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連載・『同窓会』

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記事一覧

同窓会⑤(最終話)

 次の日、黛真奈は自宅マンションで刑事と対峙していた。刑事が吉沢を彷彿とさせる美形で、昨日のことを思い出し辛くなる。あれは紛れもない悲劇だった。
「塩素ガスを発生させたのは、宮本早苗さんで間違いありません。店の洗剤を二種類、混ぜたそうです。あの『混ぜるな危険』ってやつです。店を出る前に、急いで混ぜて会場に置いていったと」
刑事は告げた。あの時の様子から予想していたことだが、改めて言われると衝撃が胸

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同窓会④

 次の日から、早苗へのいじめがエスカレートした。犯人は早苗だという噂が広まったからだ。噂の出所は不明だ。
 彼女が教室に入ると「ゴミは出ていけ!」。トイレに行くと何人かの女子が待ち構えていて、「一生トイレにこもってろ!」と閉じ込められたり、便器に顔を入れられた。持ち物には悪口が書かれ、靴は消滅。体育から帰ってくると、制服はもう手の施しようがないくらいに切り裂かれていた。
 事態を重く見た矢坂が、校

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同窓会③

 舞台は中一の冬、十二月初旬の文化祭が終わってしばらくたった日のことだ。
「あの日、戸田夕華ちゃんが帰りの会の直後に、大声で叫んだのよね」
 その日は雪が降っていて、何センチか積もってもいた。気温は氷点下、帰り際になっても雪は解けていなかった。矢坂先生は配るはずのプリントを職員室に取りに行っているから、帰れない。鞄に荷物を詰めたり、窓の外を眺め帰れるか心配したり、部活の準備をしたり、各々好きなよう

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同窓会②

 スクリーンに「あなたにとっての思い出の一枚はありましたか?」とクラスの集合写真をバックに文字が表示された。スライドショーが終わったのだ。みんなからは拍手が起こる。
「すごいよ、黛! これ全部作ったの?」
 吉沢が聞いてきた。ええ、と控えめに答える。
「さっすが、黛真奈だな。みんなの期待にしっかり応えた」
 真奈は曖昧に頷いた。吉沢の言葉で昔言われていたことを思い出し、辛くなる。さすが真奈ちゃん。

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同窓会①

 黛真奈は同窓会の受付に立っていた。参加者名簿にチェックを付け、会費を徴収する。割と集まりがよく、あとは元担任が来れば全員だ。集まりがいいのは、クラス規模の会で参加者も二十人ちょっとだからというのもあるが。外は夏の夕方らしく雨が降っている。道も混んでいるはずだよねえ、と真奈はため息をついた。今日は中学の同窓会で、卒業してからもう八年が経とうとしていた。がららっとドアが開く音がして、担任だった矢坂慶

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