AIに人間を判断できるのか?

 就職情報サイトのディスコの調査によると、過半数の就活生がAI選考に拒否反応を示したという。

記事では、その理由として、「人とAIとでは、落とされた時の納得感が大きく違うようだ」と指摘されていましたが、その背景にあるのは、AIに対する不信感、『AIに人間を判断できるのか?』という根本的な疑問だと思います。もし私が就活生なら、「AIに俺の何が分かる?」と疑問に感じるだろうし、もしかしたら、AI採用を実施している会社は敬遠するかも知れません。

2/12付の記事『AIの死角(中) 不透明な「思考」に怖さ 判断基準の解析難しく』を読んだ時にも同様のことを考えたのですが、私は、AI採用の落とし穴を次のように考えています。

(1) AIの思考(処理過程)のホワイトボックス化はまだ開発途上で、ブラックボックスのままだと、AIがどう

してそのような人物像を割り出したのか、その理由が分からない。理由が分からなければ、十分な根拠あってのことなのか、全くの偏見なのか、採用する側にも、就活する側にも分からない。分からないまま事を進めていいのか?採用する側にとっては将来の企業業績にかかわる重大事を、就活する側にとっては人生にかかわる重大事を……。根拠不明で採否を決定する事には倫理的な問題がなかろうか……

(2) AIの精度はデータの質にかかっており、精度が未熟なAIに人物像を判定させれば、必然的に偏見と

なる可能性は高まる。人物像を推定できるほど精度が高い、という事をどうやって保証するのか?

(3) 忘れがちなことだが、AIには人の常識がない。決定的なのは、常識がないので、常識に基づく推理を

働かせて行間を読むという事が出来ない。ところが、人の真意というのは、行間に現れる場合が多い。つまり、AI面接官は、人の真意をつかみきれないままに人物判定をする、と言うことになる。言外の意味をくみ取らずに、正確な判定ができるのだろうか?

(4) 人の面接にあっては、感情というものが外せないファクターとなる。例えば、応募者の緊張をほぐして、

応募者が自分の姿を100%出し切れるように持っていくとか、逆に、きわどい質疑応答で本音を引き出すとか……。面接で相手を見極めるという事は、最終的には、単なる情報のやり取りではない、感情のせめぎ合いになる。感情というものも含んだコミュニケーションを通さないと、本音は浮き彫りにならないと思う。AIにそこまでできるだろうか(感情以外にも、表情とか、しぐさ、書類であれば、筆跡、書いてある文字から受ける印象など、問題は多い)?少なくとも、就活生の側からは、AIが相手では、何も読み取れない……

(5) 仮にAIが書類選考・面接で高精度に人物像をつかめたとしても、逆に応募者がAI採用に疑問・不安・

不審を感じて、応募を取りやめたら、それは、とりもなおさず競合他社に優秀な人材が流れるという事につながる。AIが人を判定するのもよいが、人(応募者)の方は人の方で、そんなAIを、そして、そんなAIを使う企業のあり方を見極めようとしていることを忘れてはならないと思う。

(6) 仮に優秀なAI採用のシステムがあるとして、そのシステムを自社に合ったシステムにカスタマイズす

るのは難しくなかろうか?例えばAIに自社の『社風』をマスターさせて書類選考・面接に臨ませようとしても、『社風』というあいまいなものをどうやってAIに学習させるのだろうか。逆に『社風』をインプットしてしまうと、『社風』にとらわれることなく採用したいと思うような新鮮な人材は選から漏れてしまう。

どう考えても、私には、人間を判断するというタスクは、AIにはなじまないように思えます。

企業がAI採用を導入する理由に、一つは「人と時間の効率化」があるようですが、『人間を判断』する作業は効率化が難しく、高効率になればなるほど取りこぼしが増えそうです。また、もう一つの導入理由である「選考基準の公平性確保」についても、公平性云々以前に、AIの判断が短絡的ではなく偏見でもないという保証がなければ意味がありません。それこそ、公平に偏見に基づいて人物を採用することになりかねません……

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27805270X00C18A3XXA000/

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO26803390R10C18A2TJM000/

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