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【ベトナム旅行記④】断食ブッダが空腹に沁みる

 朝6:00頃、自然に眼が覚めると、同部屋の家族は既に居なくなっていた。どこの駅で降りたのだろうか。最後に挨拶くらいしたかった。まあこれでこの部屋は僕のものとなった。気を使うことなく採寸してスケッチ。最小限の空間に機能が詰め込まれていて、美しい平断面。人はこれだけ小さな空間でもぐっすり眠れるのだ。なんなら昨晩より快眠だった。

泊まった部屋の採寸スケッチ

 朝7:00頃にハノイ駅に着く。1時間くらいの遅れがそのまま朝まで残っている。急いで遅れを取り戻そうという焦りなど、全く感じられない。ハノイはパラパラとザーザーの間くらいの雨。腹ごしらえに駅前の屋台でフォーを食べる。そういえばベトナムに来て初のフォーだ。シンプルに美味しかった。客は皆当たり前のように、机の上のカットライムを取り出して、自分で搾っていた。どの席にも小さいゴミ箱があり、絞ったライムやティッシュなどを投げ込む仕組み。

雨宿りと朝ごはんを兼ねる。約250円

 スケッチを描きすぎて、持ってきたノートのページが無くなってしまったので、ノートを探すことにする。ありがたいことに目的地に向かう途中で、文房具と新聞とちょっとした飲み物を売っている、何でも屋さんを発見。手頃な大きさのノート(約90円)を購入。美術館等が開くまではまだ時間があったので、同じ場所でコーヒーをいただく。ベトナムコーヒーもこれで3杯目だったけれど、どれも安いし美味しいしで最高。ベトナムに住みたくなるくらいだ。他に席があるのに、何故かおじいさんと相席にされる。目だけで挨拶をして一言も交わさなかったけど、このおじいさんのことをなんとなく好きになった。

アイスコーヒーお茶付き(約120円)と現地爺

 9:00頃に文廟(孔子廟)(Văn Miếu – Quốc Tử Giám)へ。入場料40k。ハノイでかなり有名なお寺っぽい。タクシーに乗るたびに、ここは行ったか?と聞かれた。英語だとtemple of literatureというらしい。学生と親の組合せがたくさんいて、何やら熱心にお願いをしていた。多分学問系の神様なのだろう。入口は南方に一つだけで、本殿に着くまでに沢山の境界を跨がせるようになっていた。段々と俗世と距離ができていくアプローチがとても良かった。

(↓後から調べたもの。1000年以上前に建立したとは思わなかった。)

1070年に孔子を祀る文廟を創建し、その後1076年に文廟の裏にベトナム最古の大学「国子監」が建てられ、学問にご利益がある場として地元受験生にも人気のスポットです。

https://www.tour.ne.jp/w_review/HAN/sightseeing/spot/114325/
建物も一つの境界のように機能するのが良かった
平面図も展示されていた。左から右へ進む。

 そのお寺から、道路一本跨いで北側の美術館へ。10:00頃だったと思う。入場料は40k。学生だと20kだったため魔が刺して、学生です!と言ってみたら、「学生料金はベトナム人だけなのよ、ごめんなさいね。」と言われてしまった。こちらこそごめんなさい。
 期待通りの大ボリュームで、ベトナムの陶芸、戦後絵画、現代絵画、宗教美術、現代彫刻が展示されていた。立体物が好きな自分は、陶芸と仏像に時間をかけて3時間ほど見た。フエの素晴らしい寺院群や、この美術館の仏像の充実具合を見ると、ベトナムは仏教王国らしい。帰ったらベトナムの宗教観についてもう少し調べよう。

陶器ゾーンのスケッチ
お腹が減っていたことも手伝って、断食ブッダ像にものすごく感動した。右はカバー写真の像。
これほど美しい千手観音像まであった。この美術館の目玉商品らしく、常に人に囲まれていた。

