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『バッタを倒しにアフリカへ』の著者・前野ウルド浩太郎さんの人生を変えた5冊

2023年4月13日にaudiobook.jpで開催した読書会にて、ゲストとして出演いただいた『バッタを倒しにアフリカへ』著者・前野ウルド浩太郎さんに、人生を変えた5冊をご紹介いただきました!

人生を変えた5冊

①科学:ファーブル昆虫記(ジョン=アンリ・ファーブル 著)

拙著『バッタを倒しにアフリカへ』第3章にも書いたのですが、小学校低学年の時に読んで、昆虫学者を志すきっかけになった本です。私の人生に最も大きな影響を与えた1冊と言っても過言ではないですね。

『ファーブル昆虫記』は全編大好きですが、中でも夢中で読んだのは、彼の代名詞でもある「フンコロガシ」のストーリーですね。
もう一度読み返したい気持ちはあるのですが、私が今調査しているサハラ砂漠にもフンコロガシがいるので、まずは自分なりにフンコロガシを研究し、ファーブルと同じ土俵(研究)で闘いたいんです。なので、読み返すのはフンコロガシ研究後の楽しみに取ってあります。

ファーブルのすごいところは、機器に頼らず、自分のアイディアで昆虫の生態を解き明かした点で、そこにすごく憧れました。
私もファーブルと同じように、最新機器に頼らず、地道な手法で安定したパフォーマンスを出すことにこだわりを持っています。もちろん、必要であればいろいろな機器を取り入れることもありますが、基本的にはフィールドワークでは原始的な材料や方法を使って研究を行っています。ハイテク機器に頼っているとサハラ砂漠の研究では通用しない場面が多々あるので、これは私の一つの強みだと思っています。
ファーブル昆虫記から得た教えが生きていると感じます。

実は、ファーブルを意識している点がもうひとつあります。私がいつもモーリタニアの民族衣装を身に着けているのは、ファーブルの帽子に対抗する気持ちもあるんです。
ファーブルといえば「つばが広い黒のフェルト帽」がトレードマークになっているので、私も「前野ウルド浩太郎と言ったらモーリタニアの民族衣装」と言われたいですね(笑)。

②歴史:小説 上杉鷹山(童門冬二 著)

江戸時代の大名「上杉鷹山」の生涯をつづった本です。上杉鷹山と言えば「為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり」の言葉が有名ですよね。私はこの言葉にすごく大きな力をもらいましたし、この本で彼の生き様を知って、とても感銘を受けました

 実はこの本、私がモーリタニアから無収入で帰国した時に先輩研究者の奥津さんから「読んでみて」と渡された本なんです。

上杉鷹山は17歳で上杉家の養子に入ったんですが、土地が貧しく藩が借金で苦しんでいた状態から、土木事業を興して水不足を解消したり各種制度の基盤をつくるなどして、工夫しながら変革を成し遂げ、米沢藩の財政を立て直したそうです。
このエピソードを読んで、夢を実現するために最大限の工夫や努力をする姿勢は今も昔も同じと知り、勇気づけられましたね。この本を渡してくれた奥津先輩に感謝しています。 

また、藩の財政を立て直すために仲間を作り、協力して一つの目的を達成する、人間味が溢れつつも困難に立ち向かっていく生き様にも感銘を受けました
私はバッタ大発生の問題を解決するという目標を掲げています。
この目標を達成するには、モーリタニアの人たちだけでなく、他の国とも協力していかなければならない。こうした「目標に向かって仲間を増やして立ち向かう」点が自分と重なって、強く共感しました。
自分だけが甘い汁をすするのではなく、少し自分が犠牲になったとしても、卑屈になることなく進めていった部分なんかは本当にかっこいいです。
このマインドは、ぜひ自分も真似すべきところだと思っています。

アフリカの研究拠点・自分の手元・実家にそれぞれ1冊ずつ、合計3冊買って置いているくらい大好きな本です。

③冒険:漂流(吉村昭 著)

