小澤征爾さん若き日の挑戦を、本木雅弘さんが朗読。制作ディレクターが語る作品の魅力
4/10(金)から、audiobook.jpで配信を開始した『ボクの音楽武者修行』。本作は、世界的指揮者・小澤征爾さんの若き日の挑戦を描いた自伝的エッセイ。オーディオブック版は、本木雅弘さんが朗読をしています。
ニッポン放送とオトバンクの共同制作により音声化が実現した本作。
今回は、収録時のエピソードや作品の魅力に関して、収録ディレクターのオトバンク・伊藤まさとしにインタビューを行いました。(聴き手:株式会社Wasei代表 鳥井・オトバンク広報 佐伯)
『ボクの音楽武者修行』あらすじ
「外国の音楽をやるためには、その音楽の生まれた土地、そこに住んでいる人間をじかに知りたい」という著者が、スクーターでヨーロッパ一人旅に向かったのは23歳の時だった……。ブザンソン国際指揮者コンクール入賞から、カラヤン、バーンスタインに認められてニューヨーク・フィル副指揮者に就任するまでを、ユーモアたっぷりに語った「世界のオザワ」の自伝的エッセイ。
伊藤まさとし プロフィール
2005年オトバンク入社。創業期からオトバンクを支え、制作チームを立ち上げ。これまでの制作本数は数千本を超える、日本のオーディオブック制作の第一人者。長編小説作品を中心に幅広い作品の音声化を手掛け、現在は後進の指導も行う。歴史考証を自ら現地に運んで行う、作品に登場する希少な方言話者を探し出すなど、文字通り「制作の鬼」。
音で”情景”を表現するということ
佐伯『ボクの音楽武者修行』のオーディオブック化が最初に決まったのは、いつごろだったんですか?
伊藤 去年の夏ぐらいですね。
佐伯 制作にあたり、最初はどんなことからスタートしたんですか。
伊藤 本木雅弘さんが朗読してくださるのは早くに決まったので、僕は制作の作りの方をいろいろと考えました。
今回は、指揮者の物語でもあるので音にこだわろうという方針に決まっていました。実は、カラヤンや小澤さん自身が指揮している曲をオーディオブック内でも実際に使用していたり。監修の吉田さんが場面に合う素晴らしい音楽をご提供くださいました。
僕は今回、音響効果も担当したのですが、ここが苦労しましたね。
作品の時代が1960年ごろなので、音響効果もその時代にきちんと合わせるよう頑張りました。
たとえば、スクーターの音は当時に近いものを探しました。メーカーのスバルさんに問い合わせをして、当時のスクーターがどんな音かわかるかなど聞いたんですが、先方でも明確にはわからないというご返答で。ですが、最終的には様々な方のご協力をいただき、かなり近いものができたのではないでしょうか。「スクーターを携えてヨーロッパに向かった小澤征爾さんの冒険」という最初の挑戦時の雰囲気が伝われば嬉しいです。
ほかに、船の音は日本郵船歴史博物館さんにご相談させていただいたり、飛行機や機関車も、当時運航している機体はどんなものかなど、博物館の方に調べていただいて……。
鳥井 かなりのこだわりがあるんですね。あくまで効果音というサブ的なのに関わらず、徹底されているのがすごいです。
伊藤 そうですね、時代背景はある程度考えないとと思っています。その当時の時代感はある程度出せているんじゃないかなと。
鳥井 長年オーディオブックを使ってきてますが、そこまで取材したうえで作られているとは知りませんでした。本物に忠実に近づけていくことによって、作品に及ぼす影響ってどんなところにあるんですかね?
伊藤 うーん……説得力、ですかね。音は情景にも関わるので、現代のものを使うと聴いていて感じられる雰囲気が現代のものになってしまうんですよね。
例えば、今の飛行機の音は比較的静かだと思うんですよ。当時よりはスマートになってます。当時はやっぱりうるさいし。本来に近い音を使うと、ごつごつした肌触りが伝わってくるんじゃないかな?とか。音でイメージも変わってくると思うので、きちんと時代にあわせた情感が伝わるように作ってます。
鳥井 なるほど。以前映画の音響効果をされている方に話を聴いたのですが、取材をした上で音響を作ると作品の作り方そのものも変わってくるとおっしゃってて。伊藤さんも同じように作る上での影響も大きいと感じますか?
