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イヤミスならぬ「イヤ歴」

 小説業界には「イヤミス」というジャンルがある。これは「イヤな後味のある」ミステリー小説を意味する呼び名だが、これの歴史小説版「イヤ歴」というジャンルもあるのではないかと思う。すなわち、イヤな後味のある歴史小説だ。
 私が思うに、現在の歴史小説界における「イヤ歴」作家の代表者は塚本靑史氏だ。塚本氏はアンチが少なくないが、それは塚本氏の作品の多くが「イヤ歴」だからだろう。塚本作品は宮城谷昌光氏の小説と比較された上で不当に過小評価されているような気がするが、まあ、確かに色々とボロがあったりする(例えば、漫画『キングダム』で最後の斉王「田建」が「王建王」と呼ばれているのと似たようなミスが見られたりするのね)。しかし、塚本作品に対する批判の多くは、そういう細かいミスに対する非難よりもむしろ、作風の臭みに対する非難だろう。

 宮城谷作品は歴史小説に対して「癒し」を求める人を引きつけるのだろう。さらに、歴史小説というジャンル自体が、単なるエンターテイメントではなく「人生の教科書」などと的外れな扱いで読まれてしまうという現象もある。しかし、歴史小説はあくまでも小説であり、漫画や映画などと同じく娯楽の一つに過ぎない。かつてミック・ジャガーは「ポップスで革命が起こるほど世間は甘くない」と言ったらしいが、同じように、歴史小説で人格が向上するほど人間は甘くない。歴史小説なんて、ホラー映画やエロ漫画と同じく娯楽の一種に過ぎないよ?

 私が塚本作品をひいきするのは、単に宮城谷作品が体現する「優等生」イメージに対して反発があるからに過ぎない。キリスト教の聖女たちの頂点である聖母マリアよりも、善悪両面合わせ持つ人間臭い多神教の女神様たちに魅力を感じるのと似たようなものだ。私にとっては宮城谷作品のお説教臭さは実にうっとうしいので、その反動として塚本作品の露悪趣味に惹かれてしまうのだ。

【The Rolling Stones - Sympathy For The Devil (Lyric Video)】
 歴史ソングの中でも特に「イヤ歴」度が高い楽曲。大魔王ルシファーさんは多分単なる傍観者に過ぎないでしょう。


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