オートバイブックス

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オートバイ専門書店・個人出版の《オートバイブックス》代表であり執筆家の運営するページです。 バイク雑誌掲載実績多数。現著書にRider's Storyシリーズ(4冊)があります。ここではその既刊著書より一話ずつ掲載して参ります。

最近の記事

Rider's Story 朝、走る

バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス 収録作品  早朝に目が覚めた。    普段なら再び眠りに落ちるところなのだが、今日は目が冴えてしまっていて、眠れそうにない。出勤まで二時間、妻が起きだすまであと一時間ある。  私は布団から起き上がり、着替え始めた。皮パンツの中にはタイツをはき、セーターの上から革ジャンを羽織った。厚手の革グローブにはインナーグローブもするつもりだ。  十二月の早朝はさすがにもう冷え込みが

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    • 「あのカフェに出会って」ショップブランディング、プレゼン向けに書き下ろした物語

      とあるショップブランディングの受注獲得に向けたプレゼンテーション資料の一部として書き下ろした物語。依頼元の許可を得て公開いたします。 作 武田宗徳 「何やってんだ!」  携帯電話を片手に、思わず大きな声を出してしまった。  地方都市の街中にいた。歩道を行き交う周囲の視線を感じて、私は隠れるように路地裏へ入っていった。  約束の時間から、二時間も遅れるというのだ。  東京本社勤務の私は、関西から来る若手の係長と、ここで合流する予定だった。明日のプレゼンに備えて前入りし、二

      • Rider's Story 形見の革ジャン

        バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス 収録作  東京の私立大学を卒業した息子が、Uターン就職で我が家に帰ってくる。高校卒業まで使っていた息子の部屋は、息子には悪いが、この四年間で物置と化していた。私は休日を利用して、息子が部屋を使えるように片づけをしていた。  息子の部屋は、使わないもの、要らないもので溢れている。私は、この機会に徹底的に片づけようと、捨てるものはどんどん部屋の外の廊下へ出した。押入れも整理し

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        • Rider's Story 娘から父への手紙

          バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス  妻がどうしても見たい映画があるというので、車で町へ出た。  家を出るのが遅かったというのもあって、見終わって映画館から出たときには、日がすでに斜めになっていた。  気づかれないように、私は何度も腕時計に目をやっていた。たぶん、気づいていただろう。久しぶりの「夫婦水入らずのお出かけ」だったのに、申し訳ないとは思う。  だが、私は日が落ちる前に家に帰りたかった。休日は必ずオ

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        Rider's Story 朝、走る

          あの風を

          バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ 武田宗徳 オートバイブックス 収録作品  寒い日だった。その日の朝、俺は携帯が鳴って起こされた。 「今日、暇か? 行きたい所があるんだ」  中村からだった。俺は簡単にシャワーを浴び、朝食も取らずに家を出た。  家から歩いていける距離の待ち合わせ場所に、中村は、最近買ったばかりの四駆で待っていた。 「何だよ、こんな朝早くに」 「誰かと話しながら遠出したくてな。車も見せたかったし」 「どこ行くんだよ」 「

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          Rider's Story あなたが遠い

          バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス収録作品  高校卒業したら一緒にツーリングに行くという約束、あなたはまだ覚えていますか。落ち着いたら連絡する、と言って東京へ行ってしまってから、もう五年。一度も連絡はありませんでした。でも僕は一、二年前からあなたを知ることになりました。バイク雑誌や女性誌などで「大型バイクに乗るモデル」として登場し始めましたね。僕は今のあなたの様子を知ることができてうれしく思う反面、高校時代

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          Rider's Story シングル

          RIDE 53 モーターマガジン社(2011年10月15日発行)掲載作品 バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス 収録 ただでさえ薄暗い店内の照明が、煙草でかすんでいる。俺は、カウンターの端で注文したジャックダニエルのオンザロックを待っていた。終電の時間も過ぎ、店内に落ち着きが戻ってきたころだった。店の扉が開いた。 「よお」  扉を開けた男に声をかけられ、俺は軽く手を上げた。男は隣に座った。俺は、話しかけた。

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          Rider's Story シングル

          最新テクノロジーは人間であることの意味を問う

           もし、自分のおばあちゃんが死んだその後も、SNS上のアバターとして変わらず会話が続けられるサービスがあったら、僕たちは利用するだろうか。  自分の子供を遺伝子操作で知能指数を高め、とても優秀に育ったら、それでも親として変わらない愛情を注ぎ続けられるだろうか。  遺伝子操作で優秀な野球選手に育て、大谷翔平選手よりも優れたプレイヤーになったとしたら、僕たちは彼を大谷選手以上に称賛できるだろうか。  僕たちが愛情を注げるのは、生身の人間であり、あるがまま自然に誕生し、成長し

