40歳をすぎたら「若手のアイデアを生かすこと」に集中したほうがいい
「40を超えたらイノベーションなんて起こせないから、若い人をマネジメントする側に回りなさい」
これは、ある70代の人が言っていた言葉です。彼は、ある自動車メーカーで次々に新しい技術を実用化させてきた研究者でした。
「何言ってるんだろう?」
その言葉を聞いて、私はそう思っていました。だけど40歳を超えた今「ほんとうにその通りだな」と感じることが増えてきたのです。
「俺よりぜんぜん優秀じゃん」
私は今年で47歳になります。
インターネットに触れたのはちょうど大学生ぐらいのとき。社会に出たときはもうインターネットで何かを調べることができていたので、上の世代から見たら「ちょっとできるやつら」に見えていたかもしれません。
だけど今、さらに下の世代は子どものときからインターネットに触れているわけです。わからないことがあっても検索すれば数秒で答えを出せる。
そこに対して「若い人はネットに頼っているから考える力がない」なんて言う人もいます。しかし、私はそうは思いません。
今の若い人は検索能力に長けています。どういうワードでどうやって検索すると答えにたどり着くかが瞬時にわかる。問題に対して答えを出す能力が高いのです。
検索によって「すでにこの世にある答え」に最短でたどり着くことで、彼らはその先に行けます。よりクリエイティブなことや、まだ多くの人がたどり着いていない答えを探す旅に出ることができるわけです。
そういう30代、20代を見ていると「やばいなあ、俺より絶対優秀じゃん」と思うことばかりです。なんというか「人類として進化している感」がすごい。私くらいの世代はそれを肌で感じてしまっているわけです。
若手にチャンスを与えると輝き始める
最近うちの会社で課長になった30代前半の女性がいます。
彼女は入社したときからどこか突き抜けた印象がありました。どんな場面でもまったく物怖じせず、それでいてすごく人懐っこい。どちらかというと大人しい人が多かったうちの会社にはあまりいないタイプでした。
彼女は最初、自動車の部署に配属されて、私の真下のポジションに入ってきました。うちのメインの事業です。
自動車の部署に入ったら、1年生はまず定型業務で仕事の基礎を身につける慣習がありました。彼女もそういう仕事をやっていたのですが、正直当初はあまりパッとするような感じではありませんでした。
「うーん、もっと彼女の力を活かせる仕事はないものだろうか……」
彼女のタイプからするとルーティン系の仕事はあきらかに合っていませんでした。それよりも感性を活かしたマーケティングの仕事や、人と接する営業系の仕事などをやらせたほうがいいんじゃないかと思っていたんです。
海外で一転、大活躍
あるとき社内で海外研修に行きたい人を募集することになりました。
応募するにはいくつか基本条件があり、彼女は2つほど満たしていませんでした。でも「やりたいです!」と手を挙げてきたのです。
英語も「それなりに話せます」というレベル。私は「ほんとうに大丈夫かな?」とも思ったのですが、そのときは他に手を挙げる人もいませんでした。「じゃあやってもらおうか」ということで、シアトルに飛んでもらうことにしました。
さて、どうなったかーー。
3ヶ月くらいかけていろいろな研修に行ってもらったら、各所からいい評判が聞こえてきたのです。
そのときの私は海外展開を担当していたのですが、シアトルの現地取引先の人から「若手でおもしろい人、いないかな?」と聞かれました。
私はすぐに彼女を思い出し「ちょうどシアトルで研修している子がいるから、1ヶ月ぐらい勉強に行かせてくださいよ」と言って送り込みました。私としてはほんのお試しのつもりでしたが、彼女が働き始めると翌日には「あの子、いい感じだよ!」と連絡がきました。
環境が変われば、人は変わる
私は、彼女には新しいことを任せたほうがおもしろくなりそうだなと思い、その後もいろいろな仕事をやってもらいました。
数年前からはブランド事業の海外展開を担当してもらっています。それまで取引のほとんどが国内だったので海外のバイヤー開拓を担当させてみました。
彼女は「はい、わかりました」とだけ言って、ヨーロッパあたりを1ヶ月ぐらいお散歩するように出張して、優良なバイヤーと何社も契約を取ってきたのです。
そこからあれよあれよという間に海外の取引が増えていきました。ブランド品の取引量の3割くらいがいまはもう海外になっています。その成果が認められ、若くして課長に抜擢されたのです。
その人が結果を出せるかどうかは「どこにいるか」によるんだな。適材適所の大切さを考えさせられた出来事でした。
「下積み」は本当に必要か
彼女を見て、こんなことも考えました。
「入って最初の3年はとにかく下積みだ」「丁稚奉公でカラダで覚えろ」みたいな昔ながらのやり方って、いかがなものだろうか?
