スマホ文化とリアル文化、相克から融合へ

 この記事【ネットの光る才能、映画で輝くか 東宝が発掘へ】を読んで、ネットとリアルが融合する現象があらゆる場面で進行する、第4次産業革命の時代の潮流を改めて感じました。

 現在進行形の第4次産業革命は、第3次産業革命に始まったインターネットに、さらにIoTとAIというイノベーションアクセラレータが加わって、あらゆるモノがインターネットにつながり、ネットとリアルの融合が加速していく時代です。

ネットとリアルが融合していく中で、例えば製造業の場合は、『モノづくり』のあり方が、UX(ユーザーエクスペリエンス)と結び付かないプロダクトアウトでは成り立たなくなり、モノにサービスをセットして供給する、『コトづくり』が求められるようになります(製造業のサービス化)。

●プロダクトアウト=UX(ユーザーエクスペリエンス)と直結しない・・・従来の『モノづくり』 『モノづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト●ユーザー参加型=UXと直結・・・『コトづくり』のビジネスモデル 『コトづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト+IoT+AI              =モノ+サービス(モノとサービスの融合)

 よくネットとリアルの『対立』という事が言われますが、それは、あくまでベンダーサイドから見た、ネット企業と既存企業の競争関係の事であって、ユーザーの視点では、ネットとリアルは対立しているものではなく、使い分けたり、ミックスしたりして使うものです。最大のUX(ユーザー・エクスペリエンス)は、ネットとリアルの融合によってもたらされるのであり、したがって、企業にとっても『ネットとリアルの融合』は不可避かつ不可逆の潮流なのです。

このような『ネットとリアルの融合』は、製造業に止まらず、ECサイトとリアル店舗、コンテンツ提供者とキャリア、教育など、社会のあらゆるフィールド(分野)の、あらゆるレイヤー(階層)に渡って進行していくと考えられます。『ネットとリアルの融合』は、インターネット・IoT・AIというテクノロジーで可能となり、UXというウォンツで加速する、とも言えます。この状況から、いくつかの点が指摘できそうです――

① ネットとリアルを繋いでUXに応えるソリューション(サービス)を開発できる力が重要である。② 自社でネットとリアルを繋ぐソリューションを開発できる企業には優位性がある。開発したソリューションを自社で使うだけでなく、外販することも視野に入る。③ 自社でネットとリアルを繋ぐソリューションを開発できなくとも、明確にUXをデザインできれば、外注ないしオープンイノベーションの手法で乗り切れる。④ 他社のために『ネットとリアルを繋ぐソリューション』を開発する事を専業とする企業には大きな需要がある。したがって、ネットとリアルの融合が進んでも、IT企業という業界はなくならないのではないか。

――つまり、第4次産業革命の時代には、最も大切な『ネットとリアルを繋いでUXに応えるソリューション』を、①自社開発する企業、②他社に開発してもらう企業、③他社のために開発するのが専門の企業、この3類型が現れると考えられます。

 ①だけが生き残るのではなく、②も生き残れるのは、ソリューションの土台となるUXデザインの斬新さ、『尖ったアイデア』こそが最も大切だからです。そして、②のような存在があるので、③の存在もまた必要になります。そして、これらの企業が複雑なエコシステムを形成して、資本・技術・システム・文化・人材・思考法など、あらゆるレイヤーに渡ってネットとリアルの融合が進行していくと考えられるのです。

それでは、スマホ文化とリアル文化(既存の文化)も融合できるのでしょうか?

まず、スマホ文化とは何か、私なりの定義では、「情報の行き交う通信網はインターネット、情報をやり取りするデバイスはスマートフォン、そして、最も身近な情報の媒体が動画となるのが『スマホ文化』である」、と考えます。言うまでもなく、『スマホ文化』は、若者を中心に急激に広がってきています。そして、このネット・スマホ・動画によって作られる『スマホ文化』は、5G(第5世代移動通信システム)の登場によって、さらに広く深く浸透する勢いです。5Gによってもたらされる大容量化・超高速化・低遅延化といった性能によって、『スマホ文化』の技術的な基盤がより強固なものになるからです。そのようにパワーアップした『スマホ文化』が、圧倒的に魅力的なコンテンツ、サービスを生み出すことで、5Gの普及に拍車がかかるとすれば、まさに『スマホ文化』と5GはWin-Winの関係にある、と言えそうです。

つまり、来たる5Gの時代にはそのキラーコンテンツともなりうる『動画』こそ、スマホ文化のコアです。このコアとなる『動画』が融合できれば、それが懸け橋となって、スマホ文化とリアル文化の溶解が起きるかも知れません。

一方で、スマホ文化とリアル文化が、あたかも世代間の断絶のごとく、分断した状態で『相克』し続けるのか、それとも『融合』できるのかは、スマホ文化とリアル文化との間に文化交流が起こせるか、という事と同義です。文化の交流とは、互いに互いの文化の中身にインスパイアされ、その要素が混じり合うこと、そして、人そのものの交流が起きることではないでしょうか。そして、この場合の『人』とは、クリエーターと受け手であるユーザーです。受け手が、異なる二つの文化の両方に価値を認めて二つの文化を使い分け往来する事、クリエーターが、自分のスキルを磨くため、あるいは純粋にもう一つの文化の持つ価値に惹かれて二つの文化を往来する事は、歴史的に見て、人間の本質的な行為、本能だと思います。

 それ故、スマホ文化のコアである動画の分野で、記事にあるように、伝統的な映画産業がネットからの才能取り込みを模索することは、単に映画産業の生き残りをかけたオープンイノベーションという域を超えた、スマホ文化とリアル文化の融合へと繋がる貴重な第一歩である、と私には思えました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31940120Z10C18A6TJC000/

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