ミックスってどうやったらいいの②

※今回は前に書いた“音源のパン問題”が解決済みの前提で
 お話が進んでいきますので、予めご了承ください。

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ミックスと一口に言いましても、以下の3段階があります。

1段階目:トラックの個別処理(パラミックス)
2段階目:全体の処理(2MIX)
3段階目:マスタリング

これからそれぞれの段階について、
特にオーディオインターフェースや
モニタースピーカーなどを使わずに
(そこにお金かけなくてもDTMは成立します)
お気に入りのイヤホン・ヘッドホンのみを使って
打ち込みをしているという想定のもと
色々TIPS情報を書いてまいります。

ただ、その前に少しだけ初歩に触れさせてください。
パソコンの“最終的な出力先の音量”って、
端末ごとに若干違っているのはご存知でしょうか。
たとえば(これはWindowsのお話になりますけど)
自宅のPCで、デスクトップ右下のアイコンから
スピーカー音量を「40」に設定したとしましょう。
これを出先のサブPCでも同じように設定し、
双方で同じ音楽を聴き比べてみたらどうなるか?

……はい、「あれ、明らかに音量が違う!」
そんなケースが往々にして起こったりします。
これは搭載されているステミキの仕様ですとか
PC・ヘッドホン間のインピーダンスですとか
様々な要因が絡んでいると思いますが、
なんにせよDAWでの作業に入る前にこの部分は
必ず確認・調整しておいたほうがよいです。

どのくらいを目安に調整するのかといいますと
DAWとは関係のない、純粋な音楽再生ソフトで
リファレンス音源(プロの制作したWAV)を聴きながら
「これ以上はうるさいかな」と思うラインを目安に
“自分のなかの最大音量”まで上げておきましょう。
ちなみに私は前に使ってたPCが「64」や「45」、
今つかっているPCでは「20」が最適な音量です。

■1段階目:トラックの個別処理(パラミックス)

ではパラミックスの話をしていきます。
これは“全トラックが合わさったとき(2MIX)”を想定しつつ
個々のトラックに調整を加えていく最初のフェーズです。
(バウンス前の作業内容としてお読みください)。

さっそくぶっ飛んだことを言います。
まず、マスタートラック(DAW上の音の最終出力先)に
リミッターなりマスタリングなり、何でもいいんで
いったん音圧を上げるプラグインを差してください。
で、ピーク-0dB設定で音圧を上げちゃってください。
※現段階で設定にこだわる必要はありません。
 感覚的にラウドネスがそこそこ上がっていればOKです。

「!?」と思ったかた、気持ちはよくわかります。
でもこれには理由がありまして。
といいますのも、本記事で紹介してゆくのは
あくまで“ミックスだけしている人”のためではなく、
“編曲もミックスもやる人”のためのTIPSだからです。

順を追って説明しますと、
パラミックスって実は≒編曲のフェーズなのです。
(=パラミックスとアレンジは同時進行がベストの意)

もちろん、クライアントからパラ音源だけもらって
アレンジがもう動かせない状況下でミックスだけ請け負う、
みたいなケースも多々あると思いますけれども、
こちらの記事は“一人で全部完結する”を前提に
書いてまいりますので、予めご承知おきください。

話を戻しまして。
なぜ1段階目なのに音圧を上げてしまうのか?ですが
理由は大きく分けて二つあります。
一つは、“完成時に近い音圧”で編曲を進めていかないと
具体的なイメージが掴めないまま作業することになり
“逃げ”が発生する確率が増すからです。逃げというのは
「ここのパートちょっとアレだけどまあいっか」――これです。
自分のなかで発生する妥協点、怠惰とも換言できます。

例えば音圧が上がっていない状態で、平均-15dbくらいの
小さな音量で編曲を進めておりますと、とりわけ
サイドで鳴っている脇役のコードトーンとかの音程が
すごい変な流れになっちゃってたりしても、
案外気づけなかったりするのです。
※これは理論ありきでも発生する現象なので要注意。

