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「僕もまさに鏡のように、あるものを映すという気持ち」 担当Dが明かす『かがみの孤城』オーディオブック制作裏側

オーディオブック版『かがみの孤城』、皆さんはもうお聴きになりましたか? 11月20日の配信開始以来、既にたくさんの感想をいただいています。

(サンプルはこちらから。ぜひ聴いてみてください)

2018年の本屋大賞を獲得、発売から2年足らずで発行部数は60万部に迫る勢い。そんな超大作が、この度オーディオブックになりました。

字から音へ、本から声へ。
作品の素晴らしさを残しつつ、メディアを変換していく。

その難しさは、オーディオブック製作に携わる人間にとっての永遠のテーマでもあります。

『かがみの孤城』で音響監督を担当したのは、オトバンクの制作ディレクター・望月鷹裕。今回は、この大作を音声の世界観で表現するうえでの、楽しさや葛藤などについて赤裸々に語ってもらいました。

原作を読む手が止まらず、気付けば外が明るくなっていた

「まずはお聞きいただいた方からの反響に、ホッと胸をなでおろしているというのが今の正直な気持ちです。感想は様々だと思いますが、作る側としては、まずは純粋に作品をエンターテインメントとして楽しんでもらいたい。その上で「楽しかった以上の何か」が残ってくれたら嬉しいな…と思って制作に臨みました。だからこそ丁寧に紡いで、聴き終わった後の満足感や余韻がある作品作りを心がけました。」

作品を作っていく上での考え方は、他の作品と同様で「一番伝えたいことを伝わりやすくするためにはどうすればいいか」ということ。『かがみの孤城』に内包された無数の魅力を、一つとして殺さずに皆さんの耳に届けるのが、ディレクターの仕事です。

望月D自身、この本を初めて読んだ時にはページをめくる手が止まらず、気がつけば外が明るくなっていたと言います。さらにこの作品が素晴らしいのは、何とも重層的で奥のある表現の妙。「読み返す度に新たな発見があり、新たな描写に気付ける」と語る望月Dには、その大長編のありとあらゆる要素を音声に変えていくという難題が与えられることになりました。

ドミノが最後まできれいに倒れるよう微調整する感覚

「原作が素晴らしいので、全部を聴いてもらえれば『面白かった』とか、結末を見届けて『よかったね』という気持ちになってもらえる確信はありました。

でもオーディオブックは、読み飛ばしができない、(速度調整をしなければ基本的に)めくる速度やペースを変えることもできないメディアです。19時間という再生時間もそうですし、序盤の傷ついたこころちゃんの繊細さに、聴く側の心まで沈んでしまわないか……どうしたら聴き続けてもらえるかと思い巡らせました。僕としては『こころちゃんの傷や痛みは大切に扱いたい』という気持ちもあったので、最後までずっとそのバランスをどうとるのかというのが今作の命題だったと思います。

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そのための工夫として、物語のファンタジー要素に効果音の力を借りたり、出演者の皆さんは個別に収録しているので、一緒の空間にいるように調整したり…作品に自分が何かを加えるというよりは、ドミノが最後まできれいに倒れるために、最初から最後までずっと微調整をするような感覚でした。
それでも1部の演出はかなり難産でして…以前別の作品でお世話になりました今野康之さん(劇場版『サマーウォーズ』などで音響効果を担当)に技術的なアドバイスも頂きました。そのお陰もあり、実は2部以降の方が作業ペース的にはスムーズになりました」

理想が現実となった最強のキャスティング

また望月Dにとって強力な援軍となったのは、「この座組みでいけたらいいね、というのが叶った」という豪華絢爛な声優陣。

「本当に素晴らしいキャストの皆さんが集結したなぁ……と今振り返っても思います。その分僕にかかるプレッシャーもすごかったのですが(苦笑)
全員の演技が素晴らしかった」と話す中で、さらに一部の出演者について詳しく語ってくれた。

花守ゆみりさん(朗読・こころ役)の役への没入感は本当に素晴らしいですね。以前オーディオブック『青くて痛くて脆い』にご出演いただいた時、テストの第一声から「役」としての完成度というか「寿乃(キャラ)がそこにいる」感が本当に凄くて。テスト後、思わず後ろにいた花守さんのマネージャーさんに「いや、すごいですね……」と声をかけてしまったのを鮮明に覚えています。今回も繊細なこころちゃんの気持ちを、地の分も含め膨大な量ですが、本当に丁寧にやり遂げてくださいました。

