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ラジオ音源を利活用!KBCラジオの人気番組をaudiobook.jpで配信する理由とは―九州朝日放送 原田昌史様にインタビュー

人気番組を多数抱える九州朝日放送(以下、KBCラジオ)。そんなKBCラジオの番組がオーディオブックアプリ「audiobook.jp」でも配信されています。かつては「放送しておしまい」だったラジオも、今では番組が終わっても配信コンテンツとしてリスナーに長く愛されるケースが増えています。

この変化をラジオ局はどう受け止めているのか。そして番組が配信コンテンツとして利活用されるようになったこの影響はどんな点に表れているのか。今回はKBCラジオ総合営業本部 営業推進グループ(ラジオ)担当部長の原田昌史さんとオトバンク制作チームの伊藤誠敏にインタビュー。ラジオ関係者はもちろん、ラジオファンもぜひ知っていただきたい、ラジオ番組の利活用の裏側をお伝えします。

KBCラジオ・原田昌史様

原田昌史様 プロフィール
1994年に九州朝日放送に入社。最初の10年余りは主にスポーツ現場の業務に従事。2007年からは営業系の部署に異動し東京支社ラジオ部在籍中の2011年4月より「ラジオ活劇 北方謙三 水滸伝」の制作を手掛ける。その後、2020年10月から現在も全国16局で放送中の「ラジオ劇場 下町ロケット」を担当。本社総合営業本部営業推進グループ担当部長。


■KBCラジオが番組の配信を始めたワケ

オーディオブックアプリ「audiobook.jp」でも配信中

――現在、「audiobook.jp」では「北方謙三 水滸伝」「下町ロケット」など、KBCラジオで放送された番組が5タイトル配信されています。自局の番組を利活用する取り組みはどのように始まりましたか?

原田:今みたいに配信が一般的になっていない時期から、放送済の番組をどこかで流したいね、という話はあったんです。でもどうするかというところで、CDにして限定販売するにしても、たとえば「北方謙三 水滸伝」って10分番組なんですけど、全部で1600話以上あるからCDにしたら200枚近くになってしまう(笑)。

伊藤:audiobook.jpには音声データの形でいただいたのですが、確かにものすごい量でした(笑)。

原田:これでは買ってもらえないだろうな、ということでどうしようかと考えていたところで、人づてにオトバンクさんがKBCのコンテンツを配信できないかと言っている、という話を聞いて、一度会ってみようとなったのが最初です。こちらとしてもありがたいお話だったので。

伊藤:僕と原田さんの共通の知人の構成作家さんがいて、その人経由で紹介していただいたんですよね。

原田:そうそう。でもすんなり配信まで行けたかというと、決してそんなことはなくて、実現までには時間がかかりました。

――配信の目的としては、番組のリスナーを広げるということでしょうか。

原田:そうですね。いい番組を作っているという自負はあったので、放送で一回流しておしまいになるのはもったいない、と。もちろん再放送はあるのですが、それも流したら終わりじゃないですか。当時から「radiko」はあったんですけど(福岡地区での配信開始は2011年10月)、タイムフリーが始まる前でしたから、聴くことはできても、聴き返すことはできなかったですし。(タイムフリーのサービス開始は2016年10月)

伊藤:遠隔地は聴けないとか、結構制限がありましたよね。

原田:そうそう。制限があったりして、まだ「radiko」も限定的なサービスだったんです。せっかくいい番組を作ったのだから、もっと聴いてもらいたいよね、というところですね。

■初めての試み 「ルール」がないなかで手探りのスタート

――配信までにどういったところで時間がかかりましたか?

原田:オトバンクさんの方は配信のシステムを持っているんですけど、KBCラジオが番組を二次使用する際の体制やノウハウがなかったんです。だからオトバンクさんと会った時にどんな点をクリアすればいいのかという「宿題」を教えてもらって、それをこなしていくという時間が必要でした。

伊藤:僕と営業担当者でKBCさんにうかがって、番組の配信についての具体的なイメージを教えていただいたのを覚えています。

原田:その後、弊社内に番組コンテンツの二次利用やウェブ関連の新事業をやる部署ができたのが契機になりました。そこの先輩にオトバンクさんで番組を配信する話を相談したんですね。そこから少しずつ社内でも「やってみたら」という空気になってきました。なんだかんだ最初に会った時から1、2年くらい経ってからようやく動き出したという。

伊藤:僕は「この話は消えたかな」と思っていました(笑)。

原田:ブランクが空いてしまいましたからね。社内で「いけるんじゃないか」という話になって、改めてオトバンクさんに連絡して「あの話って生きてますよね?」と。

番組を配信できるようにするために、具体的に何をしたかというと、二次利用のための権利関係の整理です。当時番組の一部をPRとしてポッドキャストで流すということはあったんですけど、音声コンテンツとして有料※の配信サービスで流すというのがKBCラジオだけではなく、他局でもなかったようなんです。
(※audiobook.jpは、聴き放題プランを月額880円で提供。)