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          Rider's Story ワイルドで行こう

          バイク短編小説 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス 収録作品  大学時代の友人から、一通の手紙が届いた。子供が生まれた、ということだった。実家のある千葉から離れて、長野で暮らしているそうだ。 (いいところだから是非一度遊びに来てくれ。子供の顔も見せたい。楽しみに待っている。和也)  和也とは大学時代、共にツーリングをしたバイク仲間だった。相模湖は二人でよく行ったし、箱根や伊豆にも行った。夏休みになると、和也は一人で九州や

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          Rider's Story ハーレーとチョコレートパフェ

          バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス 収録作品   毎年、この日は気持ちよく晴れる。俺は外に出て空を仰いだ。 (今日は、当分タバコを吸えない……)  オートバイに跨る前に最後のタバコを存分に吸った。    すがすがしい秋晴れのもと、俺はハーレーのスポーツスターに跨って東京から静岡に向かって走り出した。スポーツスターには、もう一つヘルメットがくくりつけられていた。  足柄SAで休憩して、自分のペースで東名高速

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          非常識が常識へ、続けることが生み出す力

           時々、新聞のスポーツ欄に掲載される、キングカズこと三浦知良さんのコラムを楽しみにしている。  皆が見るのを楽しみにしているカズダンス。今から30年ほど前は決してそうではなかったと言う。 「負けた側の心情を考えず喜びをあらわにするなどけしからん、ガッツポーズも控えるべきだという空気があったからね(新聞より)」  思い返すと、当時カズダンスはチャラチャラした印象があったかもしれない。だけど今となっては誰もが見たいダンスになった。 「批判が歓迎へ、非常識が常識に、評価が変

          非常識が常識へ、続けることが生み出す力

          Rider's Story 通勤の日々

          バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス 収録作品  高校を卒業し、ある会社に就職して、三ヶ月が過ぎた。  会社にも慣れてきた、と同時にバイクの扱いにも慣れてきた。通勤で毎日乗っているからだ。入社したての頃から比べると、渋滞の中のすり抜けにも今は自信がついた。その頃はまだ肌寒く、上着が欠かせなかったが、今はもう夏。暑くて、本当はTシャツ一枚で乗りたいところだが、僕はバイク乗りだから薄くても長袖を着るようにしている

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          他の人と折り合いをつけながら生きていく

          「他の人と折り合いをつけながら生きていく」 知らない人が話しかけてきたら、ほとんどの人が不審に思い、警戒します。敵意すら抱くこともあリます。 他人は信じない。 他人というだけで疑う。 こういう考えが当たり前のようになっている気がします。 信用はできないけど、最初から敵意や疑いを抱く必要もないはずです。 できたらその中間くらいの関係、この記事にある"緩い信頼"の関係でいれたらいい。 皆がそうなったら、どんなに住みやすい社会になるだろう。 信用しないけど、疑いや敵意も

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          Rider's Story 手紙

          バイク短編小説 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス掲載作品  真治のボロアパートの郵便受けに、一通の手紙が入っていた。写真撮影のアシスタントの仕事で疲れて帰ってきた真治は、郵便受けから手紙を取り出した。手紙は珍しかった。滅多に来ることがなかった。アパートの階段を登りながら、封筒を裏返し、差出人の名前を見た。階段の途中で足を止めた。 「多佳子…」  大学を卒業してから、初めての手紙だった。

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          Rider's Story 変わり始めるとき

          バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス 収録作品  今でも後悔していることがある。  二年間片思いだった女の子に告白できないまま高校を卒業してしまったことだ。今は、大好きになった彼女がいる。それでも、高校時代のその後悔は消え去ることはない。それなら高校時代に片思いだった彼女に、いま会ってあの頃の想いを告げれば、後悔は消え去るのだろうか。そうではない。あの時、あの高校時代に告白できなかったことが悔しいのだ。  

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          Rider's Story 明日には雪が

          バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ  武田宗徳 オートバイブックス 収録作品  交差点で横転した一台のバイクが、短い渋滞をつくっていた。  僕は車の列の後ろで考えた末、バイクだからできるすり抜けで交差点まで行き、バイクを降りて倒れたバイクを起こすのを手伝うことにした。ライダーは怪我をしているようには見えなかった。倒れたバイクはSRで、ヘルメットの後ろからのぞく髪の毛と華奢な身体つきから、乗り手は女性のようだった。 「手伝いますよ」 僕はそ

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