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「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」悲しい物語

 暗い水の中から突然、足首パタパタ海パン男が現れたら凄く怖い。この世界の人たちって宇宙人とか神様とか超能力者みたいなのが身近にいるから慣れてるのかな。



 最初から最後までずっと悲しい物語だった。
 前作までブラックパンサーことティ・チャラを演じていたチャドウィック・ボーズマンは2020年に亡くなった。世界中が悲しみに暮れる中ブラックパンサーの続編制作のニュースに不安を抱いた。チャドウィックのいないブラックパンサーがブラックパンサーになるのかと。
 コミックを知っている者であれば、妹のシュリがブラックパンサーを受け継ぐことは明らかであり、実際にトレーラーの時点でそれは示唆されていた。だが上述の不安は未だ解消されず映画を観るしかないと思っていた。
結論から言うと、シュリ演じるレティーシャ・ライトがとても素晴らしくそれら不安は吹っ飛ばした


シュリについて

 これまでシュリにスポットが当たることは無かった。前作ではティ・チャラの妹、開発者としていわば脇役であった。その中で天真爛漫な元気な姿が映画に軽快さを生んでいた。またIWやEGでも登場したがセリフはごく僅かであった。
 そして王や国の守護者としての任、チャドウィックの死去からの期待。彼女がブラックパンサーを継ぐ片鱗は今まで触れられずにきた為、今作ではそれらプレッシャーが映画全体の重さにも繋がっている。
 また、映画冒頭でシュリが兄を助けようとしていたことが明らかになる。シュリはMCUないしはマーベル世界の中でもトップクラスの科学者である。IWではハルクことブルースを驚嘆させた。そんな彼女の得意な科学で兄を救えなかったこと、そして伝統嫌いも相まって彼女はラボに引き篭もる。新たな武器などを作る様は「アイアンマン3」以降のトニー・スタークを思い出した。彼もまたその技術で様々な危機に対して準備していたが、それは彼のトラウマから生じた物であった。
 個人的には前作でのシュリの元気な姿がとても好きだった。中盤、リリを迎えに大学寮を訪れる際にオコエを笑うがそのシーンは隠されていた。シュリが笑顔を見せるのは、タロカンの人と触れ合うシーン、最後のリリ、そして甥っ子との会話シーンのみである(他にあったらごめんなさい)。喪に服す故であろうか。往々にして重苦しさもあるが、気品さも兼ね、スーツが似合うカッコいい王になった。

凛として美しくカッコいい


ネイモアについて

 本作のメインヴィランは海底にあるタロカンの神、ネイモア(国ではククルカンと呼ばれる)だ。ネイモアはコミックでも昔から登場している。近年だと「ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス」にも登場したイルミナティのメンバーとしても有名だ。ヒーローでもあり、ヴィランでもあるとても複雑なキャラクターというのが僕のイメージだった。

 映画では決してヒーローでもないがヴィランと一括りにできるキャラクターでもない。ワカンダを襲い無関係の国民に被害を及ぼしているが、そう言えるのはその背景に他国、ここでは主にアメリカがいるからであろう。冒頭でラモンダが国連でヴィヴラニウムのシェアという名の略奪行為に対して猛反発を発していた。アメリカ側は兵器にもなるヴィヴラニウムを自国の軍事力に使いたいということであろう。ここで略奪される側としてワカンダだけでなく、ヴィヴラニウムは海底、つまりタロカンにもあることが分かり、二国での戦争の裏側にアメリカがいるという、とても人ごとではない相を呈している。その為、ネイモアがただただ悪いやつ、には見えてこない。これは前作のキルモンガーの背景にも言えることであり、とても魅力的なヴィランを創造したとも言える。

足首パタパタしてる海パン男。
空中を飛び跳ねるのカッコよかったけど、
そうはならんやろ感がすごい。


二人の復讐劇について

 冒頭のファンファーレ、最後のチャドウィック追悼シーンもあるが、最後の海上でのワカンダvsタロカンの衝突は別の意味で悲しかった。本来であれば大勢がぶつかり合うシーンはアベンジャーズで見た通りエキサイティングなはずだが、ここではその背景に復讐の連鎖が生み出した戦いだ。
 父と息子を失くし、娘も攫われラモンダはタロカンにナキアを送り出し「何をやってもいい」と後先考えない指示を出す。オコエを更迭し、冷静でないことは明らかだが彼女も限界であったのだろう。ここでタロカン側に犠牲が出てしまい、その後ネイモアらがワカンダを急襲。さらに国の人々やラモンダが犠牲となりシュリはそれに憤る。
 そしてネイモアとタロカンの出自が500年前のスペインによる侵略から海底に逃げ延びた結果であることが語られる。この植民地支配、奴隷主義といった迫害からの復讐は前作からのブラックパンサーのテーマの一つである。ネイモアは地上世界への復讐の為に長年戦争の準備をしており、再び侵略を受ける可能性が浮上した為ワカンダと手を組もうとする。

