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『天使の翼』第6章(31)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「第二に、出発は、男爵にも分からないよう、今夜のうちに出港する」
 ……確かにそれが良いのだろうけれど――
 「でも、それだと、男爵が心配しないかしら――わたし達が悪の手下どもに攫われたんだと」
 「うん。でも、脱出を成功させるには、味方をも欺かなくてはならない――これは、譲れないんだ」
 「……」
 「では、こうしよう。今夜の宴席で、僕は、目顔で男爵に頷いて見せることにする――男爵は、聡明な人だ。その時は分からなくとも、僕たちがいなくなったと知ったら、きっと察しがつくはずだ」
 この言葉を聴いて、わたしは自分を納得させることが出来た。男爵の聡明さに乾杯!
 夜間飛行便の手配は、わたしが行った――公的な手段が取れないのなら、チケットの手配なんて、自由民のわたしには日常の延長でしかない。
 計画立案力のある……ごめんなさい。シャルルみたいな口の利き方をしてしまった……段取りの良いシャルルのおかげで、今後の探索のポイントは押さえてあったし、歌のことも決まっている。そして、ここミロルダで、いったんわたし達の消息を絶ち、姿を変えてアクィレイアに乗り込むことも……。注意しなくてはならないのは、携帯端末で通話はしなくとも、電子マネーを使う度に、その店舗の端末と取引銀行の情報センターとの間でデータのやり取りがあるということ――実際には、仮に携帯端末の登録番号・暗証番号が知れたとしても、情報センターのセキュリティーを破ることができるとは思えないが――、そして、チケットは、全くのでまかせの偽名で購入したけれども、そこには推理の入り込む余地があるということだ。ちなみに、ワープ航法時にチェックされるのは、「その人が本当に本人か」ではなく、乗船した人物と下船した人物が同一人物であり、出港時と入港時の員数が厳密に一致していること。その為に、チケットの確認は当然として、精密な体格スキャンが行われる。あくまで聖薬の消費量の確認であって、出入国管理とは違う。厳密な確認作業の伴う出入国管理それ自体、帝国の自由主義的な理念に従って、少なくとも銀河帝国法典施行領の域内ではほとんど実施されていない。チケットに申告された通りが記録に残されるだけだ……
 どんな困難な状況にあっても、それに対応する、大きな計画、小さな計画が立っていれば、気持ちをそれに集中して、乗り切っていくことができる。計画――それは、嵐を乗り切るための海図のようなものだ。


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