 13:00頃に退散。大満足で昼飯を探す。目についたローカル料理店でまたもフォー。1日2フォー。胡椒が効いていて、量もたっぷりで美味かった。
 カブタクシーを捕まえて、100kと提示されたところを45kまで値切って、人類学博物館へ運んでもらう。運転手がカッパを取り出したのでちょっと期待したけど、自分だけが着たのち、ほら乗れ!と言われた。

 14:00頃に到着。中央に円形平面の建物があり、ベトナムの各地方の展示がある。南側には半月平面4階建ての建物があり、東南アジアの各地方のものを展示している。architecture gardenという名前の大きな庭には、原寸大の伝統的住居が展示されており、内部空間を体験できる。この大ボリュームな全体地図を見ながら、今日の残り時間はここに使うことを決心して、ゆっくりと回る。

 ベトナムも台湾と同じで、各地に〇〇族がいて、その地方毎に特色のある文化が形成されていた。祭事の道具・衣装、日常の道具など、素材は似通えど、同じベトナムとは思えないほどのヴァリエーション。それもそのはず、現在のベトナム社会主義共和国ができたのは、ベトナム戦争後1976年の出来事。それまではベトナムは南北に別れていた。国家という括りがどれほどの意味を持つのか分からなくなってくる。今回の旅行は、ベトナムに行ったことないし行ってみよう!くらいの気持ちだったけれど、回れたのは僅か2都市。ベトナムという国家のほんの一部分だし、今回行けなかった南側は、たった50年前までは別の国だった。

 台湾でも民俗学関連の事物を沢山見たけれど、ここで見たものと、催事に使う道具の顔つきが似ていたり、紋様に共通のモチーフがあったりした。違う国でも共通点があり、同じ国でも違いがある。地球は繋がっているなんていうとありきたりな結論だけれど、最近はそんなことばかり考えてしまう。no baundaryという老師の言葉を思い出す。

 思わぬ収穫だったのは、アフリカのものまで展示されていたこと。それらは、もっと原初的な形をしているように感じた。目鼻立ちがなめらかで、両生類っぽい顔つきのものがあり、映画『もののけ姫』のだいだらぼっちを思い出した。自然の神様という雰囲気。今まで殆ど見たことがなかったのもあり、とても興味を惹かれた。

アフリカ各地のもの

 それらを見ながら突然、アフリカ大陸にも数年後に行っているだろうな、と思った。台湾に来てアジア圏まで広がった好奇心の水脈が、アフリカまで繋がった。

 そんなことを考えながら見ていたら、雨が弱くなってきたので、庭の実物大建築を見にいく。

異様な立面に心惹かれる

 かねてより目をつけていた、背の高い住居に飛び込む。階段梯子がかなり急だったこと、柱が想像より太かったこと、平面的にちょっと太っていることなど、いろいろ発見があった。それにしても、これほどの気積が何故必要なのだろうか。当時のベトナム人にとって、生活と祈りが密接に結びついていたんだろうと想像する。住居と集会所と礼拝所を一緒にしてしまったよう。

平面・断面・詳細スケッチ

 他にも水中に柱を建てた反り屋根のものや、奥行きがものすごく長い切妻屋根の住居など、見所が多かった。本来なら交通の便が悪い田舎まで行かないと見られないこれらの住居が、一気に見られる点で、この美術館の価値は高い。ただ、当然ながら一軒ずつしかないため、特殊解のように見えてしまうのが勿体無いと感じた。当時の現地には、これらの形式の住居が主流だったのだから、差違と共通点を見ることで、その形に合理的な意味を見出せるはずである。やはり展示でしかなく、ここに生活の跡はない。

 そんなこんなであっという間に閉館時間の5時。人類学博物館を出ると、入るときにもちょっと言葉を交わしたジジイがいる。彼がドライバーみたいなので鼻をほじくっているときに眼が合って、笑ってしまったのだ。僕が出てきたところを目ざとく見つけて早速声をかけてくる。まあいいかと思い彼に頼むことにしたが、それが失敗だった。

