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最高に孤独を感じた時間

私がネパールを訪れた目的。
その1つは、「ヴィパッサナー瞑想の合宿」に参加することだった。

ヴィパッサナー瞑想は、日本でも京都・千葉で受講できる。ヴィパッサナー瞑想の発祥の地・インドやその他の国でも受講可能。しかし、するなら”ネパールでしたい”と漠然と思っていた。

ヴィパッサナー (Vipassana) は、物事をありのままに見る、という意味です。インドの最も古い瞑想法のひとつで、2500 年以上前にゴーダマ・ブッダによって再発見され、普遍的な問題を解決する普遍的な治療法、 生きる技として、多くの人に伝えられました。 。→引用元

ネパールに到着してから、受講日を確認し、申し込んだ。首都カトマンズのコースはすでにいっぱいだったので、ポカラの近く、ベグナス湖のほとりにある合宿施設で受講することに決めた。

ちなみに、私がこの瞑想合宿に参加した理由は以下3点。

1.「10日間誰とも話してはいけない合宿」に漠然と興味があった
2.集中力をつけたかった
3.口呼吸を改善したかった

ヴィパッサナー瞑想の合宿に参加することを決めたが、ある日からふと不安になった。実のところ、私はあまり英語が聞き取れないし、話せないけど、オール英語のこの合宿に参加して果たして大丈夫なのか。

ポカラに着いたとき、偶然にもこの合宿に参加した日本人の女の子に出会った。すると彼女は「英語、結構できる方ですか?」と聞いてきた。「専門用語とか、結構出てくるのでちょっと難しいかもしれません」。不安がさらに倍増した。すると彼女は、ヴィパッサナー瞑想に関する絵本のデータを送ってくれた。それすら私には難しかったが、合宿までの一週間、時間があるときにその絵本を見ていた。

長いと思っていた1週間はあっという間に過ぎ去り、とうとう合宿の日。
ポカラからローカルバスを乗り継いで、ベグナスという街に降り立った。

思ったよりにぎやかで、(こんなところで瞑想なんてできるの!?)と思っていた。ところが、合宿所が見つからない。人に聞いても「そんなの知らない」という感じだった。すると、さっき道を聞いたおじさんが「あっちの丘の方だ」と言ったので、そっちを目指すことにした。

ようやくふもとに着き、丘を登り始めたら、合宿所らしき看板を発見した。

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(ここか!)と思ったが、ヴィパッサナーの文字がない。とりあえず、入ってみようと思っていたらタクシーが通りかかり、「ヴィパッサナー!?」と聞いてきた。「イエスイエス」と答えたら「乗って!」と言われた。

どうやら先に乗っていたドイツ人の彼もヴィパッサナー瞑想の合宿に参加するようだ。ところで価格交渉せずに乗ってしまったが、いったいいくらかかるんだろう。

カーブが続く山道を登っていき、目的地のヴィパッサナーの合宿所に到着。タクシーは思ったよりぼったくられなかった。

合宿所には予想以上にたくさんの人がいて、受付の列で自分の番を待った。
ようやく自分の番が来たと思ったら「あなた、申し込みした?」と言われた。

どうやらヴィパッサナー瞑想は、申し込みをした後に連絡が来るらしく、それに返答して申し込みが成立するらしい。私はどうやらそのメールを見逃したか、受け取っていない模様。ということで、申し込みは成立していなかったのである。そのため、私はキャンセル待ちになった。

待っていると、なんとなく日本人オーラを出しているような、異国人のような、微妙な空気感の男性がいた。すると、彼はもう1人の日本人らしき男性と日本語で話し出した。(あ、日本人が2人いる!)とホッとした。

話してみると、日本人の2人はお互い1人参加。
そのうち1人は、インドで別の修行中で、暑さからの逃避もかねて参加したらしい。もう1人は、ヴィパッサナー瞑想に何度も参加していて、参加者の誘導やお世話をするアシスタントの経験もあった。

2人と話している中で、「私、キャンセル待ちなんです。でも運がいいからなんとかなりそうな気がします」というと、見事キャンセル待ちの枠が空き、参加が決定した。

またヴィパッサナー瞑想の経験が豊富な彼に「私はあまり英語が話せないけど大丈夫かな」と聞いてみると、今回の担当アシスタントにその旨を説明してくれたようだ。

全く聞き取れないオリエンテーションを経て、いよいよ本格的に修行のスタート。修行中は男女別々。唯一言葉が通じる彼らとはお別れである。

さっそく先生が登場し、瞑想のノウハウがスクリーンに映しだされ、瞑想スタート。全く英語がわからないが、こんな感じかなと思いながら呼吸してみる。始まったばかりなのに、座禅を組んでいる足がすでに痛い。

すると先生が「この後は、この場に残るか、自分の部屋で瞑想をしなさい」と言った。多くの生徒が立ち上がり部屋に行ったが、私はこの場に残ることにした。すると、担当アシスタントが私の肩をたたき「ゴー・トゥー・ユア・ルーム(部屋に行きなさい)」と行ってきた。どうやら聞き間違えていた模様。

12日間のこのコースには、初めての生徒と古い生徒(再受講生)が存在する。先生は、「古い生徒はこの場に残り、初めての生徒は自分の部屋で瞑想をしなさい」と言っていたらしい。この先、英語が聞き取れずこのようなパターンを繰り返す。

