「女王陛下のお気に入り」
原題:The Favourite
監督:ヨルゴス・ランティモス
製作国:アイルランド・イギリス・アメリカ
製作年・上映時間:2018年 120min
キャスト:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン
監督作品『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』の印象がとても強く残っていての鑑賞だった。『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』ほどはカメラワークの自在さは見ないかわりにコールマンの演技が最初から最後まで圧倒的に魅せつけてくる。
イギリス出身画家ターナーが描く景色は当然ながら今のロンドンからは想像も出来ない。それは北斎の版画を見て東京と結びつかないことと同じ。
その古い時代、下水設備無く油断すると糞尿混じる道に野心を持って王室へ入ろうとするアビゲイルが意図的に突き落とされるところから始まる。
太陽光とキャンドルで撮影された作品は煌びやかな城であっても、昼夜では趣を異にし絵画等も輝きを放っていない様子をよく伝えている。天井高の城であってこの照度での生活だった。
セットは作品の舞台よりも古くなるがエリザベス1世がご幼少の頃住まわれた宮殿を使う。壁の色はそのままにカーテンその他小物で変化が付けられた。監督がその場所で撮りたいという意思に叶った場所だった。当然、俳優の方々もタイムスリップして役を演じるには十分に環境が整えられた。
史実忠実度はこの辺り止まりか。
監督ご自身が「映画の中のいくつかは正確で、多くは正しくない」と語られているように史実とは違う部分もある。
PG12があるよう性描写は真意が確かめられない女王陛下の同性愛。歴史家Anne Somerset(Anne Queen:The Politics of Passion)の著者によると、アン女王は信心深く「英国国教会への堅信」をしている。また、夫であるデンマークのジョージ王子にも献身的だった時期はこの映画の設定時期と重なっていて同性愛は怪しい。
それでも、その他描かれている当時の殿上人のような貴族の傲慢さ加減が揶揄された演出は映画として作品の中では成立していて楽しめる。
アン女王幼馴染兼女官長のレイチェル・ワイズ演じるレディ・サラと召使として宮殿に上がるサラの従妹で上流階級から没落したアビゲイルに振り回されるアン女王の心情は猫の目のように可哀想などほど変わる。
揺るがない女王という立場であるにも拘わらず、病に悩まされ、心配事も絶えない。病は血栓が出来易くなる難病「抗リン脂質抗体症候群」ではなかったかと云われている。妊娠した場合に胎児へ栄養が供給されず、やはり不幸な結果になることが多い。
アン女王も17人も子を授かりながら死産、流産、仮令生まれても一人も成人に達していない不幸。
気心知れた幼馴染が女官長であってもアン女王のこころが本当に満たされしあわせな時が少なかったのではなかったのかという孤独をオリヴィア・コールマンが見事に演じる。
この作品では政治的手腕はなく、自由、気儘、我儘、弱い等あまり評価面からの描写が殆どだが、現在の王族に関わる「王位継承法」(1707年)を制定しカトリックからイングランドを守る手立てをされている。ご自身が17人も子を授かりながら実子を得られなかった背景もあったに違いない。
中世、うさぎは食料或いは畑を荒らす害獣扱いだったため、亡くした子の数のように可愛がるうさぎのシーンはメタファなのだろう。
★★★
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