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「この世界の片隅に」

監督:片渕須直
原作者:こうの史代
製作国:日本
製作年・上映時間:2016年 126min
キャスト(声優):のん、細谷佳正

 原作も知らずに殆ど予備知識もなく臨んだが、広島と呉が舞台になり時代は第二次世界大戦となれば描かれる世界は想像がつく。只、その「何を」を描くのかが気になった。
 多くのreviewと異なるのは身内に被爆者がいるという事実。
 涙無しに観られる筈はないとアイメークも控えた。でも、でも、…。

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 reviewにあげなかった映画が数本ある。その中に例えば聲の形はあまりに話が粗末、現実離れしていて期待外れだった。好きな監督新海誠氏の今回作品は始動時からメジャーデビュー目論見があった為組織的に作品に手が入り彼本来の作品らしさからは遠く、初めて新海誠作品を観た人には新鮮であってもこれまで彼の作品を観てきた人の中には残念感を拭えなかった人もいた筈。
 この作品で初めてこうの史代作品に触れた私は、正に上記の新鮮組に属す可能性があり、ズレた感想となった場合は申し訳ない。

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 昭和と平成の時代差のように、多くを描き込まず、敢えて引き算で画面を作ることにより結果的には平成では中々見られない長閑でゆっくりとした時間が流れていく。物資は日毎逼迫していってもまだ日々の平和は脅かされていない。戦争当時、多くの家で営まれたその家族風景は決して特別な一家のものではなかった。
 序奏の様にこの生活が描かれていく。序奏にしては「長過ぎる」程描かれていく中で、この序奏こそが「主旋律」だと解っていく。

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 「この世界の片隅に」とあるが、世界はこの「片隅」が全て。「片隅」が集まって、寄り添って世界を成している。「片隅」を丁寧に描くことであの時代を伝えている。
 「戦争」の対極にある「人々の営み」。普通だと、当たり前だと考えていた世界がある日、ある時、『想像を超えた物』で破壊されるのが戦争。戦争の中に居ても自分を含めた家族には無縁のところで戦いが繰り広げられていた筈が…。現実に絡み取られていく。
 被爆後のことに多くの絵を充てなくても、原爆投下辺りのシーンからは涙が溢れて止められなかった。声高に戦争反対を叫ばなくても十分に思いが伝わってくる映画。

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 何度か描かれるたんぽぽ。青空は単なる背景ではないだろう、黄色の花のまま爆撃を受けるたんぽぽ、或いは綿毛となって飛んでいくmetaphor。綿毛が落ちた場所で生き始めるたんぽぽ、自由のようでいても自分では生きる場所を択んではいない。決して花壇の華やかな中央を舞台としない。片隅で健気に生きる姿も含めて人と似ている。
 あの戦争を知らないままで通り過ぎず、戦争の不条理を観て欲しい。
★★★★


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