だから、権利関係を整理するといっても「ルール」そのものがなかった。実演家団体のところにラジオドラマの二次配信の際の使用料はどうなるのかと相談したら、そういうケースは初めてと言われました。

――前例がないから相談されても答えられなかったんですね。

原田:これがテレビドラマだと、団体のホームページに販売や配信の際の規定について細かく書いてあるんですけど、ラジオだとそれがありませんでした。もしかしたら私たち以前にも番組を有料配信しようとした局はあったのかもしれませんが、ルールがないからやれないということで諦めてしまっていたのかもしれませんね。

オトバンク制作チーム・伊藤誠敏

――最初に道を作る人は大変というエピソードですね。

原田:今なら「こんな感じで権利処理すればいいんですよ」ってやるべきことをまとめて教えられますけど、当時は大変でしたね。出演者、著者、楽曲など、どこにどのくらいの料率を支払えばいいかというルールがなかったので、あちこちに聞いて回ってご意見をもらいつつ決めていった感じです。ただ、うちが良かったのはBGMもオリジナルだったことです。

最初の「北方謙三 水滸伝」を配信する際にそうやって権利者団体と話してルール決めができたので、以降の番組については楽でしたね。「水滸伝」の時は半年くらいかかったのが、「下町ロケット」の時は「こんな番組を配信します」と言う申請だけで、実質1日か2日くらいで権利処理は終わったはずです。

今思い出したのですが「audiobook.jp」で配信するために準備をしていた時に、弊社からオトバンクさんへの支払いが生じない形の契約にしてもらえないかというお話をしました。

伊藤:当時は音源の素材を弊社に預けていただくのに料金がかかっていたんですよね。

原田:やはり新しいことをやるわけで、売上がどうなるかわからない段階で支払いが生じてしまうと社内で「G O」が出にくいんですよ。だからうちへの売上からのロイヤルティ支払いのパーセントを調整していただいて、うちからの支払いがない形にしていただきました。

――逆にいうと、支払いが生じないのであれば、放送局が番組を有料コンテンツとして配信するデメリットはないのでしょうか?

原田:少なくともうちに関して、費用面ではなかったと思います。ただ、まだ事例が少ないですからね。

――ラジオ業界全体を見渡すと、番組の二次利用を担当する部署があるところは増えているんですか?

原田:ラジオに限らず放送局として色々やってみようという局は増えているみたいです。ビジネスとしてというだけでなくリスナーサービスとしてやろうとしているところもあるでしょうし。「作って放送しておしまい」はもったいない、どうせなら何かできないかという考えは各局あるんじゃないかと思います。私も「権利処理や実際の運用が大変なんじゃないの?」というあたりの話を他局の人に結構聞かれますよ。「全然そんなことはないですよ」と答えています。

権利処理については今お話しした通りですが、運用の手間は全然ありません。ファイルを伊藤さんに送るだけ(笑)、または、自分たちでアップロードするだけという。

伊藤:そうですね。こちらも量は別として難しい作業が必要になるわけじゃないので。

■放送外収入でビジネス面でのメリットも

――「audiobook.jp」で番組を配信してみて、KBCの社内の反応はいかがでしたか?

原田:番組が使い捨てじゃなくなるのは大きかったですよね。うちでシステムを組まなくてもアーカイブとして全部聴けるようになりました。作り手側としては嬉しい話です。

ただね、「流しておしまい」だった時代にはない苦労もあって、たとえば「北方謙三 水滸伝」もそうだけど1000話以上あるとごく稀にですがちょっとしたミスもあったりすることがあるわけです。

今は配信があるから、間違いがあってはいけないし、万が一あった場合は直さないといけないですよね。

伊藤:アニメとかだと後でDVDになったりするから、まちがったところは直しますよね。確かにラジオだと後からまちがいに気づいても遅いわけで。

原田:そうそう。そのへんはより気を使うようになりましたね。

伊藤:放送後の修正って結構大変ですよね。

原田:その作業についてはお金が入ってこないからね(笑)。当時のオンエアは「あー終わった!」っていう開放感で聴くものだったんですけど、今は「最終チェック」としてオンエアを聴いています。緊張感がありますね。

――売上面での変化はありましたか?

原田:社内の組織変更があって放送外収入を調べたことがあったのですが、オトバンクからの年間の売上が番組販売などによる権利料収入の中でトップだったことがありました。それで「これはすごい!」となって、配信って事業的にも意味があるんじゃないかという話にもなりました。

実はこんなに儲かっていたんだ、というのが改めて社内理解が広まりました。

――スポンサー企業の反応はいかがですか?

