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読書感想文〜推し、燃ゆ(宇佐美りん)〜

実家には納戸があった。(納戸と言っても、若い人は分からないだろう。大きめのクローゼットと言っていいのか)
ティッシュやトイレットペーパーなどの日常品が雑多に入れられていたが、納戸のメインは、本棚。天井に届きそうなほど高い本棚には、父の愛蔵本が綺麗に並べられていた。
父は読書家で、様々な本を読んでいた。夏目漱石、森鴎外、藤沢周平、司馬遼太郎、浅田次郎、椎名誠、重松清・・・。高校生の頃、納戸で山田詠美を見つけたときは、思わず「え!?」と声が出た。「放課後の音符」だった。ジャンル問わず、様々な本が集まる納戸は、自分にとって、楽園だった。
父はあまり納戸に入ってほしくなかったようだ。直接的に「入るなよ」と言われたこともある。黴臭い納戸で、父の目を盗んで読む本は、この上なく面白かった。

小学6年生のとき例の如く納戸に忍び込み、ある小説を読んだ。三島由紀夫の「金閣寺」だ。全く意味が分からなかったが、胸の中でドス黒い何かが迫ってきた。言葉で言い表せない恐怖を初めて感じた。今思えば恐怖というか、狂気に近いだろう。時代は違えど、「推し、燃ゆ」にも、同じようなものを感じた。正確に言えば、狂気と救済だ。


芥川賞受賞作だ。説明はいらないでしょう。

圧倒された。上から見下ろされているような感覚。それでいて、現代社会を飄々と批評してもいるよう。
読んでいる途中で、息苦しさを覚えた。あの納戸の黴臭さだ。誰かに「おすすめの本は?」と聞かれても、この本をおすすめはしない。多くの人が求める「面白さ」を、この本は備えていない。芥川賞受賞作と聞いて飛びついた人は後悔したのでないだろうか。

綿棒を拾った。

最後の一文。ここに救済を見た。散らかった部屋の中で、綿棒を選択するのだ。その後を暗示するかのような描写で、物語は終わっている。爽やかさはまるでないけど、遠くに光が見えたような見えないような感じ。

最近、こういう作品を読んでいなかった。すごくいい刺激になった。あの黴臭い納戸で、「金閣寺」「蝉しぐれ」「坂の上の雲」を読んでいた自分が、フワッと戻ってきた感じがした。

自分の表現力では、「面白くはないけど・・・、面白い!」という、何とも下手な言葉でしか表せない。「推し、燃ゆ」は作者の二作目らしい。次の作品もとても楽しみです。

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