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突然ものが壊れる「脆性破壊」とは
こんにちはあぷるです。
去年の暮れにこんなニュースがあったのをご存知でしょうか?
(YAHOO NEWS 2020年12月)
ものが物理的に壊れる。どのようにして壊れる?
「これ、何時壊れるかな」「今運転している車のドライブシャフト折れたら、どうなるだろう」など日常では考えるわけない。
しかし、ものは時間経過に伴い、少しずつ変形してます。そして、壊れます。
このように起こる破壊のひとつに、脆性(ぜいせい)破壊という現象があります。脆性破壊はどのようなもので、どういった原因で起こるか。
モノが破壊するとは
設計や製造に関わる人であれば聞く機会も多いでしょう。
塑性変形を伴わない破壊「脆性破壊」
材料に何らかの力が加わり、形が変わる時にその変形の仕方は大きくふたつ、一つは加えていた力を取り去ると元の形に戻る弾性変形、もう一つは加えていた力を取り去っても形が元に戻らない塑性変形です。
通常、ものに力を加えていくと弾性変形をし、次に塑性(そせい)変形へと遷移します。そして、更に力を加えると破壊に至ります。
弾性変形 → 塑性変形 → 破壊
しかし、塑性変形をほとんど伴わず、弾性変形からそのまま破壊が起こることがあります。
例えば、お皿、茶碗(陶磁器)やチョークは、力を入れても曲がったりしません。そのまま力を入れ続けると、突然割れたり折れたりします。このように、目に見える変形を伴わずに突然破壊が起こる現象、それが「脆性破壊」です。なお、脆性破壊が起きやすい材料のことを脆性材料といいます。
脆性破壊の特徴
脆性破壊の起こる瞬間を捉えると面白い現象が起こってます。割れたり、折れたりする瞬間、目には何とか見える程度の「微小亀裂」が生じます。と同時に急激な亀裂が伝わり、破壊に至ります。数十ミリの厚さの材料で脆性破壊が起こった場合、人の目ではその流れを捉えることはほぼ不可能で、一瞬でバキッと破壊されたように感じます。
また、折れた(または割れた)断面を「破断面」といい、「リバーパターン」と呼ばれる模様が現れるのも、脆性破壊の特徴です。細かい亀裂がまるで川の流れのようになっており、そのように呼ばれるそうです。
逆に言えば、モノが破壊する前には、そのモノに「リバーパターン」が現出するということになります。破壊の前兆と推測することができます。
脆性破壊の原因と対策
どうすれば脆性破壊を防ぐことができるのか。脆性破壊が起こる材質がどのようなものかということが解決の鍵となる。
食事に使うスプーンを想像して下さい。ユリゲラーは、擦って曲げました(笑) でも私なら、力づくで曲げます。足を使ってでも曲げることができます。しかし、そのスプーンを折ることは困難です。曲げることはできますが。
こんな感じで、脆性破壊する材質に注目します。黒鉛や鋳鉄などがそれです。このように「脆い性質である」ということは脆性破壊が起こる大きな原因です。それ以外にも環境条件による破壊、たとえば低温、引張応力が高い、ごく稀に対象物のある一点に応力が集中する、なども破壊の要因となり得ます。
第二次世界大戦中、アメリカで製造されたリバティ船の沈没事故が多発しました。原因として、完成工期短縮のために主流であるリベット打ちに代わり溶接接合が採用されたそうです。結果、応力が集中したうえに低温にさらされた鋼板に「脆性破壊」が起こったという事案があります。
実は、この事案が脆性破壊に関する研究を進めたという事実があります。
さらに、部材の寸法により場合もあります。大きいほど疲労強度が低下する現象がそれです。「寸法効果」といい、脆性破壊が起こることもわかっています。寸法効果の合理的な理論は解明中です。ある説によると、材料が大きくなればなるほど破壊のきっかけとなる弱点部分が多くなる、という仮説があります。
脆性破壊の対策
破壊の原因は上述のとおりで、対策は以下の2点に整理しました。
・大きな応力が働く場所に脆性材料を使用しない。
・低温など環境条件による使用材料を考慮
鉄鋼の脆性破壊についてもう少し触れます。それは水素による影響がある。鉄鋼は一般的に延性を持ちます。比較的硬い、高張力鋼板であっても塑性変形します。なので、脆性破壊は基本的に起きません。
しかし、条件によって鉄鋼が脆くなることが知られ、そこに関係するのは「水素」です。鉄鋼は中に水素が取り込まれると脆くなり、「水素脆性 」という現象を稀に起こすことある。
「内部の水素原子が集合して分子となった結果、内圧が高くなり亀裂のきっかけになる」という説、「水素原子により鉄分子の結合が妨げられている」
という説があり、水素脆性がなぜ起こるかについては諸説あります。そのメカニズムは解明されていません。
ただ、水素が鉄鋼の中に吸収される瞬間があります。腐食、溶接、電気メッキなどが行われたときです。実は、これらの工程は鉄鋼を加工する場合、避けて通ることのできない重要な加工です。実質的に水素の吸収を防ぐことはできないことになります。そこで、一度吸収した水素を放出させるため行われるのが、ベーキングという処理です。水素が吸収されたと考えられる鉄鋼を、200℃ほどに加熱・保持します。この熱処理により、大部分の水素を放出させることが可能といわれています。
ただし、水素の放出量が足りずに水素脆性を引き起こしたり、別の理由で脆性破壊が起こったりする可能性があります。それは、上述に加工後にベーキング処理をしなかった場合です。ベーキングは正しい手順を守れば、問題ないですが破壊が起こる原因に加工時の処置が不適切であるとの指摘があります。
脆性破壊についての研究は続いている
脆性破壊とはどのようなものか、材料が破壊するとは、どのように起こるのかということはご理解いただけたと思います。
機械や構造物を設計するうえで根幹となる部品が、脆性破壊の発生しやすい材質では大変です。
鋼材は一般的に圧縮応力に対しては強く、引張応力に弱い傾向があります。このほか、低温環境、水素の取り込みや切り欠きの有無などによっても脆性破壊は発生しやすくなります。機械や構造物を設計する際には、こういった破壊が起こる仕組みも理解しておくと、より安全性の高い設計が可能になるのではないでしょうか。
このような破壊の仕組みを理解できれば、安心して運転できると思います。ここまで読んで頂きありがとうございました。