原田:「下町ロケット」も「北方謙三 水滸伝」もミヤリサン製薬がスポンサーなのですが、オーディオブックのリスナーと製薬メーカーがターゲットにしている層が重なるということで、自社の名前が入るコンテンツが配信されて喜んでいただいています。スポンサー名を配信でも入れていただくというのは初期の交渉からこだわった部分でもあります。

■「北方謙三 水滸伝」は慣れるとハマる「炭焼きコーヒー」

――現在「audiobook.jp」で配信している番組について、聞きどころや魅力を教えていただきたいです。

原作:北方謙三 水滸伝(集英社文庫刊)

原田:「北方謙三 水滸伝」は北方さんならではの男臭い文章を、俳優・アーティストの石橋凌さんが「読む」というより「語る」という感じでシャウトを交えながら演じてくれています。かなり癖の強い番組ですが、雰囲気に慣れるとハマる方が多いと思います。

誰でも飲める缶コーヒーじゃなくて、飲みにくいけど慣れたらハマる炭焼きコーヒーみたいな番組です。制作開始する時の製作スタッフとの最初の会議でも、番組の大方針としてこの方針を最初に説明しました。

伊藤:石橋さんありきの番組というか、あの10分間をあの濃さで演じられるのは石橋さんだけなんじゃないかと思いますね。最初に聴いた時は独特の癖の強さにびっくりしました。

原田:間の取り方も独特ですしね。石橋さんのナレーションの部分は、声優メインのアニメ的なコンテンツとは意識して逆の作り方をしています。

伊藤:脇を固める二人は割と淡々と演じていて、いいコントラストになっていますね。

原田:自分が日ごろ思っているラジオドラマの難しいポイントって、セリフでストーリーを追う癖がないと場面がわかりにくいところだと思うんです。ほとんどセリフでできているので。だから聴く時は頭を使うというか、想像力をはたらかせないといけないのですが、それだとやはり疲れるので「北方謙三 水滸伝」は地の文を生かすように作っています。癖は強いけどストーリーは追いやすいと思いますね。

伊藤:そういう作り方は「オーディオブック」的ですよね。

――KBCさんは福岡や佐賀など北部九州をカバーする局で、石橋さんは福岡出身のロックミュージシャンであり、俳優です。地元のタレントを多くキャスティングする傾向はあるんですか?

原田:何かしらのゆかりがある方を優先したい、というのはありますね。石橋さんの場合は「北方謙三 水滸伝」を男臭い番組にしたいよね、と考えていたところで地元出身でもあるし、KBCラジオがデビューのきっかけになったというご縁もあるのでオファーをしました。

――「下町ロケット」はいかがですか?

原作:池井戸潤(小学館文庫刊)

原田:所々で有名な方が出ていたり、声優じゃない人が出ていたり、キャストが多彩でそれぞれにキャラが立っています。「北方謙三 水滸伝」と比べると作り方はオーソドックスだと思います。

キャスティングの話でいうと、主役の「佃航平」役を黒木啓司さんにお願いしたのは、もちろん熱い人柄が役にぴったりだったからなのですが、九州朝日放送自体がEXILEと関係が深かったり、黒木さん個人ともタレント育成オーディションを一緒にやったりお付き合いがあったのもあります。ご本人も九州出身の方ですしね。

同じく配信している「博多っ子純情」のナレーターの指原莉乃さんも大分出身の方ですし、九州の縁のようなものは大事にしています。


――最後に、ラジオ音源の利活用全般についてお考えをお聞きしたいです。

原田:テレビは放送後に配信したり色々なサービスが出てきていますが、ラジオはこれからですよね。「audiobook.jp」に限らずポッドキャストで配信するとかやり方はいくつもあると思いますが、リスナーに番組として放送後に音声コンテツとして放送後にも聞いてもらえる選択肢があって、更に有料で売上がたつ可能性があるのは局としてはありがたいです。

番組が広がるきっかけになるかもしれませんし、スポンサーの名前も入れることが可能なのでスポンサーへのサービスにもなりますしね。

オトバンクという社名には、オトの銀行という意味が込められており、音源を大切にお預かりし、「聞き入る文化」に貢献するという想いがあります。

オーディオブックアプリ「audiobook.jp」は、2007年に日本初のオーディオブックサービスとして産声をあげ、日本語オーディオブック書籍のラインナップ数は日本一。

今後も、ラジオコンテンツの新たな可能性として、オーディオブックアプリ「audiobook.jp」がラジオ業界に少しでも貢献できたら嬉しく思っております。

【お問い合わせ】株式会社オトバンク 窓口
本件に関するお問い合わせはこちらまで
pr@otobank.co.jp


伊藤誠敏プロフィール
オトバンク プロデューサー・ディレクター・音響監督
2004年の創業期からオトバンクを支え、制作チームを立ち上げ。これまでの制作本数は数千本を超える、日本のオーディオブック制作の第一人者。長編小説作品を中心に幅広い作品の音声化を手掛け、現在は後進の指導も行う。歴史考証を自ら現地に運んで行う、作品に登場する希少な方言話者を探し出すなど、手を抜かない「音の職人」。

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