伊藤 変わりますね。距離感とか、解像度みたいなものでしょうか。
例えば当時のものを調べていると、当時の生活みたいなものが見えてくることがあります。
生活感が変わってくると、セリフの付け方も喋り方も変わるし、距離感も変わります。なので、背景もきちんと考えて作ったほうがいいと思ってます。
佐伯 今回、通常のオーディオブックと異なり約1時間ほどに短く再構成したものを音声化していますが、普段と違うことってありますか?
伊藤 音楽もきちんと聴かせるイメージで、音楽のボリュームも普通のオーディオブックより大きくしてます。効果音もわりと多めに使ってますね。
音楽だけが流れるパートが1~2分あったりしますが、これは通常のオーディオブックであればほとんどないことです。オーディオブックの場合、本をすべて読むので、説明描写が全部入ってきてそこからイメージしてもらうのを重要視しているので。そのあたりのバランスはいつも悩みながら作ってますね。
感情が見えるシーンの美しさ
鳥井 収録中、特に印象に残ったシーンはありますか?
伊藤 まず、本木さんが作品に対してすごく丁寧に、真剣に向き合ってくださったことです。作中の小澤さんのイメージをどう作るか、すごく真摯に向き合ってくださって。
もちろん小澤さんは大御所ですし、重鎮なイメージを持っている方も多いと思うのですが、作品中の小澤さんは若者です。なので、その若々しさは出したいねという話をして作っていきましたね。聴くと分かると思うんですが、躍動感がある雰囲気になっていると思います。
作品中のシーンでいえば、小澤さんが初めてコンクールに入賞したシーンも、すごく印象的です。「ブラボー!」などセリフ部分がすごく活き活きとしているんです。
あとは、クリスマスのシーンは好きですね。
くわしいことはぜひ本編を聴いてもらいたいのですが、音楽を純粋に楽しむというのが、朗読からも伝わってくるかなと思います。
全体的に前向きにすごくがんばってきているんですが、小澤さんが唯一疲れているシーンだったりするんですよね。単に華々しく進んで成功を掴むというより、苦労を乗り越えていく人間らしさもあるし。そこで感動したものってすごく純粋なものだなって。
そういう感情が見えるシーンは美しいし、すごく好きなシーンですね。
音楽が好きな方に限らず、勇気をもらえる作品
鳥井 最後に、どんな方にこの作品を聴いてほしいですか?
伊藤 学生や新社会人など、若い方にぜひ聴いてほしいですね。
あの小澤さんでも落ち込んでいることもあるし、そういう中でも挑戦し続けて今があるわけで。挑戦することに前向きになってもらえると嬉しいなと思います。
鳥井 個人的な話なんですが、僕は音楽が得意じゃなくて苦手意識があって……。今回も、音楽でさらにオーケストラに関わる話というイメージですごく敷居が高い気がしてたんですけど、全然違いますね。『志高く』みたいな、若者が海外に飛び込んでいく挑戦の物語ですよね?
伊藤 そうですね。
音楽ももちろんよいのですが、小澤さんの生き方を楽しめる作品なんです。
当時の状況や、どう頑張って乗り越えっていったのかが書いてあったり。
僕もこの作品を読んでいて、羨ましいなという気持ちにもなりました(笑)スクーター一つでいろんなところで寝泊まりしながら、いろんな人とふれあって、音楽を楽しむ。そういう人生っていいなって思いますよね。ドイツで初めて知り合った仲間と音楽を奏でたらすごく現地の人に喜んでもらえたりとか。
お金がなくて貨物船でヨーロッパまで行ったという話も、衝撃的ですよね。
今では信じられないようなお話しもあるかもしれないですが、それが本当に面白いですし、勇気をもらえるのではないかと思います。音楽が好きな方に限らず、是非いろんな方に聴いてもらえたら嬉しいです。
『ボクの音楽武者修行』作品情報
著者:小澤征爾
ナレーター:本木雅弘
再生時間 :01:06:11
出版社:新潮社
製作元:ニッポン放送/オトバンク
配信:オーディオブック配信サービス「audiobook.jp」
サンプルもこちらからお聴きいただけます👇
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