『漂流』は『羆嵐』の著者・吉村昭さんが書いた長編ドキュメンタリー小説です。江戸時代、シケにあい無人島に漂着してしまった船員の12年にも及ぶ苦闘を描いています。

『漂流』のすごいところは、なんといっても吉村昭さんの文章力です。著者本人が体験したことではないのに、まるでその場にいて当事者たちと経験を共にしたかのような描写ばかりで、大いに感銘を受けました
「こんな臨場感あふれる文章を書いてみたい」と思い、吉村昭さんが執筆された本を片っ端から買いました。すべて真似したいと思うくらい、私の文章との向き合い方に影響を与えた1冊です。 

また、圧倒的な筆致で綴られた人間と自然との闘いの模様に心を奪われましたし、船員の不安な気持ちがとてもリアルに書かれていて、私が無収入で不安な気持ちを抱えていたときに読んだこともあり、強く共感しました。 

いつか、吉村昭さんのような描写の仕方やテンポを取り入れた文章を書いてみたいです。 

④冒険:サハラに死す -上温湯隆の一生(上温湯隆 著、長尾三郎 構成)

私と同じくモーリタニアを旅した日本人のドキュメンタリーで、拙著『バッタを倒しにアフリカへ』に登場した元プレジデント社編集(現・苦楽堂代表取締役)・石井伸介さんに教えてもらった本です。

この本を簡単に説明すると、上温湯隆さんという若者が単身でサハラ砂漠横断を試みるのですが、最終的には砂漠の真ん中で亡くなってしまう。その後、発見された上温湯隆さんの手記を元に出版された本です。 

私は砂漠でのフィールドワークを行うとき、必ず車で行くようにしています。遭難は決して他人事ではないですから。
車移動じゃないとかなり怖い地域を、上温湯隆さんはラクダ1頭で移動していたそうです。
「サハラ砂漠に行く」だけでも人からすごいと感心されるのに、「サハラ砂漠をラクダ1頭で横断する」という、もっとすごい、自分以上に壮大なチャレンジ精神に感動しましたし、勇気付けられましたね。
若者特有の「大きなことにチャレンジしたい」という、挑むロマンが詰まった1冊だと思います。
野外調査中に必ず思い出す、心の支え的な本です。

実は、『バッタを倒しにアフリカへ』第9章のタイトルが「我、サハラに死せず」なのは、私なりの上温湯隆さんへの尊敬を込めたオマージュなんです。
サハラ砂漠でのフィールドワーク中は彼を思い出しますし、常に意識している、見えない仲間のように思っています。 

⑤冒険:極北に駆ける(植村直己 著)

この本は、日本人で初めてエベレスト登頂を果たしたほか、五大陸最高峰を制覇するという偉業も成し遂げた冒険家・植村直己さんの冒険の記録です。 

日本人のいない極寒の村でエスキモーに溶け込み、そこで犬ぞりを覚えて冒険に活かすのですが、エスキモーの人たちとどんどん仲良くなっていくところに自分を重ねて読んでいました。
この本を読んで、異文化に溶け込んでいく柔軟さと、目的達成のための準備の大切さを知れたと思っています。

植村直己さんは南極、自分はサハラ砂漠と対極の場所で活動しているのですが、私の本を楽しんでくれた方でしたら、この本もきっと楽しんで読めると思います。

③~⑤でご紹介した本はいずれも冒険記で、私はこういった冒険記にとても心惹かれます。他の人の大きなチャレンジを聞くと勇気がもらえるんです。

彼ら(冒険記の主人公たち)はチャレンジの最中、しょっちゅう大きな問題に直面します。それでも工夫して立ち向かっていく。その姿に力をもらえるんですよね。
私も「バッタ大発生の問題を解決したい」という目標があって、そのためにはまだまだ大きな課題があったり、壁にぶつかることもあります
でも、そのたびに冒険記の彼らを思い出して、再び努力しようと自分を奮い立たせられる。そのぐらい、今でも私の人生に影響を与えている本たちだと感じます。

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上記5冊や様々な経験に影響を受けて執筆された前野ウルド浩太郎さんの大人気書籍が、audiobook.jpで配信中です!ぜひお聴きください。

バッタを倒しにアフリカへ

バッタ被害を食い止めるため、バッタ博士は単身、モーリタニアへと旅立った。
それが、修羅への道とも知らずに…。
 
『孤独なバッタが群れるとき』の著者が贈る、科学冒険就職ノンフィクション。
20万部を突破した大注目の一冊。

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