【ここから愚痴なので飛ばしても大丈夫です】
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 ことの顛末はこう。ホテルまでと頼むと最初200k要求された。(来るときと距離は同じくらい)話にならないと違う運転手を探そうとすると、いくらなら良いのか?と聞いてくる。50kというと、安すぎるよ〜遠いから〜とか言いながら100kは?80kは?とだんだん下がっていき、結局50kになって了承を得た。つまり最初騙していたってことだよな?と思いながら、やけに馴れ馴れしく接してくる運転手と適当にやりとりした。目的地への道を間違えるし(わざとか?)、到着したあと100k渡してお釣りをもらおうとするも、お釣りがないからとそのまま立ち去ろうとする。ふざけんなと、ちょっと大きい声で、「僕は50kって言った。あなたはOKと言った」と説明しても、遠すぎたよ〜みたいなこと言ってくる。彼は通行人三人くらいに声をかけて、両替を持ちかけるもみんな首を振る。なんとか100k札を取り返し、近くの商店でハイチュウを買って崩して、60kを渡してなんとか和解。Thank you my friendと言われたけど、無視した。
 人に対して怒りの感情を持つと、かなり疲れる。100円そこらの違いで消耗する体力にしては、割に合わなさすぎる。
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【愚痴終了!】

ここで得た教訓は、
・カブタクシーの運転手とは馴れ馴れしくしない
・値段を先に明確に伝え、それにぴったりのお金を用意する
・値切りすぎると面倒なことになるので、やばいなと思ったら断って違う人を探す
という3点。これらに気をつければ、問題ないだろうと思う。

 ホテルに着いて、先ほどの戦いの疲れと、携帯の充電をかねて、しばし休憩していた。まるで何もかもやる気が失せたように携帯をいじっていた自分に急に気づき、折角ハノイにいるのにと気を取り直し、夜道を散策してバインミーのお店にきた。Googleマップの評価が高かったから来たのだけれど、写真を撮られて、Googleに載せて良い?と聞かれる。これは自分で高評価つけているパターンか?と警戒したが、もう口をつけてしまっているし遅い。しかも看板を指差して、値段が書いていないものを頼んでしまっていた。自分の不注意に呆れる。ビールまで頼んじゃったし…。100kまでだったら払おうと思いながら恐る恐る値段を聞くと、45k(約280円)だった。これ(バインミー)が25で、これ(ビール)が20ね。とのこと。疑ってごめんなさい。人から騙されそうになったあとは、いろんな人を疑ってしまう。人に優しくしようと思った。特に旅人に。

値段も味も最高でした。納得の高評価。
写真これしか残ってなかった

 財布を確認すると、もうあまり残っていないことに気づく。お金は結構節約したつもりだったけれど、どこでそんなに減ったのだろうか、と考えていたら、思いついたこと

①ベトナムの物価があがっている。
コロナ以前のイメージ(ネットで事前に調べた物価感)より全体的に高いと思う。

②日本円の価値が下がっている。
よくある文句に、VNDのゼロ二つとって2で割る、という簡易な計算方法があるらしいのだけど、(つまり10kだったら50円くらい)レートで計算すると、ゼロ二つとって0.7で掛けるくらいが妥当そうだった。半分が三分の二になるのだから、結構大きい。

③ベトナム人は日本人のことをお金持ちだと思っている。
(特にタクシー運転手に)ちょっとばかしぶんどっても問題ないだろ、と思われている気がした。
の三つが要因だと思う。日本神話はとうの昔に終わりを迎えている。

 そんなだったので食後のコーヒーは諦めて、ホステルに帰って就寝。ところでこのホステル、安いわ部屋は広いわアメニティ使い放題だわで最高だった。ハノイへ行くならおすすめです。
Trang Tien Hostel

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