昼ご飯の時間になり、無言の食事の時間。お昼の食事はほぼ"ダルバート"というカレー味の野菜のおかずとご飯がセットになったネパール料理。

このダルバートがほかのお店で食べたのと比較しても各段においしかった。あとは、飲み物のブラックティーが最高においしかった。こんなにおいしいブラックティーにはこの後一度も出会えていないぐらい。

合宿終了後に聞いたのだが、ヴィパッサナー瞑想の経験が豊富な彼によると、合宿所の食事には当たり外れがあって、作る人によってすごく不味い場合があるらしい。今回は当たりだった模様。

昼ご飯の後は、再び瞑想。さらに瞑想。夕方に軽食をとって、また瞑想。

夜7時には講話の時間。このときアシスタントに「カム(ついて来て)」と呼び出され行ってみると、日本語の講話CDを用意してくれていて、日本人男性2人もそこにいた。正直、合宿中で唯一ホッとできる時間だった。

この後、再び全員集合し、瞑想をして就寝。

合宿2日目、朝4時に起床の鐘が鳴る。身支度をし、4時半から瞑想開始である。今日は瞑想を始める前にアシスタントに「カム(ついて来て)」と言われ、案内されたのは一番後ろの座席。ヘッドフォンをつけるよう指示され、聞いてみると、昨日よくわからなかった瞑想ノウハウの日本語CDだった。昨日間違った呼吸法をしていたのが分かり、改めて正しい方法にトライ。

このようにヴィパッサナー瞑想は、朝4時半の起床から夜9時30分の就寝まで、食事の時間と休憩時間、講話の時間を除いて全て瞑想、それを10日間行う。

合宿中は3日に1回、私にとって恐怖の時間がやって来る。
先生のところに呼び出されて、「調子はどうだ?」などと聞かれるのである。先生はスーパー巻き舌のインディアンイングリッシュでそれが全くもって聞き取れないから答えられないのである。2回目以降は、耳を澄ませてあらかじめ何を聞かれるのかを準備しておくことにした。(←瞑想に集中していない)

ところで、私の瞑想の調子はどうだ?というと、驚くほどに考え事ばかりしてしまう。それもこれも、この合宿前に私は恋をしてしまっていたのである。彼のことで頭がいっぱいで、全く集中できなかった。あとは、眠気と足の痛みとの闘い。ふと気づくと眠りかけてしまい、(せっかくこの合宿に参加しているのに、寝てしまったら、10日間食って寝てで終わってしまうぞ!耐えろ、耐えろ自分!)と言い聞かせた、何度も何度も。この合宿中、自分を律することができるのは自分だけなのである。

合宿7日目、朝一番の2時間の瞑想。初めて集中でき、眠気にも耐え、足も痛くならなかった。外にでると、霧がかっていたいつもの景色ではなく、青い空と白いネパールの山々がくっきり見える最高の景色が待っていた。頑張ったご褒美だと思った。

合宿10日目、朝の瞑想の後、いよいよ沈黙の時間が解除される。古い生徒が「ナマステー」と言って、私たち新しい生徒は、もう本当に話していいんだと気づき、場の緊張感がほどける。10日間の無表情や仏頂面がうそのようにみんなの顔に笑みがこぼれる。10日間の思いがはじけみんなおしゃべりが止まらない。私はそんな勢いのある英語にはついて行ける訳はなく、美しいベグナス湖を眺め思いにふける。

10日間ほとんど集中できなかったけど、なんとか耐えた。よく頑張ったと自分を褒めた。そんな思いにふけっていると、後ろから「日本人の女性1人だけなのによく頑張った」と、最初に会った日本人男性2人が来て褒めてくれた。久しぶりの会話にうれしくなって目が潤んでしまった。

そんな時間も一瞬で、再び男女別々に分かれてお昼ごはんの時間。女性達のおしゃべりは止まらない。気を遣って話かけてくれる子がいたが、途中から何を言っているのか分からず、その子も気を使って席を外した。悲しい。情けない。合宿が終わるまでこの思いは続いた。

このフリータイムは、ヴィパッサナー瞑想よりよっぽど私にとっては苦行。最高に孤独を感じた時間だった。

さて、12日間の合宿の成果は下記3点。

・忍耐力はやや上がったかもしれない。
→前述したように、集中力は全く上がっていない。
・30年以上お付き合いした口呼吸が改善
→鼻下に当たる呼吸を意識したため。
・視力が一瞬ながら驚くほどよくなった気がした。
→毎日目をつぶり、スマホもない生活だったため。

12日間の合宿中の10日間の沈黙の時間。人によっては、"10日間も何もしない"ことがもったいないと感じるかもしれない。しかし、人生において"10日間も何もしないで、瞑想だけに集中できる環境”がとても贅沢であると私は感じた。

ただ私は、英語が聞き取れず間違った解釈をしていた可能性があるので、機会があれば日本で再度受講したいと思う。

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※2016年5月1日~5月12日 ヴィパッサナー瞑想10日間コース
「Over30女子バックパックでアジア周遊」

いただいたサポートの使い道は今後の旅資金とさせていただき、皆様に旅情報や体験談を共有させていただきます。