収録中のエピソードとしては…花守さんの収録期間の合間に別の方の収録があれば、休憩中などに紅茶や珈琲を振舞いながら「先日フウカちゃんを収録したので、少し流しますね」と花守さんのイメージをサポートするのを意識していました。今思うと、まるでこころちゃんの元に、徐々に孤城のメンバーが集まってくるような収録になっていたと思います。」

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「他にもみなさん素晴らしかったのですが…メインメンバーでは最初に録り終わった小林裕介さん(マサムネ役)と、最後に撮り終わった島﨑信長さん(リオン役)が特に印象深かったです。

小林さんは収録の一か月以上前からすごく読み込んできてくださって、最初から役として仕上がっていました。マサムネはストーリーの流れが見えやすいキャラクターなので、私としても彼で一番最初に通して収録できたことで『これはいけるな』という手ごたえを感じられたのが大きかったです。同時に『この物語の最初から最後までをあと8周以上録るのか……』と途方にくれもしましたが(笑)

リオンの島﨑さんは逆に他のキャラクターの収録がほとんど終わっていたので、ご自身の考えたプランを持ち込みつつ、他キャストの音声を確認して、パズルにぴったりはまるように調整してくださいました。特にこころちゃん(花守さん)の演技にはかみ合うように、微妙なバランスをよく気にかけてくださっていました。

他にもウレシノ(堀江瞬/演)はキャスティングにかなり悩んだのですが、憎めないすごくいいキャラクターになったな…と。ご本人の持っている力に助けられましたね。元々原作が大好きだったというお話を聞いて「縁」を感じずにはいられませんでした。」

「メイン以外では、こころのお母さん(田澤茉純/演)は特に大事にしたいなと思っていました。こころちゃん達に年齢の近い方や、似たような経験がある方は、彼らに共感する方が多いと思います。けれど、今の自分はどちらかといえばお母さんの年代に近いので、大人側から見るときに、こころちゃんの次に共感しやすいのは、もしかしたらそういう立場の人もいるかな……と。演じられた田澤茉純さんはお若い方ですが、『大人なんだけどまだ若く、娘と共に悩むお母さん』という役に、最後まで一緒に寄り添い方を考えてくださったので、お願いしてよかったです」

自分という存在を入れず、原作をそのまま表現していく

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素晴らしい原作、素晴らしい役者が集まって始まった『かがみの孤城』プロジェクト。

2ヶ月間の収録、半年間にも渡る配信までの行程には大きなプレッシャーもあったという望月Dですが、その成果については「今できる100%を注いで作ることができた」と語ります。

「僕としては、自分という存在はこの作品に入れるつもりは全くなくて、逆にこの素晴らしい作品をどうしたら音のみでそのまま表現できるかということに終始模索していました。作中でこころちゃんたちはかがみの世界と行ったり来たりするけど、僕自身はまさにその鏡のように、ただあるものを映すようにありたい、という気持ちでした」

「何回読んでも面白い本なので、長編ですが2回、3回と聴いて頂けると嬉しいです。原作を既に読まれている方も『音ならではの仕掛け』の部分は楽しんでいただけると思います。

原作もまだまだ多くの方に読まれ続けていますし、今はコミカライズ版も連載されていますが、キャストの皆さまや、この作品に時間をかけることを許して下さった関係者の皆さまのおかげで、「オーディオブック」ならでは、「音」ならではの形が、ひとつできたように思います」

多くの方の心を震わせてきた名作を、音声で表現した本作。

望月Dほか、出演者様、ほかオトバンクの各メンバー…いろんな人々の想いが紡がれてオーディオブックとして世の中にお届けできました。19時間という大作ですが、ぜひ、音でその世界観を体験していただけると嬉しいです。

オトバンクの制作ディレクター・望月鷹裕
10年以上オーディオブックやラジオドラマを制作。特に文芸作品を手掛けることが多く、効果音なども活用しながら朗読で物語の世界観を表現する。
過去制作実績:「永遠の0」「世界から猫が消えたなら」「青くて痛くて脆い」「極上voiceメソッドシリーズ」など多数

【関連リンク】

・オーディオブック「かがみの孤城」特設サイト

【プレゼント企画】

12/15までにオーディオブック版『かがみの孤城』をお買い上げいただき、応募フォームからご応募いただいた方の中から抽選で各3名様に『原作者:辻村深月先生 サイン入り原作本』か『メインキャスト8名の寄せ書きサイン色紙』のいずれかをプレゼント!
詳しくは、特設サイトをご確認ください。

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