましたか?そりゃそうですよね、今の時代コンビニも地下鉄もバス

3つの掌篇 補遺Ⅰ.幻想詩.城塞都市

補遺Ⅰ.幻想詩.城塞都市 見慣れた駅前通り、見慣れたビル街 夢の中ではこれが何時も迷路に変わる。 薔薇色の夕暮れ時、 地下通路を歩いて出口を目指すと、そこは三方が囲まれた袋小路。 服屋や飲食店が入り口をこちらに向け、壁の様に僕を囲む。 薔薇色の夕暮れ時、 ふと友人の住むアパートへ立ち寄ってみる。 そこは中庭と井戸を囲んだローマ式の集合住宅に変貌していた。 薔薇色の夕暮れ時、 ビルと高い塀が続く路地をひたすら歩き続けるが、何処にも辿り付く事は出来ない。

3つの掌篇 補遺Ⅱ.災禍の日

補遺Ⅱ.災禍の日  目が覚めて8月18日がまた始まる。  それは終わらない一日、私が152日ほど繰り返してる変わらない目覚めだった。  その日は夜半の雨があったものの、夜明けには既にその雨が上がり、湿気を含んだ土は単なる晴天よりも蒸し暑さを含んだ肌にまとわりつく熱気になっていた。  お盆も終わり親戚や甥っ子たちが本家である我が家を去り家路についた後、また無駄に広い母屋に独りとなった静けさと少しばかりの親族達の名残を感じていた。  既に100回を超えた頃から、最初の

3つの掌篇 補遺Ⅲ.孤独都市の舞姫

補遺Ⅲ.孤独都市の舞姫  広場の噴水の正面、少し曇った昼下がりに、少女が一人踊っていました。  流れている音楽は多分、前世紀の古いジャズのインストゥルメンタル。観客は私を含めて、昼休みも終わりのサラリーマンやOL、午後の講義が休みの学生、休日の男女連れが数える程度の数組、と言った所でしょうか。  私は舞踊に関しては門外漢でありましたが、無表情で巧みに操られているマリオネットの様な機械的な動きを繰り返してるかと思えば、思い出したように周囲の人間に対し、少女とは思えない、こ