これもまたブランド事業の話なのですが、あるときマネージャーと打ち合わせをしていると、すごく完成度の高い分析資料が出てきました。
社内向けの資料では数字をペタッと貼るだけの人も多いのですが、その資料は課題から仮説の検証までとても論理的。グラフもきれいにまとまっているし、何を伝えたいのか一目でわかるようになっていました。
「この資料、誰が作ったの?」と聞くと、なんと新卒2年目の子だったのです。
さらに驚くことに「この商品カテゴリーの成果をもっとよくするにはどうすればいいか、ちょっと考えてみてくれる?」とざっくり指示しただけで、この資料が出てきたそうなのです。
実は彼女には、いままで多くの1年目がやってきたルーティンの仕事はさせずに、最初からマーケティングの推進チームに入れていました。そのチームで自分なりにいろいろ考えながら仕事をしていたのです。
直属の上司によると、彼女の仕事にはある特徴があるといいます。
「まだ若手でビジネスの現場のことをよく知らないから」という思いがあるのか、ちょっとしたことでもすぐにお客さんに話を聞きにいくのです。
数字を見て仮説が出てきたら、パッとお客さんに聞いて検証する。このサイクルを自分でグルグルと回していました。
ロジカルで、フットワークが軽く、それでいて謙虚。
そんな彼女の仕事ぶりを見て思ったのです。
「昔からみんなやっている」という理由だけで2年も3年も丁稚奉公させるなんて、こんなにもったいないことはないな。キャリアのスタート時から自分の頭で考えることが大切なんだな。
それからは「いいからこれをやるんだ」という指示の出し方を見かけたら、徹底的に直すようにしています。
丁稚奉公は「武器」をつくるため
「とはいえ、若い人は丁稚奉公でカラダで仕事を覚えることも必要だろう」
そう思った人もいるかもしれません。
私も丁稚奉公そのものを否定するつもりはありません。私が言いたいのは、丁稚奉公はあくまで「武器をつくるため」ということです。
武器を持っていないとビジネスという戦場で太刀打ちできません。何も武器を持たない新人が「丁稚奉公なんてイヤです」「実戦投入してください」なんて言ってきたら「丸腰で戦う気ですか?」という話になります。
武器というのは「営業トークを磨くこと」かもしれませんし「わかりやすい資料を作れること」かもしれません。そこは業界や職種によるでしょう。
まずはそういった「武器」を揃えてあげるのが先輩の役目。そういう明確な目的を持って丁稚奉公をやらせることについては、まったく否定しません。
ある程度武器がそろってきたら、どうするか。
今度は「そもそも何のためにやっているんだっけ?」という問いかけを増やしていきます。
より多くの案件を取るためなのか、お客さんを説得するためなのか……。そもそもの目的を意識するクセをつけさせる。そうやって「あとは手持ちのコマでやってごらん。だってもういくつも武器を持ってるでしょ」と考えさせるわけです。
これを繰り返していくと、目的から逆算して自分で創意工夫できるようになります。
武器づくりだけやっていると目が死んでいく
しかし残念ながら、中には武器作りに時間をかけすぎたり、ひとつの武器だけを研ぎ澄ますことがマネジメントだと思っている上司もいます。
そういう人の下についてしまうと、たぶん2年ぐらいで目が死んでいくんですよね。感性も失われていく。そういう若手を見るのはほんとうにつらいことです。
たいていの人は「いいからこれをやれ」と言われ続ける中で、自分の頭で考えることをしなくなっていきます。
これは上司の責任も大きいです。せっかく若手が考えてきても「お前はそんなこと考えなくていいんだよ」などと突き返してしまう。それが3回続けば、もうその人は考えることをやめます。
ほんとうは「いいからやれ」の期間こそ、自分の頭で考えさせることが必要なのです。
昔ながらの刀鍛冶の修行だって同じです。「どうしたらいい刀になるのか」を考えながら修行することが成長につながります。決して「修行のあいだは考えなくていい」なんて言ってるわけじゃないのです。
たとえば1年目の最初の3ヶ月くらいは「いいからやれ」で始めてもいいけれど、だんだんその度合いを減らしていく。そして「考えなくていいから」などと絶対に言わない。そういったことを自覚的にやるのが大切です。
言われたことをなんでも「そうなんですね!」「はい、やります!」とやってしまう素直な人ほど、危ない。むしろ「バカらしいな」「なんでこんなことやんなきゃいけないんだ」と斜に構えるくらいでちょうどいいのかもしれません。
「鵜飼い型」上司がうまくいく
「この人、マネジメントがうまいな」と思う50代の役員が社内にいます。
この人がおもしろくて、植木等みたいなキャラクターなんです。古い世代のコメディアンなので知らない人もいるかもしれませんが、ようはアバウトでチャランポランなサラリーマンキャラ。「いいんじゃないの?」が口癖です。
そんなタイプの人なのですが、いまうちの会社で彼がいちばんマネジメントがうまいんです。
横から見ているとアバウトなことを言っているように見えるのですが、みんな彼の元でどんどん成果を出していく。
彼の部署は事業全体の方針や戦略がとてもロジカルに組み上げられています。いっぽうでチームの動きにはすごく自由度があります。
たとえがいいかわからないですが、彼、「鵜飼い」みたいなんです。
「好きにやっていいよ」と言いつつ「南南東の方かなぁ」みたいな感じで、大まかな方向を示すのがすごくうまい。
それでいて、けっこう細かくコミュニケーションを取っています。そして意外かもしれませんが、数字やKPI設定に関してはすごくきっちりしているのです。
反対方向に行きそうな人がいたら、「こっちに行ったらだめよ」と言ってキュッキュッっと引いていく。言われたほうも「あ、こっちの方向か」とわかる。
そうやってこまめに方向修正していくから、すごくうまくいくわけです。
本人は「任されてる」と思ってがんばりつつ、意外とちゃんとコントロールされている。
このマネジメントを見たときは「すげえなあ」と思いました。
実際に彼のところには社員たちが遊びに来るかのようにちょこちょこと報告しにくるのです。部下から見ると「報告したくなる雰囲気」が出ているんでしょう。
実は先ほどお話しした2年目の女性社員は、部署の中でいちばん彼のところに相談しに行っています。部下に「任せたよ」と言いつつも、決してほったらかしにすることはありません。
コミュニケーションはゆるめ、でも押さえるべき数字はきっちりと。きっとこのバランスがいいのだと思います。
上司はだいたいの方向を示す。あとは若手に任せて自由に泳いでもらう。そんな「鵜飼い型」上司がこれからの時代はうまくいくのかもしれないなと思ったのでした。
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