 共通した歴史、立場の二国の着地点のない衝突はとても虚無感があった。その末ネイモアとシュリはお互いに大怪我を負いながら殺し合う。最後シュリはネイモアにトドメを刺そうとするが、ラモンダが現れあなたが何者か示しなさいと問いかける。この時シュリが思い浮かべるのはキルモンガーの言葉だ。シュリは合成ハート型ハーブの生成に成功し、ブラックパンサーの儀式を受け先祖に会いに行く。しかしそこに居たのは母でも兄でもなく、従兄弟のキルモンガーであった。同じく復讐に囚われた彼がシュリに何をしたいか問いかける。彼はとても本質的なことを述べるが、僕はここで「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」で父であるティ・チャカを殺害した真犯人であるバロン・ジモを殺さなかったティ・チャラを思い出した。復讐の連鎖を止めたその理由として彼がトニーとキャップの同じく悲しい衝突を見ていたからである。そんなティ・チャラの行為をキルモンガーが例に挙げ、シュリの心に刻む。キルモンガー、そして後述するがエムバクというかつてティ・チャラと対立していた二人の言葉はこの映画において正しくもあり的確だ。
 兄の行いを省み、シュリはネイモアに降伏を要請し戦いは終結する。そして彼女はハイチのナキアの元を訪れ、儀式を行い喪が明ける。美しい太陽と海を背景に映画が終わる。とても素敵なシーンで、MCU屈指の美しいシーンだろう。前作のキルモンガーと一緒に観るワカンダの陽を思い出した。

景色の美しい場所に住みたい


その他諸々思ったこと

 細かい不満点もある。
 一つは新しいヒーローであるアイアンハートことリリ・ウィリアムズ。彼女はシュリの同じ世代の友人、技術者として一緒に闘うことになる仲間だ。とても頼もしくコミックではトニー・スタークを継いで二代目アイアンマンことアイアンハートになる。アイアンマンと違って新世代っぽいデザインかつどこか可愛さも兼ね備えている。メカメカしくてカッコいい。アイアンハートについては一点だけ不満がある。それは装着シーンが描かれないことだ。ディズニー+で単独作がある故、そちらでじっくり描かれるのだろう。あくまでデビュー作に過ぎないか。ただ今作ではやや蛇足感が大きいようにも感じた。フェーズ4全般に言えることなのであくまでも単独作品としての評価としてはまた別なのかもしれない。
 次にミッドナイトエンジェルが気になる。個人的にはダサかった。気になる点はアイアンハートとスーツが被ってること。空の飛び方や中の顔の見せ方まで。悪く言うと、アイアンハートがアイアンマンのパクリ、使い回しと言える部分も正直ある。そんな低レベルでないことはもちろんであろうが、ミッドナイトエンジェルの登場で同じようなヒーローが増えてしまって薄れてしまったように感じた。オコエもアネカも素のアクションがカッコよかっただけあって残念だった。
 上記の2点はこの映画全体の面白さとはまた別軸にあるので、下がるものではないがチャドウィック・ボーズマンの死去、そしてシュリが受け継ぐ物語というかなり重い要素の中で蛇足感は否めない。

 タロカン軍が使う水グレネードがすごくよかった。炎が上がる画ではなくブシャーと飛沫をあげる新しさ。全く関係ないけど、水攻めは311の津波を思い出した。当時は水攻めシーンはタブーになり映画館では注意書きがされていた。

 エムバクがカッコよかった。彼はEGのサノス軍との最終決戦でキャップの隣を走っていたほどアベンジャーズのメインキャラと言ってもいい存在だ。何よりハルク並のパワーを持つネイモアに思いっきり殴られたにも関わらずピンピンしてるタフさを持っている。前述した通り劇中のエムバクの言葉は常に的確だった。正論しか言っていない。ネイモアを殺せば永遠に戦争になること。その復讐の連鎖を止めなければならないこと、そしてシュリの決断に付いていくこと。それらはティ・チャラに頼まれてシュリを支える存在になるのも彼の優しさの表れだ。ニンジンをポリポリ食べる姿もかわいい。

タロカンにおけるククルカンの存在を軽視していないのは、
自身も猿神ハヌマンを信仰しているから。


まとめ

 チャドウィック・ボーズマンに対する追悼、そして残された我々がどう向き合うか、が本作のテーマだ。それらを丁寧に美しく描き、レティーシャ・ライトが演じきった傑作だ。正直1回観ただけでは拾いきれずにすぐ2回目を観に映画館の席を予約した。
 ワカンダが世界から孤立してしまいタロカンと共に対立した立場として登場するのではないかという不安も感じつつ、シュリやワカンダの人々の今後が楽しみだ。

ワカンダフォーエバー!!


おわり。

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