そしてあとで音圧上げた時になって、ようやく
「ん……? なんか思ってたのと違う箇所がある」
「でも音圧上げる前はよく聴こえてたはずだし……」
「まあいっか。ここだけオートメーションで音量下げちゃえ」
みたいな感じで、雑な処理で誤魔化すことに繋がっていく。
これでは、良い編曲から遠ざかるばかりですね。

よって最初に十分なラウドネスを確保した環境をつくり
そのなかでパラミックス・編曲しようというわけです。

二つ目の理由ですが、
これは後々「マスタリングが良くなるから」です。
どういうことかと言いますと、
この段階で上げる音圧は“一時的”なものに過ぎないため、
2MIXまで終わったら、差していたプラグインはバイパスします。
その際、当然ピークのdbが大きく下がりますよね?

具体例を示すなら、それまで“一時的”に音圧を上げて
平均-3db~-0dbピークの状態で編曲していた楽曲が、
リミッター・マスタリングプラグインのバイパスによって
一気に平均-12db~-6dbくらいまで下がる。

マスタリング時に最適な結果が得られやすい“余白”は
個人的に-6db以下だと思っていることもあり、
ここはすごく重要なポイントです。要約しますと、
-6db以下でまとまりのある2MIXができていれば
おのずとマスタリングが良くなるから
最初に仮で音圧を上げときましょうね、というお話でした。

◇具体的なパラミックス手法

さて、手法の話に移ってまいりますが
またまたぶっ飛んだことを言います。

「各トラックのフェーダーは原則0のまま動かさないでください」

――説明しましょう。
巷では各種エフェクトを掛ける前にフェーダーを調整して
その後にプラグイン処理を開始せよ、なんて言われますが
実際のところ、フェーダーで操作する音量って
最終的にオートメーションで微調整する可能性が非常に高いんですね。
なので常にフラットな状態を保つように意識しておかないと
いざというタイミングで煩雑な手順になりがちなので、
必然的に音量調整は「音源内」、ならびに「プラグイン内」で
おこなうのを基本スタイルとしてやっていきましょう。

どのような方向性で調整を加えるかといいますと、
最初に音源内でゲインをいじります。
もともと大きい音で収録されている音源については
触れない or ちょい下げするだけで大丈夫ですが、
問題はすごい小さな音で収録されている音源。
こちらはinの信号が最低でも-12dbくらいになるまで
上げておいてください。なぜかといいますと、
そうしないとエフェクトを掛けた際、
単純に効果の確認がしづらいですし、またプラグインによっては
スレッショルドの設定などで難儀する可能性があるからです。
※ただし、音源のなかにはゲインが上がるほど
 音質が劣化する(ひどい場合は割れる)ものがあるので
 そういうやつは「プラグイン内」だけで調整するようにします。

音源側の音量を適切にしたら、次にコンプとEQを差します。
これらは順不同と言われることが多いですが、
個人的にはコンプ→EQスタートがわかりやすいと思います。
なぜなら、音圧が上がった状態のほうが
EQで削るべき帯域、ブーストすべき帯域がわかりやすいから。
ただし、どのみちコンプやEQは複数差すのが普通なので
そんなにこだわらなくても無問題です。
(EQ→コンプ→EQ→その他→もっかいEQとかもザラです)

で、コンプのかけかたなんですが
これは絶対に視覚的にやったほうがいいので、
リアルタイムで波形を視認できるやつを用意してください。
私がよく使うのはBoz Digital Labsの「Manic Compressor」、
iZotopeの「ozone」内にあるコンプ機能です。
あと、べらぼうに高いんですが
Plugin AllianceのADPTR AUDIO SCULPTもオススメ。
こちらは潰したところと引き上げたところが一目瞭然で、
UPコンプ、トランジェント機能もついてて超絶便利。
……でもまあ、波形がわかれば正直なんでもOKです。

