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howmilesaway 6

 見るのが嫌になっちゃうようなあざをそれでもちゃんと見つめて、注意深くクリームを塗ったら私は下着を身につけてそのままガウンを羽織った。今日はカーニヴァルの初日だ。多分ハナも気合を入れてくるだろう。さて、私もどんな格好をして行くか考えなくちゃ。

 ファッションは好きだ。メイクや服やアクセサリーは、間違いなく私の魅力を高めてくれる。それは私にとってちょっとした魔法なんだ。お気に入りの服を着て、綺麗なメイクをして外に出ると、ママが繰り返すこの街この街って話とか、胴体のあざのこととか、ちょっと忘れられる。だから身支度する時間は楽しい。

 いつもだったら朝シャワーを浴びて、服を着てメイクをして、でそのまま一日中過ごす。だけど今日はカーニヴァルだ。みんなお昼頃から準備を始める。もう一度シャワーを浴びて、ちゃんと服を選んでまた一からメイクする。特別なドレスコードがあるわけじゃないけど、いつもみたいなカジュアルじゃなくて、ちょっとドレスアップしてくる人がほとんど。とは言えちゃんとしたパーティーとかじゃないからその正装具合もほんとにちょこっと、お気持ちだけって感じのものだ。要するにみんなが「普段する精一杯のおしゃれ」をしてくる。みんなの実力百パーセントのおしゃれを見るのも、実はカーニヴァル初日の楽しみ。毎年ハナとにやにやしながら見物する。スクールに入学して間もない頃からファッションに興味のあるませた子どもだったハナは親が経営する美容室に置いてあるファッション雑誌を読み漁っていて、道ゆく老若男女を見ては大人顔負けのコメントをしていた。そうそう、カーニヴァル初日はメイクも見もの。普段はやらないような派手なメイクをする人もいっぱいいる。十三歳のとき、ハナとお揃いで顔にキラキラのラメをつけてカーニヴァルに行ったのが懐かしい。二人で一緒にいればとにかく最強で、自信が溢れてきた。とっても楽しかったあの頃。

 化粧水やら乳液やら美容液やらを顔に塗って、下着姿でクローゼットの前に立つ。さあ、何を着ようか。頭をフル回転させて考える。

 今日はシャツとジャケットでちょっと暑いくらいだったし風も生ぬるかったから、夜だってこと考えても半袖のTシャツとかに軽く何か羽織る、って感じで十分かもしれない。それにミニスカートなんて合わせたらお祭りっぽくていいかも。別に自分の足に自信があるわけじゃないけど、ミニスカートってなぜかテンションが上がる。履くだけでプリティーな女の子になれちゃう気がする。いつもはハンサムなテイストが好みだけど、今日はちょっとガーリーなカジュアルスタイルにしてみようかな。それなら白地に大きな赤いロゴが入っているちょっとタイトなTシャツに、ブルーデニムのミニスカートを合わせる。ミニスカートは裾がプリーツみたいになっててちょっと広がっていて、ガーリームードな私好み。私はタイトなTシャツが好きで、色々持ってるしよく着る。ぴたっとして体のラインを見せるTシャツは、下半身より肉付きが少ない上半身を見せることによって私を華奢に見せてくれる。密かに私は、タイトなTシャツを着ることは胸があんまりない人の特権だと思っている。胸がないとぴたっとした服を着てもあんまりいやらしい感じにならないし、なんだか「ヘルシー」な印象を与える。もしハナみたいにグラマラスな人がこんなのを着たら、あんまりセクシーで男も女も胸から目を逸らすのに必死だろう。それも魅力的でちょっといいなとは感じる。コーディネートに戻るけど、ポイントにルーズソックスを履いてみても可愛いんじゃない?ルーズソックスはハナと私の間でブームになっているアイテムだ。なんてったって足を普通より細く見せてくれる優れもの。ガーリーを壊さないためにシンプルな白地の厚底スニーカーを合わせる。だけどそれだけだとなんか靴下と靴で白白!ってなっちゃってメリハリに欠けるから、靴紐だけ赤にして重心を合わせる+Tシャツのロゴの赤とリンクさせる。このまんまでも十分可愛いけど、私にはちょっと甘すぎるから今日着てたブラウンのジャケットで全体を締める。これで完璧だ。指先の赤いネイルとも相性ばっちり。私は鏡の中でくるりと一回転してみた。さっきの憂鬱な気持ちは消えている。そして私は鏡の前に座り込んで、今度はメイクの時間だ。

 

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