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物理学科の勉強内容を活かした仕事??

こちらの動画に「物理学科卒の会社員だけどめっちゃ親身な回答だと思いますよこれ」とコメントさせてもらいました。皮肉でもお世辞でもない率直な感想です。本当はもっと書きたいことがあったのですが、動画に長文のコメントを投稿するのは好きじゃないのでnoteで書いてみることにみました。

まず結論として上のコメントの意図をいうと、本当にきちんと物理を学んだのであればその知見・経験はおそらくどんな仕事に就こうと後々役立つから勉強内容を生かすことを軸に職種を選ぶのはナンセンスだと思うよということです。

私自身について

コメントに書いたように物理学科を卒業した会社員です。正確には大学院の博士課程前期が最終学歴で、(一応は)修士号を持っています。卒業後は中小のメーカーに就職しました。仕事内容はというと主に設計・試作・計測等々を行う技術系のものです。それに案件の数は片手で数えられる程度であるものの顧客と直接やりとりして仕様決めから納品まで携わった経験もあり、最近では製造現場で作業しています。

物理学科はどんなところだったか

物理学科に入ると大雑把にいって物質の成り立ちや様々な力のはたらき方を数学を駆使して学びます。そのため科学全体に関して広く浅い理解を得やすく、学生たちはその中で特に興味を持った分野を深掘りしていくことになります。そのようなわけで物理学科は、例えば機械工学や薬学科などの理系学科よりもモラトリアム色の強いところだと思います。在籍している学生はというと、一握りの数理物理エリートと大多数の凡人の集まりといった印象です。

物理学というのは単位だ、進級だ、就職だといった事柄から離れて相当のめり込んでしまえば「特権的に面白い」学問になるそうです。残念ながら私はその領域には及びませんでした。以下は凡人が凡人なりに考えたこととして読んでいただきたいと思います。

本題

上記の動画を観て改めて物理学を勉強してどんないいことがあるか考えてみました。「数値計算の経験があればプログラミングスキルがある程度身についている」というような具体的な技能の話は別とすると、残念ながら年収チャンネルの趣旨であるところのお金を稼ぐことに直結するメリットは見つかりませんでしたが、大きく分けて2つの強みが物理出身の者にはあると思います。

ただしそれらは物理学科に入らないとできないことでもなく、他の学科であっても本人の意欲次第でそれなりに勉強すれば同じようなことはできてしまうでしょう。ここで言いたいのは「物理学科に行けば特に意識しなくてもこれらの面で強くなる」という程度のことです。

1. ある種の数字や論理に強くなれる。

数字に強くなれるといっても帳簿類がいきなり読めるというわけではなく、そこはやはり人並みの訓練が必要になります。そうした数字への強さよりも、諸量の間の関係を理解する能力が高いことが物理系の学生の特徴なのではないかと思います。
物理学科ではよく「量Yは量Xのa乗に比例する」とか「量Yは量Xの指数関数のように増大・減少する」といった捉え方をします。一般的に知られている例として電線ケーブルの太さと安全に流せる電流量の関係、放射性物質の半減期などがあります。

このように実社会に現れる様々な数値がお互いにどのように関係しているのか、あるいは無関係なのかを理解できる能力は物理学を学ぶことで自然に身に付けられます。これに対して一般社会では誰もがそのように諸量の関係を数式で表して解釈できるわけではなく、そもそも「量Zは量Xに依存するが量Yとは無関係である」のような主張の意味をできない人もいます。
そしてフェルミ推定のように、物理学関連の勉強をした者は典型的な数字を大雑把に把握して試算してみる習慣にある程度馴染んでいます。典型的な数字とは都市の人口であったり金属材の比重であったり分野によって様々であり、そういった数値を頭に入れておいて、必要な時に簡単な計算を行ったり、何らかの情報源を当たって見つけた数値が妥当そうか判断したりすることができます。

このような思考・発想ができると、その能力は製造業でもマーケティングでも、とにかく数字の現れる仕事では必要とされる場面が必ずあると思います。

2. 製造に関わる工程の原理など物事の仕組みを理解しやすい。

物理学科を出た人間が身につけている見識は、初めて耳にする技術の凄さや難しさを原理のレベルで理解するのに役立つと考えています。

私は製造業の会社で働く中でこれまでに材料の作り方、部品の加工の方法、熱処理、応力の分布といった工学系の事柄について理解しようとする場面が度々ありました。以前と同じ物を同じように作るだけならば、各工程には専門家がいるので彼らに頼めばすぐにできる。しかし新しい物を作りたいとか既存の物を改良したい場合には製造の工程や製品の機能に関わる原理を知る必要が出てきます。

もちろんその技術に直結する勉強をした経験があれば理解が速いのですが、守備範囲は広くないでしょう。その点で物理学を勉強した者は有利であると思います。物質の成り立ちを知っているとか、熱や電流や力がどの様に伝わるか想像できるといった素養があると、どのような工程でも専門家の話を聞けば大抵は要点が分かります。分からなくても何を調べれば良いか見当がつきます。

これは少々ものづくりの分野に偏った話でしたが、おそらく他の分野の仕事でも、原理に立ち戻って考えることは問題の構造を理解して解決方法を考えるのに有用であると思います。

まとめ

ここまでの内容を受けて言いたいのはこういうことです。物理学科で学んだことによる強みとは多くの職業で活用できる機会がある。だからわざわざ勉強した内容を生かそうとして職を選ぶ必要はなく自分が活躍できて稼げる仕事を追求すればよい。勉強した内容が就職した後で生きないのならば、職選びを間違ったのではなく勉強したことが実は身についていなかった、つまり「0点と同じ」だったということなんじゃないかな、と。

最後に

少々上からの物言いになってしまったがもう少し自分のことを明かしておくと、実は株本氏と同学年であり学校は全く違うものの実家は彼と同じく調布市内にあります。つまり10代をおおよそ同じような環境・時代背景で過ごしたはずなのだけれど、現状に於いて私の収入は株本氏のざっと50分の1くらい、つまり30歳になる年で未だに年収300万円台です。この現状だと私が物理学科で学んだことも0点と同じなのかもしれません。お粗末様でした。

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