コンプ使用に際して楽器に関係なく重要な指針となるのは
波形の谷底を少し引き上げ、山頂の尖っているところを潰して
全体的な凹凸を均してあげること。
どのくらい均すかといいますと、そこに関しては楽器次第です。

バスドラムやベースなど、相対的に音の信号が大きい系は
結構がっつりレシオ上げちゃってください。
それだとニュアンスが死ぬと思うかたもいらっしゃるかもですが
あとでEQ・サチュレーター・トランジェントあたりを使って
十分カバーできますので、ご心配には及びません。

中高音域の楽器は、
例えば裏で鳴っているコードトーンの場合
そこそこ強めにかけて大丈夫です
逆に、センター前方で鳴らすメロディ・対旋律のような楽器や
サイド前方で鳴らすギターなどのコードトーンについては
なるべく自然な響きを保つため、弱めにかけておきます。

ただし、すべての楽器は事前の打ち込み時点で
ベロシティが最適化されている必要があります。
明らかに一部の音程だけが大きい、小さいといった時は
まずベロシティで処理してからエフェクトをかけましょう。

次はEQ。正直、EQはどのプラグインを使っても
そこまで差がないと私は勝手に思っているので
お好きなものを使っていただいて構わないかと。
ご参考までに、よく使うのはStudio Oneの付属プラグイン
「Pro EQ」やBoz Digital Labsの「The Hoser」です。

イコライザーは最初、削る方向でのみ使用します。
あとで2MIXを作る際には適宜ブーストも併用するのですが
パラミックスの段階では基本「耳障りに感じる成分」だけを
丁寧に削っていく作業になります。

低音域であればボワボワした成分。
中音域であればモワモワした成分。
高音域であればキンキンした成分。

これらを、inの信号を見ながら
広めのQ幅で削ってみて、最適解を吟味していきます。
(逆に必要に応じてQ幅で狭めてスポット的に削る場合もあり)
結果、もし平均音量が小さくなってしまったときは
イコライザー内のゲインにて調整してください。

ちなみに楽曲の方向性にもよりますが、
100~200Hz以下の完全ローカットは
バスドラムやベースに使わないほうがいいです。

もし徹底的に耳触りの良さを追及して
各パートを完璧にクリアなサウンドにしたいなら
使うのが筋かもしれませんけど、
そういうエンジニア志向の音って
究極の“無難な音”といいますか
楽曲に宿った熱(剥き出しの感情)に対して理性的に
抑圧をかけてコントロールするのと同義なんですよね。
すると、荒削りのなかにもなにか人に訴えかけるような、
そういう一番美味しいエッセンスの部分が
台無しになっちゃうケースがある。

特に低音域はたとえ耳に聴こえない周波数であっても
倍音が有機的に上の周波数と結びついていたりするので、
機械的にカットする手癖がある人は本当にもったいないです。
上記の理由から、私は完全ローカットつきましては
中高音域の楽器に絞って使うようにしています。
特に、残響音などが低音域とマスキングしている場合に
100~200Hz以下でカットするイメージでしょうか。
※同様の理由から完全ハイカットもほぼ使いません。
 加えてマスタリングまで漕ぎ着ければわかりますが、
 ハイって最後にめちゃくちゃブーストしなきゃならないくらい
 “足りない”ことの方が多いのでバッサリ切るのは悪手です。

ところで、普通のEQでは指定した周波数の削りやブーストが
“常時”発動するかたちになってしまいますが
「このパートのこの部分だけ掛かって欲しい」といった
一部の音程に対するアプローチを求める局面があるかと思います。
そういう時は、ずばりダイナミックEQを使いましょう。
こちらは“常時”ではなくスレッショルド設定に対して
“適時”効果が発揮されるので、自然な変化が得られて
非常に便利です。オススメは「ozone」内のやつですね。

……と、いかんせん記事が長くなってきてしまったので
続きはまた次回、ということにいたします。


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